第七話 惑星と恒星
「ゼェゼェ……た、耐えたぞ……!」
あの烏の自爆特攻を受けたにも関わらず、耐えた。両腕を前に突き出し手のひらを焦がした奴の姿からは、確かな直撃を感じられる。
ハルは手応えがあったのだが思ったより、本体にダメージが入らなかったことに疑念を抱く。
「あの自爆を受けて耐えるとか……お前は鋼鉄で、できているのか?」
「……そんなわけないだろ。自爆しきる前に、八咫烏を消失させたんだよ……フゥ……」
肩を上下させ、呼吸を荒くしながらそう答える。確かに奴が能力解除できるまでの猶予を、与えてしまった。もっと近くに壁を張って貰えば良かったとハルは後悔する。
「だがこの作戦を失敗したのは、痛手だな。もう同じ手は通用しないぞ。残念だったな」
息を整えた奴が不的な笑みを浮かべ、挑発する。
確かに作戦は失敗したが……それは奴の苦し紛れの言葉に過ぎない。
「残念なのはお前のおつむだ。同じ手を喰らわないつもりなら、烏特攻はもう使えない。それ以外の大した攻撃手段を持たないお前に、勝ち目はあるのか?」
それでも奴は、まだ笑みを浮かべたまま。
あの余裕そうな面。まだ何か奥の手があるのか、それともハッタリか。
「お前達も俺には触れられないんだぜ?どうするって言うんだ」
「バカが。俺はもうお前の弱点を見破っている」
「何を言うかと思えば…‥この完全防御。お前達がどれほど高火力の技を繰り出そうが、突き破ることはできんぞ」
「果たしてそうかな?」
会話に夢中で奴は気づいていない。
ハルは手を後ろに組んでこっそり、ある物を赤い粒子を使って削っている。
奴を防御する不可視の壁の効果は俺たちとそれにまつわる能力の受け入れ拒否。加えて風が薙ぐと奴の髪が揺れるのは、風があの領域内に入ることを許されてるから。ならば、他の自然の物質や物体も同様のはずだ。
奴の真後ろの木を見やる。後数分も立たず奴の元に木が倒壊する。そしてダメ押しに付与した褐色の粒子。アイツはあの両手で超質量の物体を抑え切れるだろうか。
指先をちょいちょいと動かして木の幹を粒子で、削ると木が傾き、乾いた破砕音が鳴り響く。
「今度はなんだ!?」
「じゃあな」
俺は今度こそ奴に、別れを告げる。奴の周りの岩は解除していない。後は木に奴を押しつぶされるのを待つだけ。
木は一点に集中する圧力に耐えきれずにバキバキと音を立てながら、奴の下に倒れる。
「クソ!この岩は何なんだ!この場から抜けれん!」
手で押しても無駄だと、奴は思い知ったのだろう。木の方向を見上げながら両手を、大口開けた顔の上に覆い被せた。
丁度その時だった。
「そこの木の侵入は、許可しない!」
なにやら遠くで凛とした命令口調が、聞こえたと思えば倒壊した木は、押しつぶすはずだった目の前の人間には触れず空中で静止した。
「誰かが来た」
アキが見上げる先。まるで手品のように、空中から地上へ滑り落ちてくる人間を発見した。
「危ないところだったな。ハンプソン」
「済まない。助けられたな」
空中から突如として現れた謎の男。吟遊詩人のような赤いつばの大きな帽子にマント。どこか怪しげないでたちだ。
「ったく勘弁してくれよ。俺が間に合わなかったら君死んでたぞ?」
「……ッチ。まぁそうだったかもな」
不貞腐れた奴に揶揄う男。親しげな様子で気のおけない中だと、一目でわかる。
「誰だよアンタ?」
「俺かい?」
助太刀しにきた男は、こちらに向き直ると背筋を伸ばし丁寧に挨拶をした。
「レゾルブ男爵閣下の食客が一人。序列14位のフィナリカ・ロンペルトだ」
俺は黙って奴の顔を睨む。
「あれ?ノリが悪いな。名を聞いたからには、そちらも名乗るのが道義だろう?」
「知るか。いきなり現れた変態に名乗る道理はない」
「かー!最近の若い子は!礼儀を知らないね。俺だって好きでこんな恥ずかしい口上を、しているわけではないのに!」
唾を飛ばす勢いで、何故か怒り狂う男。俺はわけも知りたくないと思いながら、口を開く。
「……改めて言う。行き遅れの頭手遅れ変質者に名乗る名はない」
「……本当に礼儀がないったらありゃしない!まぁ、いいさ」
フィナリカと名乗った奴は、怪物使い……漸く名が知れたハンプソンに何かを促した。
「え!?撤退!?何故だ!俺はまだやれるぞ!」
「そんなナリで何言ってんだい!弱点を見破られた今、アンタじゃあの子達に勝つなんて無理無理の無理!」
不服そうに抗議を続けるハンプソンの肩に、手を置く。
「いいかい。勝機ってのは、波のように揺蕩うのさ。俺が前に教えたろう。自分に最も希望が近づいた瞬間に、その光を手繰り寄せろと。その勝機は少なくとも今じゃない。それだけのこと」
尚も納得のいかない、様子を示すハンプソンにため息をつきながら、説得を続ける。
「俺が君に付与した能力だって稼働時間の、終了がくる。外の騎士たちの避難もひと段落ついたし、ここで中断でもいいんじゃあないかい?それにあの子達だってどうせこの森から、出られやしない。リベンジなんてすぐできるさ」
ずっと慰められ、諭され続けたハンプソンは、そんな自分が愚かしく思ってきたのか、ここで初めて承諾した。
「分かった……おい!お前もこれで勝ったと思うなよ!最後に相手の屍を踏み締め、笑ったやつが勝ちなんだからな!」
「これ以上負け犬具合が、板について醜くなる前にさっさと行けよ」
「ッッッ!!絶対に殺してやるからな!」
最後の最後まで捨て台詞を残して、奴は鷹モドキを召喚すると、突然やってきた男を背に乗せて去っていく。
去り際、さっきのふざけ具合が嘘だったように、冷たい眼差しでこちらを見下ろしてきた怪しい男を見逃すことはなかった。
「あの男……危険な香りがする」
「逃げられたというより、見逃された気分だ」
食客と言うだけある。恐らく、今の俺たちより数倍強いはずだが、あのハンプソンとか言う男の復讐心を優先してか、率先して俺たちに害をなす気はなかったらしい。
もし戦闘になれば……負けていたかもしれない。それだけの不穏な雰囲気がやつにはあった。
「14位であの圧か」
「まだ私たちの望む自由まで遠いね」
そうだなと俺は返すと粒子を出現させ、森の外に放つ。
「やっぱり俺たちは通れない」
見えざる壁に阻まれる粒子を見て、俺たちはこれからどうするべきかと、顔を見合わせた。
「多分森全体をバリアで覆ってるはず。ここに閉じ込められてる」
「あの男が来る前に、ここの脱出手段を見つけるか……或いは次に来た時に奴を殺すか」
殺したとして、能力が解除される保証はないが、どちらにせよ前者の択を採りたい。奴との戦闘はまだ俺たちには早い。
「でも森に騎士たちはいないみたいだし……移動は楽だよ」
確かにやつは騎士たちを避難させたと言っていた。それがどこかは分からないが、さっきから人の気配はしない。この周囲にいるのは少なくとも俺たちだけだろう。
「ハァ。私はあんまり役にたたなかったしな」
肩を落とし落ち込むアキをハルは励ますわけでもなく、ただ見つめる。
「多分能力を扱うセンスはあなたの方が、格段に高い。あなただけで正直乗り越えられたと思う」
「感情は長年俺が付き合ってきたテーマだ。能力発現に伴い可視化されたそれに、向き合う機会が増えた。お前も言っていただろう?」
「そうだけど……」
初めて会った時のように、顔を俯け目を合わせないアキ。俺はその姿に失望の念を抱きかける。
「いつまでもウジウジするな。目障りだ。俺はお前がもっと骨があるやつだと思って、俺の共犯者にしたんだ。自分が語っていたことを思い出せ。あの雪を積もらせた能力が再び使えるようになるには、砂嵐のトラウマを乗り越えないといけないと言っただろ。過去に打ち勝てないうちは、お前は奴隷のままだ」
突き放すように冷酷に告げる。こいつの志がこの程度で折れるなら、見捨てる。そのつもりだった。
「……」
何も言わずただ沈黙を貫く。俺はそんな姿に目も当てられなくなって、この場から去ろうとした。
そんな俺の手をガシッと、アキが掴んだ。先ほどとは違い野望に満ちた目。
「言ってくれる。私は人形じゃない。ちゃんと温かみを持った生きた人間。私は私。もう運命の奴隷じゃない。私を見捨てなくて良かったといやでも思い知らせる」
その言葉を聞いて、ハルは握られた手を強く握り返した。
「それでいい」
ハル達は、栄養補給と戦闘での空腹を満たすために拠点に戻り乾パンを食す。それと並行して作戦会議も行っていた。
「奴らが戻ってくる前に、あの見えざる障壁を突破することができるのが最も好ましい」
「何か手立てがあればいいけど」
実際目標を言葉にしたのはいいものの、その達成までは尋常じゃなく難しい。
「一応抜け道がないか、確かめてみよう」
携行食を食し終えたハル達はこうして、外に調査に乗り出した。
数時間後。太陽が西に傾き夕暮れが雲を幻想的に浮き彫りにする時間帯にまで調査が及んだが、
「ま、抜け道なんてあったら苦労しないよね」
指定の時間内に特定の場所で落ち合う二人。
結果は惨敗。二人で手分けしてそれぞれ、正反対の方角に確認しに行った。目に見えない障壁に突き当たったところで、前方だけでなく地面を掘って下から行けないか、上から抜けれないか、左右に抜け道がないか、超威力の技で打ち抜けないか、できる限りことを尽くしたが何の成果も得られずじまいだった。
一つ分かったこととしてはその形状。粒子が壁に沿って曲線を描いていたのを鑑みるに、森の一部を半球に囲っていたのがわかる。地下まで含めたら完全な球体の可能性もある。それは二人の共通認識であった。
「やっぱり自発的に出るのは無理そう」
「……それは困るな」
そもそも俺の破壊属性を孕んだ粒子が、遮られるというのはどういう了見だ?あの粒子は破壊しきらなかったとしても多少の効力は時間さえかかれば、必ず現れる。そして、能力同士でも干渉する事は確認済みだ。つまりこちらの発動条件を満たしていない。粒子は何にも触れていないことになる。
ハルはずっと透明な壁だと表現してきたがその実態は物体ではなく電気的だったり、磁気的だったり微粒子レベルに関与する、物質の副次的作用が主だったものなのではと考えた。そういう意味では俺の恐怖を付与する粒子と性質は似ているかもしれない。
であれば、俺の能力でも似たような真似ができそうだなと言うのは余談だ。
「今の私たちだとあのバリアを突破するには、あまりに非力」
「奴らがまた来るまで、待つのか?」
「今回はあの派手な格好の男が来たけど、次回はそうとは限らない」
「それだと俺たちは最悪一生この森から出られないかもしれないではないか」
あのバリア使いがこの能力を解除する理由はない。こちらとて永久に捕えられてやるつもりはないが……はて、どうしたものか。
「もう気づけば周りも暗い」
「夕方か。日も沈みかけてるし洞窟に戻るか?」
「……私はまだ納得してない。もう少し調査を続けたい」
通り抜けることの叶わない森の外を眺めている。目の前に望むべきものがあるのに、手に入らない。そのもどかしさがアキを駆り立ててるのだろうか。
「そうか。じゃあ夕飯持ってきてやるからお前は先に行っとけ」
「分かった」
そう言うや否や善は急げと駆け出すアキ。が、幸先悪くズルっとこけかける。ハルはその頼りなさげな背中を見ながら大丈夫かと不安になった。
「ハァハァ……無理」
ハルは見えざる壁に背を預けて足を伸ばして座り、必死に汗水垂らして苦悩するアキを見守る。
砂嵐や土塊を同時に、それも大量にぶつけてもびくともしない壁にアキは、半ば狂乱でタックルや蹴りを繰り出して突破しようとしていたが、当然無理だった。
「よっこらせ……」
アキは、全身の力を抜くように見えざる壁に背を引きずりながら俺の隣に座り込む。
「収穫はあったか?」
分かりきった質問を敢えてハルは揶揄うように聞いた。
「私の渾身の前蹴りも効かないほどの、耐久力があることが分かった」
「そうか。無駄な苦労だったか」
俺は空を見上げた。時刻はすでに夜であると、その暗く塗りつぶした厳然たる空が語っている。何も先が見通せない未来。まるでこの空が今の自分たちの置かれた状況を表してるかのよう。
「洞窟に戻るか?」
「もう少し夜風に当たろうよ。こうやって空を見上げるのも悪くないでしょ」
隣のアキはまだ呼吸を整えてる最中。
先ほどまでの狂乱っぷりにより疲弊して、これ以上動きたくないように見える。
「お前はあの星を見て何を感じる?」
俺が突拍子もなくそんな話題を降ると、アキは目を点にする。
「あなたがそんなこと聞くなんて珍しい」
「そんなことは聞いていない。質問の答え方を知らないのか?」
アキはそんな横暴な言い方を特に気にした様子を見せない。ハルの気分に水を指すことのないよう、しばらく沈黙の中考えると努めて言葉を振り絞る。
「……星になれたならこの世界を見下ろせるかなって。特に月とか夜の闇に隠れた真実すら照らし出しそうで。そんなことを考えると少し怖いけど同時に羨ましく思う」
「お前らしい返答だ」
奴隷にこんな素直な感性を持った奴がいるとは、それに比べて俺は……とハルは内心自嘲する。
「運命に縛られた哀れな奴。そう考え始めたのが物心ついて深夜まで労働させられる年齢になった時。最初はただ漠然と1日毎に変わらずその姿を見せる律儀なやつだと思ってた。太陽、月、単位を変えれば季節の区切れでどの星座も同じ時間帯にその姿を見せていた。不思議でしょうがなかった。なぜいつも空に映し出されているのだろうと」
アキはハルの意外な語り部に興味深く耳を傾ける。
「成長してからはそんなことを考える暇もなかったが、感情を追い求めるようになってからは方角や時間を知るために空を見上げる度に周期的に姿を見せるアイツらも何か運命の傀儡として操られる奴隷なのではないかと考え始めたんだ」
ハルは空に向かって手のひらを差し出す。何かに縋り掴みたがってるようにも、手のひらに乗せれるほど矮小なものだと転がしたがってるように見える。
「あんな手の届かない存在でも……この星のように……いやそれより大きいであろう恒星も所詮は物理法則に従うことしかできない。哀れだなと思ったよ。同時に虚しくなった。強大なものに太刀打ちできない。それこそがこの世の法則なんだとしたらどうしようもないではないかってね」
ハルはここで差し出した手を引っ込み一区切りつける。
「でもその実、重力に引っ張られて太陽の周りを周回してるのはこの星みたいなんだ。ある本で学んだんだけど昔は天動説が主流だったらしい。偉い大人たちはこの星の周りを他の星が回っていると信じて疑わなくて他の説の方がどんなに説得力があって実際有力だったとしても、排除してきた」
「地動説だね」
「知ってたのか」
「私も本で読んだ。大人たちは書類仕事まで奴隷に押し付けてたから、識字率が低いことも問題だと子供のうちから文字の読み書きの仕方も叩き込んでた。まぁ、実際あんな奴らがまともな教え方ができるはずもない。ほとんど自習だったけど。その時いろんな本を読んだよ。時にはたまにやってくる商人から本を盗んだりもしてた」
「……どこの奴も同じことを考える」
俺は苦笑いして、少し目を瞑る。
「話を戻すが、それを知った時俺は勇気に満ち溢れるのを感じたよ。思いっきり他者を振り回して弄んでると思われてたやつが実際は振り回されてたし弄ばれていた。我が物顔で威張り散らかしてたやつが本当の奴の強大さを知って萎縮する。そんな絵面が脳裏に浮かんだ。
どうだ?誰かに似ていると思わないか?」
「似てるよ。私たちに。でも私たちはまだそんな星にはなれていない」
「だがらなるんだよ、これから。より巨大で輝く星に。広い世間と比肩すれば……地上を這う今とは違う景色が観れるだろ。そんな話だ」
ハルはハァと短いため息をつき長々としすぎたなと言う。そんな彼も自分の思いを共感してくれる相手がいてくれたからかどこか満足げだった。
そこででもさ、とアキが提言をする。
「無粋なことを言うようだけどそれ私と同じ考え方じゃない?」
「その結論に辿り着くまでの道のりが俺の方が壮大だっただろう。お前の短絡的な思考回路と一緒にするな」
アキはそんな負けず嫌いのハルにふっと微笑むと心の中でこう呟いた。
───あなたは認めたくないようだけど。やっぱり私とあなたは似ている。
決して口にも表情にも出さなかった。そもそも二人は自分の感情を表情に出すことに慣れていない。表情を出したと言っても二人はよく観察しないとわからないほどの変化の乏しさだ。二人は互いを互いに鉄面皮と思っている事だろう。
二人は会話を終え、夜の静かさに身を預けてたその時だった。
「……!」
「いてッ!」
突如として背もたれの消えた彼らは、ハルは片手をつき後ろに倒れるのを回避し、片やアキは思いっきり頭を打っていた。
「あ、空いただと?」
ハルは困惑する。見えざる壁がなんの前兆もなく消えたのだ。また壁が復活せぬうちにと外へ歩き出すと何にも遮られる事なく森を抜けられた。
「どうして急に?」
「思い返せばあの派手な服の男がもう一人の男に能力の持続時間の終わりが来ると告げていた。もしかしたらそうなのかも」
「……そんな失態を奴が演じるとは思えないが……確かに森を覆う規模。何かしらの制約はあったと考えられる……まぁ今は幸運だと捉えておこう」
「初めて自分の足で歩いて、ここまできた」
アキは感慨深そうに、両手を広げると外の空気を胸いっぱいに取り込んだ。
「見て。あそこに水車がある。初めて実物を見た」
好奇心をくすぐられたのか、夜の草原の上で飛び跳ねるアキ。
「見に行こうよ」
「断る理由はない。俺も気になっていたところだ」
俺たちは草原を羽でも生えたのかと見間違う程の軽い足取りで、駆け抜ける。
川の流れに沿ってたくさんの桶が着いた水車が回っていく姿は自然の力を感じられるものだった。
俺たちは外に出れたはいいものの行くあてもなく歩き回る。
「どこか寝泊まりできる場所ないかな?」
「野宿で構わんだろ」
「あなたはそれでいいの?」
「別に。お前に寝首をかかれないように木の上で寝ることも視野に入れていたくらいだ」
「私があなたの寝首をかく理由がないでしょ。私ってまだ信用されてないの?」
「お前の力は目で見て納得できたが、人の内面は目で見ても分からん。お前だからではなく、俺以外の人間を信用できないだけだ。お前もそうだろう?」
「……そうなんだけど、そうじゃない……」
アキは言葉にできないものを頑張って表現しようと、身振り手振り使っている。
「心配せずとも。契約はまだ履行されていない。その間に俺もお前という人間を見極めるさ。なぜそこまで俺に執着するのかとかね」
ジト目で見てくるハルにアキは呆れたように言う。
「そんなの決まってる。それは……お前の命を奪うためだ」
ハルはその言葉を聞いた瞬間、思っきしアキの足を踏みつけた。
「いてててて!冗談!冗談だから!ちょっと場の雰囲気を和ませようとしただけで!あでで!」
「フン!」
こんな場面で言うことでもないし、ハルはアキが冗談を言っていると分かっていたが、それでも期待して聞いていた自分を裏切られムカついた。
グリグリとつま先を踏み躙ったところで気が済み、足を離す。
解放された足をアキは、心底痛そうにプラプラと宙に振る。
「気になるでしょ。そりゃ。前は誤魔化しちゃったけど、同じ奴隷で、同じ能力者で、同じ志を持った人が間近にいたら興味も出るよ。あなただってそうでしょ?」
先ほどの意趣返しだと言わんばかりに、同じ構文を使う。
「確かに興味深い。少なくともこれほどまでに会話を交わしたのは今まででお前が初めてだ」
「ほらね」
「さっきから何なんだ。鬱陶しい。外に出れたからって浮き足立つんじゃあない。まだ危機を脱したわけではないのだぞ」
こうして軽口を叩き合いながら彼らは、夜の道をフラフラと歩くのだった。
零王威風 ジグルス Z4n @zznzun
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