第19話 謀略の王妃
「秘密の部屋……?」
「はい、ファヨン様が使っていたあの部屋、屏風の後ろに扉があって……」
ダヘは怯えていたが、ジアンに説得されて、知っていることを全て話してくれた。
「ファヨン様は、私を身代わりにして、いつもそこから後宮を抜け出していました。最初は二年前、私の背がファヨン様と同じくらいになった時です」
聞けば、ダヘの母親は陸家の使用人。
父親はファヨンの祖父だ。
ダヘはファヨンにとって年下の叔母ということになるのだが、幻栄国では母親の身分によって子供の身分も決まる。
叔母ではあるが身分は低く、小さい頃からファヨンの身の回りの世話をさせられていたという。
「扉を見つけたのは、それよりもずっと前なんですけど、そこまで頻繁ではなかったです。でも、二年前、私の目元が自分に似ていると気づいたファヨン様は、私にファヨン様の振りをさせて、よく後宮を抜け出していました。それでもともと子供の頃から呪いとか魔術とかに興味があったので……その秘密の部屋で、王妃様————当時の王妃様を呪う儀式を始めたんです」
「王妃様を……!?」
「はい。王妃様が邪魔だから、呪い殺してしまえと考えたようで……それで、その呪いに生き血が必要だからと、私の首を切りました。この傷は、その時つけられたものです。もともとは小さい頃に怪我をしてできた傷だったのですが、同じ場所を同じように切れば目立たないからと……」
ダヘは首に巻いていた布を外し、ジアンに見せる。
よく見ると、首元には複数の傷跡があった。
「呪いだなんて信じられなかったのですが、王妃様は見る見るうちにお痩せになり、体調を崩されて……お亡くなりになりました」
(先の王妃は病死したと聞いていたけど……呪いだったの?)
「でも、本当は呪いなんて嘘なんです。呪われたわけじゃなくて、女官が……ファヨン様についてる女官が、ファヨン様の機嫌が悪くなるのを恐れて、薬を……」
「な、なんですって……!?」
ダヘの話によると、その女官は呪いの効果が現れないと不機嫌だったファヨンを恐れて、下剤を食事に少量混ぜたそうだ。
少しだけ体調を崩してくれれば、それでいいと……
だが、同じように思った女官は他にもいた。
ファヨンの機嫌が悪くなるのを恐れ、何人もの女官がそれぞれ別の薬や毒を盛ったのだ。
「王妃さまが亡くなって、これで自分が正室になれると気を良くしたファヨン様だったのですが、大王大妃にそれを止められて……今度は大王大妃様を……」
同じように、ファヨンに恐怖を感じていた女官が大王大妃に薬を盛った。
もともと高齢であったため、大王大妃はすぐに亡くなってしまう。
そして、今度はミオンの番だ。
「でも、さすがに三度目でしたし女官たちもお互いにわかっていました。話し合って薬を入れるのは一人だけにしました。そうしたら、少し体調を崩されるだけ……だからって————」
ファヨンは痩せていくミオンを見て、また呪いが成功したと思っていた。
しかし、ミオンは中々死なない。
さらに科挙の後、少しずつ距離が縮まって行った二人の様子を盗み見て、焦っていた。
そこでファヨンが取った謀略が、自分が呪われていることにするというもの。
「ファヨン様がやっていた呪いは、人形を使うもので……人形に貼っているものと同じ呪符を呪いたい相手の部屋に忍ばせておくんです。人形の方を痛めつけて……その、釘を打ったり、削ったりするんです。呪文を唱えながら……」
全てが逆だった。
ファヨンはわざと呪いのせいで体調を崩したふりをして、人形は軒下に埋めたのだ。
祭祀課の巫女にそれを掘り起こさせ、巫女は神託を受けたふりをしてミオンの部屋へ。
後宮を出る瞬間に用意してあった血糊を口に含み、吐き出せばより呪いの信ぴょう性が増すと考えた。
「私は、その偽物の血を渡すようにファヨン様に言われて……その血も、私の血なんです。ファヨン様は、これで最後だからと、ミオン王妃様さえいなくなれば、自由にしてくれると……」
「なんて……ことを…………」
もう後宮には関わりたくない。
ファヨンには関わりたくないのだとダヘは泣いていた。
神託を受けたふりをした巫女も、本当なら死ぬ予定はなかったのだが、ダヘがファヨンに渡すよう言われた血糊の中に毒が混ぜられていて、巫女は本当に死んでしまった。
後宮から逃げるように女官をやめたダヘ。
詳しい事情は話さなかったが、ダヘの父親である陸家の当主がこの家に住むよう手配してくれたのだという。
ファヨンには、ダヘは遠くの島へ移り住んだと言ってあるそうだ。
「それで、その秘密の部屋ってどこにあるの?」
「陸家の本邸の地下です……ファヨン様が使っていた部屋の下に階段が……」
「本邸の地下……」
千里眼を使って屋敷の中はのぞいたが、地下があるとは思わなかったジアン。
ファヨンが犯人である証拠が、そこにあると知った。
(許せない……)
ジアンはすぐにでも乗込みたかったが、ダヘと話している内にすっかり暗くなってしまい、怒りを抑えながらこの日は家に帰る。
陸家の本邸は、別邸と違って人が多い。
どうやって証拠を掴もうかと思案していると、血相を変えたジソンが帰ってきた。
「姉さん!!」
「ジソン!? 仕事はどうしたの!?」
「それどころじゃないよ!! 僕、呪い殺されるかもしれない!!」
「…………は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます