第2話 夕日に染まる街

あの日握ってくれた手は、イチゴみたいすごく真っ赤に染まっていてとっても冷たかった。でも、今でも忘れられないあの温かい笑顔を見た時からずっと、苺ちゃんの顔を見るたびにまたあの笑顔を見たいと考えてはやくも半年が経とうとしていた。だけどあれから苺ちゃんがあのとびきりの笑顔を見せてくれない。それどころか普通に目を合わせようとすると、すぐ目を逸らされてしまう。何か嫌われているのかな?と思い

「どうしたの?体調悪い?」

「ううん、ぜーんぜん!元気だよ!」

とわざとらしくポーズを決めているからますます怪しい。好きな人でも出来たのだろうか?それを考えると心臓が鉛のように重くなる。

普段は別々の高校に通う一年生で、私と同い年で同じ身長のショートヘアにイチゴのアクセサリーをつけたかわいい女の子だ。出会ってから毎日駅の改札で待ち合わせて一緒に登下校をしていたけれど、どうしてもあと一歩距離が縮められないでいた。苺ちゃんは学校では全然モテないと言っていたけれど絶対に嘘だ。あんなかわいい子をクラスメイトが放っておくはずがない。

今日も気になるので彼女の恋愛事情を聞いているうちに改札まで来てしまった。ここまで来たら改札を出て正面の交差点で解散になる。

「それじゃまたね」

いつもと同じ街、いつも同じ挨拶でお別れする。いつも家に帰ればLI◯Eや通話でお話ししているけれどもっと一緒にいたい。本当の気持ちはいつも隠して

「また明日」

って返して手を振る。本当はまだ話し足りないけれど、嘘をついてまた寂しくなってしまう。

(「あと少し」て言えたらいいのかな)

もうすぐ秋になっちゃうっていうのに、苺ちゃんの笑顔が見られないのだろうか。交差点の信号が青に変わったので、トボトボと歩き出した。

その時突然後ろから誰かに腕を掴まれた。振り向くとそこには、顔を真っ赤にして息を切らす苺ちゃんの姿があった。

「い、苺ちゃん!?どうした・・・」

「まだ美沙希ちゃんと一緒にいたいよ」

「も、もう、苺ちゃんはいつもいきなりだよね・・」

「だ、だめかな・・?」

夕日に照らされているからかいつにも増して苺ちゃんの顔が真っ赤に見える。こんな至近距離でお願いされたら我慢できるはずがない。

「それじゃ家にくる?」

すると苺ちゃんは真っ赤な顔を更に真っ赤にして

「そんないきなりお家なんて…///美沙希ちゃんこそいつもいきなりなんだよね」

ちょっと膨れて見せる彼女の頬に思わずキスをしてしまった。

「!?ちょっと美沙希ちゃん!?」

「いきなりごめんなさい。でも最近の苺ちゃんは最初会った時みたいに思いっきり笑ってくれないから、誰か好きな人が出来たのかなって気になっちゃって…

学校のお友達とかのお話を聞いてるとどうしても我慢出来なくて…嫌いになったのならごめんなさい。」

しばらく何も言わず苺ちゃんは私の目を見てキョトンとしていましたが、やがて私の涙を指で拭いて言いました。

「ほら、顔を上げて?可愛い顔が台無しだよ?」

そう言われると、私が顔を上げた瞬間、苺ちゃんの綺麗に夕日に染まった唇が近づいて私の唇にそっと重ねたのです。

「これが私の気持ちだよ、美沙希ちゃん」

真っ赤に染められているのは私の方なのかもしれません。

私たちはそのまま夕日に染まる街を手を繋いで歩きました。

もうこれからは「また明日」なんて言いません。ずっと一緒なのですから。

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真っ赤ないちご もち桜 @motizakura

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