第八話 好奇心
「ふわぁ……」
ハルは木の上で目覚める。丈夫な枝の上で起き上がり腕を突き上げ、もう片方の手はその肘に当て伸びをする。
朝日はまだ登っていないがそれでも空は、雲が薄く霞んで見える。
ハルは木の枝を飛び降りると膝を曲げ片手をつき華麗に着地する。もう一つ隣の木にアキを呼びに向かう。
「アキ。起きろ。朝だ」
木の下から呼び起こす。下手な過激を与えると落ちてしまうのではないかと心配して、直接呼びに行くことは控える。
「フッ、ンー────今起きた」
アキも目を覚ますと軽くあくびをし意識を覚醒させた所で木を飛び降りた。
「おはよ」
「あぁ。いい朝だな。まだ早朝だがあたりは静まりにかえっているし、清々しい」
朝叩き起こされて仕事に行ってた日々だったから、余計にそう感じられる。
「今日は村に行くんだよね?」
「そうだ。ついでに戦いでボロボロになった服の代わりも拝借する」
「服か。今まで話題にしなかったけど、あなたの服がちょっと気になっていたんだよね」
「一ヶ月前森から出た時に村の外から木をよじ登って、窓に干してある服を貰った」
「なるほど。いい作戦」
拝借……もとい盗むのだが、二人はまるで悪びれる様子はない。
「早速見えた。あれだ」
そう言ってハルが示す先には川を渡る橋の奥にレンガ調の家が立ち並ぶ居住区が見える。石畳が道ゆく場所にびっしりと規則正しく敷き詰められ、硬い石の上だというのに見ていて不快はない。
「おー、あれが。あれが……!」
さしもの仏頂面のハルも破顔した景色だ。アキも一ヶ月前のハルのように感情を湧き立つ気持ちを抑えきれずにいる。
「ハルは村の景色を見たことがあるんだよね?」
「入りこそしなかったがな」
ハルは村の防壁に沿った窓に服を干している家を適当に選んでその側による。
ハルが黄色の粒子で浮かせて、高所にある衣類をとろうとするも、
「ハルはそこで待ってて。私が取りに行くから」
初めてのお洒落な服。アキにも思うところがあるのだろう。ハルもそうであった。余計な世話だったかと思い、少ない凹凸に足をかけ防壁をよじ登って服を取りに行くアキを見る。
「これでいいかな」
干してある衣類を吟味して上下二着選び取ると、下に小さな砂嵐を発生させそれをクッションとして飛び降りる。
「どっちを着たい?」
そう言って右手左手にそれぞれセットを分けるのを見る。細かな差異はあれど基本的なデザインは似通っている。
「では、こっちをもらう」
そう言ってアキの右手から選び取ったものを渡される。
どちらでも良かったが決め手は色だ。どちらも同じ茶色のジャケットだがハルはより色が暗く渋めの方が似合っていそうだと感じたのだ。
アキは残った服を見て頷くと何かに満足して服を着た。俺もボロボロになった服はその辺に打ち捨てて新品を着る。いや、他人のものなのだから中古だがそれでも洗濯もされていて綺麗なものだ。
「いいね。気に入った」
「そうか。何よりだ。では他の村に行くぞ」
「え?なんで?」
「この辺の村は村と思えないほど広々してるが、割と閉鎖的だ。商人でもない限り村人が外に出ることはない。俺たちのこの服が誰のものか一発で見破られるかもしれん」
心配性だなぁ、とアキは呟いたが念には念を入れてと言われ渋々了承したのだった。
歩き始めて数時間が経つ。朝日もその顔を見せ世界を絢爛にそして明瞭にする。川に光が反射し宝石のように輝いている光景を見ながら歩くのは、とても楽しいものだった。どんなに質素な道中でも変わり映えしない景色などないと、二人の目には二人の見たことのないものばかりが目に飛び込んできた。
「あ!村があるよ!前の村に劣らず綺麗だね」
形式は似ているものの、この村には村の特有の持ち味がある。防壁で囲まれた村の入り口の先はまるで別世界のようだった。村からは長閑な喧騒が聞こえる。
「羨ましいな。私もこういうところに住んだみたい」
「そうだな。でもこの領地の中心の街なんかはもっと人が栄えてこう……表現できないほど物流も盛んだし娯楽も多いそうだ」
「行ってみたいの?」
「行ってみたい」
見たことのない世界に想いを馳せながら村を入り口をくぐる。
「うわ。すごっ」
キョロキョロと色んなものを見回し、感動するアキ。
「いい村だな」
二人は歩きながら、最初に何しようかと練り歩いていると、立ち並ぶ店の一つから声をかけられる。
「おーい!そこの兄ちゃん!姉ちゃん!」
手を振って呼び込まれたハルは何用かと、少し警戒しながらその店に寄る。
「どうした?」
「あぁ、いや見ない顔だと思ってな」
「……朝にお使いを頼まれてな。寄り道をしてたところだ」
「おお。その歳でマセた兄ちゃんだな。なら、どうだ?一つ記念に買ってかないかい?」
そういう店主の店にはガラス細工の装飾品が、テーブルに置かれているのが見える。
「そうしたいところだが金がない。別の客に声をかけてくれ」
じゃあな、と背を向けようとしたハルに店主は慌てて呼び止める。
「待った待った!分かったよ!そんな些細な事で二人を追い返しちゃあ、おじさんが悪者みたいになるじゃあないか。特別に一つタダにしてあげるよ。そこの姉ちゃんもよければ一つ好きなのをとっていってくれ」
「なんのつもりだ?まさか危険なものでも押し付けようとムッ!────」
「ありがとう、おじさん」
アキはハルが余計なことを口走る前に手で口を押さえ、遮る。
ハルは横目に何かを訴えかけてきているが、アキは気にした様子を見せないで商品を見ている。
店主はそんな二人の仲睦まじい姿にホッコリした様子を見せている。
「私はこれにする」
そう言って選び取ったのは赤と青が入り混じった綺麗なガラス玉だ。首にかけれるように穴が開けられ糸も通っている。
「……では俺はこれにしよう」
ハルは渋々商品を摘んだ。白と黒が調和した模様が特に目を引いたのだ。
「ねぇ、おじさん。この村にはなにかおすすめのものとかある?自慢の景色とか」
「そうだな。姉ちゃんたちも同じ領の村に住んでんならそこまで変わり映えはしないんじゃないかねぇ。強いて言うなら……この村の川は澄んでいて川の底まで透き通って見える。下流で魚がたくさん泳いでるのも見れるぜ。あぁ、でも景観保護や生態系保全のため釣りは村長の許可をもらわないとできないから、見るだけだけどな」
「ありがと。折角だし道草を楽しませてもらうよ」
「おう。また縁があったら寄ってくれい!またのお来しを!」
最後まで快活で朗らかな人物だった。ハルの知る大人とは大違いで本当に、人間かどうかと疑ってしまうほどだ。でなければやはり何か、腹の中で黒いものを抱いていたかとしか考えつかない。
「ダメでしょ、ハル。人の好意は素直に受け取らないと」
「好意?」
「簡単に言えば優しさだよ。何も世の中は金だけで回ってるわけじゃあない。こういう人同士の交流が何より大切なんだ……と物語の本に書いてあった」
「それでも不思議だな。俺たちと繋がった縁など吹けばちぎれるものだろう?優しさなんて曖昧なものが本当に世界を変えられるのか?俺からすれば眉唾なものだ」
「まぁ、物語の本より綺麗な世界ではないし、実際脚色もあるだろうけどあの人が害を加える理由なんてないでしょ?」
「さぁどうだか?新人類なる者が潜んでる世界だ。あれも一般人に扮した刺客かもしれん」
「……臆病な人」
「臆病なのではなく警戒心が旺盛なんだよ。臆病者が大人たちに反旗を翻せるはずもあるまい」
ハルはチクチクと刺すようにアキに、反論する。
「無鉄砲で単細胞なやつから見れば、そうなるのかもね」
「……聞き捨てならない言葉を耳にした。まるで私がバカみたいな言い方」
「まるで、ではなく実際そう言ったつもりだ」
ぐぬぬと取っ組み合いになりそうなほど、睨み合う二人。先に折れたのはアキだった。
「……こんなことしても時間の無駄。折角の観光の気分を台無しにしたくない。それにここで折れた私はとても大人」
「お前からふっかけてきたくせに。なに得意げになってんだか」
村の景観や美しい川の流れに、好奇心を満たせた二人は、満足げに村を出た。
「楽しかった」
「同意だ。しかし最大の口惜しさは金がなく何も購入できなかった事だな」
「そうだね。でもみんなどうやって稼いでるんだろう?」
出稼ぎに行こうにも俺たちはまだ子供。雇ってくれるところなどない。かと言って子供だけで運営できる組織なんてないし……
どうしたものかと、途方に暮れる二人。
「そう言えばさ」
アキが普段にまして深刻な顔をしている。相当まずい事態に置かれていることに気づいたのだろうか?
「今日のご飯どうする?……というより当分の死活問題」
ここは森ではない。乾パンは急いで出てきたため置いてきたし木の実もなければ、生えてる雑草など食えたものではない。
ハルは盲点だったとばかりに嘆く。
「盗むか?」
ハルの口から出た言葉にアキは勿論、自分自身でさえ驚いていた。気づけば自然と口から漏れた言葉。しかし振り返ればハルたちは他人の衣類を奪っている。今更罪悪感などなかった。
「それはない……と言いたいところだけど、それ以外に思いつく手段がない」
「俺たちは既に衣類を盗んだという前科がある。いやそれ以前に奴隷という身分から逃げ出したな。重罪も重罪。今更窃盗を働いたとて俺たちの罪の重さからすれば微々たるものだろう」
「じゃあ結成する?団員2名の盗賊団」
「そうしよう。だが昼に活動するのは好ましくない。できるだけ速やかかつ緻密に計画を練り実行する必要がある。いくら罪の重さが変わらないと言っても正体を隠しておくに越したことはない。決行は夜だ」
「今日の昼食は抜き?」
「別にそれくらい今までもあっただろう」
「そうだけど……早く普通の生活をしてみたいな」
「領主の食客とやらに目をつけられてる間は、平穏などない。いっそのこと国外逃亡でもしてしまえれば楽なのに」
忌々しげに呟くハル。そんなことが簡単ではないことはわかってる。関所で身分も確認されるだろうし身分証明書なるものもない。戸籍だってこの国に登録されてるかどうか……
であれば能力を使うことも考えたが、同じく不正入国をよしとしない能力持ちがいないとも限らない。
「でも誰を襲う?」
「商人が一番いい。この郊外じゃ小規模の商業組合しかないから馬車に護衛もつけない極めて不用心なやつが多い」
「それでも村に商人が来るだけ、珍しい事らしいけどね」
「流石は王都に続いて、栄えてると言われる領地だ。その裏ではカスみたいな強制労働と搾取があることを民衆は知らんのだろうな」
ハルは理不尽が嫌いだ。のうのうと生きて何も知らずただ生きてるだけで幸せが享受できる村人とて憎悪……いや嫉妬の対象だった。思わず悪態をつくのも無理はない。
「馬車がいなければ道中にあった村からなにか、盗もう」
そもそも商人が夜に道端で休憩する場面に出くわすかどうか分からない。
「ひとまず日が暮れるまで適当に散歩しよ」
夜まですることもない。あの森からできるだけ離れつつ外の世界を堪能できるなら、一番いい事だと頷く。
道中他の村は見かけられなかったが、砂利道を歩き、時には道から外れたところに咲く花を見に寄り道をし、またある時には休憩がてら河岸で平らな石を拾い水面に投げつけ、水切りなどをして遊んだりもした。
まさに平和そのもの。ハルは危機が過ぎ去ってないのにも関わらず味わえてしまっているこの自由奔放な時間に僅かながら不安を抱いてしまう。いつ奪われてもおかしくない命、時間。
ハルはそれを好奇心で上書きし脳の片隅に追いやるようにとにかく楽しむことを優先した。
そんな時刻は過ぎ去り気づけば、太陽はその身を隠し世界が闇に侵食し尽くされる。
「いつのまにか夜だよ」
「そうみたいだな。そろそろ標的を探しに行くか」
ハルは肩にかけていた外套を一枚アキに手渡した。
「不思議な服」
真っ黒な装飾で凝ったデザインもない。夜に紛れるべく生まれた服なのかと二人が思ってしまうほど。
この外套は、二人が寄ったポツンと川の橋を渡った先にある古屋にあったものだ。
ハル達はなぜこんな辺鄙なところにあるのかと気になり中に入った。中から音などの気配もなかく、扉も普通に空いていたためそこに入ってみたのだ。とても生活するようなところとは思えないほど調度品も何もない。簡素な古屋。
ただ正面の彩鮮やかなステンドグラスだけが唯一俺たちの気を引いたものだった。木板のフローリングを軋ませながら横に続く部屋も入ってみるも、全て家具や道具を撤去してしまったみたいに何もない。そんな中隠されるように部屋の片隅にあったのがこの服だった。
「結局あの古屋はなんだったんだろうね」
「さあな。最早あそこに興味はない。どうでもいい事だ」
二人は上から潜るように服を着て袖を通す。
「ブカブカすぎる」
見るからに大人用。頭もあっていないが服なんか布が余り大きさがまるで合っていない。
「着方を変えよう」
ハルは何か思いついたように一旦服を脱ぐと袖を首に回し、キツく結ぶ。マントみたいに羽織る事にしたのだ。無駄にでかいおかげで前方の胴体も隠せるしこれが一番いい着方だとハルは思った。何より動きやすいし特に走りやすい。
いいねとハルの発想を採用しアキも真似するように着る。
「道中で見かけたあの馬車……まだいるみたいだ」
ハルが少し道を歩いて目を凝らせば、向こうに止まる馬車が見える。馬を休め、馬に跨っていた商人も地に足をつき馬の頭を撫でてなだめかしている。この辺に村がなかったから仕方なくここで休憩してるのだろうか?
ハル達はお互いに顔を見合わせ、頷くと左右に分かれて馬車の方に向かった。
こっそり馬車の荷台に到着すると、商人が気づいてないことを確認して、荷台の扉を開ける。
中が暗くてよく見えないが、箱やその中にある何かの影形が認識できる。何かの食糧だとハルは勘付き喜んだ。
ハルは中を明るくするため、粒子を出現させる。ほんの少しこの狭い空間が仄明るかなる。
「流石売人だけあって揃えがいいじゃあないか」
ハルは馬車にあった麻袋に果物や野菜を詰め込んでいく。持ち運べる数に限りがあるため全てを持ち出さない。なるべくいろんな種類の野菜を詰め込むとハルは荷台から出る。
外で異常がないか待機していたアキに親指を立て作戦成功の合図を送ると、ハルはすぐさまその場を離れた。
「早速上手くいったね」
「当然。ヘマなんて犯すはずもない」
ハル達はその辺の丈夫そうな木によじ登り枝に座る。
もはや木の上が休憩スペース兼寝床だ。
「見た事ない果物もある」
「それは……確かリンゴと言ったか?俺も実物は初めて見る」
赤い身の果物。色褪せることなく艶のいい熟したリンゴだ。初めての果物に興味をそそられつつも恐る恐るアキが口にする。シャリっと耳障りのいい音と共に咀嚼し飲み込む。
「メッチャ美味い」
そこまで絶賛するほどかと、ハルも片手のリンゴを落とさないように握り、実を齧る。
「メッチャ美味い」
ハルも同様の反応を示した。甘くて酸味溢れる果実。今まで食べてきたものよりとても美味しい。いや、これこそが本当の美味なのだと初めて食の世界が開けた。
「今まで私達は何を食べてきたんだろう」
感じたことのない舌の幸福感にアキは興奮している。
「逆に一般人に奴隷の飯を食わせたらどんな反応をするんだ」
一方ハルは食事でさえも至福のひと時となる村人たちに、嫉妬していた。頬が緩んでしまうほどの幸福感など味わったことない。二人にとって初めて味覚が目覚めた瞬間だった。
「他の果物はどんな味がするんだ?」
「明日の朝食分は残さないとね。食べすぎないでよ」
ハルはそんな忠告を聞いていたのか聞いてなかったのか、色んな種類の野菜類を手にする。
アキはそんな姿にしょうがないなと足をブラブラさせながらハルとの食事に付き合った。
それから五日が経ったある日。
「最近は盗人が出るみたいだし……怖いなぁ」
「この辺じゃそんな事する意味なんてないのに。何が目的なんだろうねぇ」
「しかもその盗人の姿は誰も確認できていない。噂だと気づいたら店の商品や家の中の金品、商人の馬車から食料までなくなってるみたい」
「おっそろしいたりゃありゃしない。空き巣とか用心しなきゃ」
「まだ人殺しとか起こってないし凶悪犯罪者とかじゃあないだけマシだけど……騎士さんたちも早く捕まえてくれないかねぇ」
通りすがりの村人の話だ。事件現場から逃走の真っ最中。先の村にも既に情報が回ってるらしい。
「そんなに噂になってるんだ」
「流石に似たような事件が各地で起きれば、関連性も疑われるか」
「そう言えば私たち……当てもなく歩いてるけど大丈夫なの?」
「この方角に進むにつれてすれ違う馬車が増えている。村の警備性も上がってるし馬繋ぎの場所も規模が大きい。商人の受け入れが活発な証拠だ。そろそろちゃんとした経済圏に入ると思われる」
そして警備性が上がってきているということは、二人による窃盗も通用しなくなる頃。そろそろ限界だろう。
「ホント!?」
「あまり教養のない奴の推測だ。当てにするな」
もしかしたらぬか喜びになるかもと念の為釘を刺す。
「あれ?」
突如としてアキが素っ頓狂な声を上げる。
「どうした?」
「ここの道……なんか泥濘んできてない?」
雨も降ってないのに何を言い出すかと思えばと、半信半疑で地面を見るハル。
「本当だ。何で?」
そこでハルは怖気にも似た鳥肌が立つ。
この感覚……何かがまずい!
気づけばハル達をはじめとした周囲が泥濘始まる。泥が更に水分を含み足が徐々に沈む。
「おい!ここから脱出────」
ハルがアキに声をかけようとしたところで、まるで誰かに足を引っ張られるように沼と化した地面に引き摺り込まれる。
な、なに!?
足を上げようとするも引き上げられず、腰、胸部、肩へともがくこともできず、沈み込む。
「ハル!何が起きて……!」
「能力使いだ!クソ!」
ハルは咄嗟に空中に赤い粒子を出現させると、頭頂部を通して腕へと粒子を移動させ土中でそれを解き放った。
抑えめの爆破音が鈍く鳴り、周囲の土が体から退く。なんとか腕を引き摺り出し地面に手をつき這い上がる。
重たい胴体に続いて、片足を出し地面を踏みつけ力を込めるともう片方の足も抜ける。
ハルが抜け出した時には、アキはすでに沈み込んでいた。
アキを救出すべく手のひらを地面に向け、爆破させようとしたその瞬間、背後の粒子に何かが衝突したのを感じた。
「チッ!勘のいいガキめ!」
既に泥化した地面は元の硬質を取り戻している。ハルは飛び退きながら襲いかかってきた男と相対した。
「なんだアンタ?」
粒子を辺りに出現させながら目の前の敵に問う。
「俺は領主様の食客の一人。デザエール。お前を殺す男だ」
「また食客か。しつこい犬どもめ……!」
ハルはデフォルトのなんの色も持たない輪郭だけ判別できる透明な粒子を赤色に変色させる。
「それでアイツをどこにやった?」
「そりゃ地面の中さ。奴は今頃もう一人の仲間が相手をしているだろうねぇ」
薄汚く笑うと、奴は何のためにつけてるか分からない額のゴーグルを目の部分へと装着した。
「そしてお前の相手は俺がする。死ぬ覚悟を準備しな」
そう奴が自信満々に台詞を吐くと、地面に手をつく。
また泥化すると思い、咄嗟に跳躍し回避しようところで予想外の攻撃が繰り出される。
足元の地面がこちらを殴りつけん勢いで隆起したのだ。
「何!?」
ハルは胸の前で腕を交差させそれを防御するも吹き飛ばされる。
「チェックメイトだ」
奴が何か言った。悪い予感がし首を空中で捻る。すると、ハルを横に挟み込むように土の壁が迫ってくるのを目視する。
ハルはそのまま両側から接近する壁に押しつぶされた。
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