第三話 パルマ

 あれから一週間が経った。依然として騎士たちの捜索は続いているが、段々その数が増してきた気がする。


「このままでは見つかるのも時間の問題か」


 いつあの化け物が俺を見つけ出すかもわからない。俺はそろそろ奴らに打って出ないとこの先厳しいだろうと予感する。


「先手を打ちたいが……この能力といえども騎士全員を相手取るのは、かなり厳しい。せめて各個撃破の状況に持ち込まなければ」


 少年がこの先どう出るか、思い悩んでいた時、集団で走る複数の足音が聞こえた。


「なんだ?何を追いかけている?」


 少年は木の枝と枝とを、軽い身のこなしで次々と渡って様子を見に行く。

 そして見えた。十人がかりの騎士と目の前を走る少女。後ろを振り返り辛そうな表情を浮かべながらもその騎士から逃げていく。


「あの身なりは奴隷か」


「ハァハァ……うくッ……!」


 そこで思い出す。数日前にペアを組んで話していた騎士たちが、俺だけではなくもう一人追っている少女がいたと。少年は、今目の前で苦しそうに足をなんとか動かしている、アイツこそが噂の少女なのだと得心した。


「ふん。だがあいつに構っている暇はない」


 少年は興味が失せたように現場から目を離すと、何処かへと去っていった。



「目には目を、歯には歯をと言う。あの化け物に物理攻撃が効かないのだったら、同じようなこの力なら通用するだろうか?」


 感情を与える粒子……これがどう武器になるかは俺の応用力と理解力次第だ。それに感情を与えるというのも俺の勝手な解釈に過ぎない。直感でそう思ったからであって、本当にそうとは限らない。


「強ち間違ってる気はしないが……むしろこの解釈でないと、力が上手く扱えない気がする」


 この力は精神に大きく左右されるのだと知った。だから一定の強い感情を発露することこそが、進化への条件なのではないかと推測する。


 少年は赤色の光を宙に浮かべて、その辺に落ちてる木の枝に放つ。その光には今まで散々豚どもにいいように使われてきた、憤りをこめた。


「怒りは破壊」


 すると木の枝は、粉々の杮と化し風にサラサラと地に降り積もった。


 次に紫色の粒子。不気味で怪しい光があたりに漂う。そこには自分がこの先生きていけるか、分からない不安や恐怖を乗せる。


「恐怖は……反発力か」


 木の枝を拾い、チョイと指先を近づけると枝はそれを避けるようにして仰け反る。これが中々面白く怒りによる破壊が付与されていないので、普通なら折れるほど、どれだけ海老反りになっても、信じられないしなやかさを示す。俺が指先を遠ざけると元通りに、戻った。能力を解除しても同様だ。


「いや、柔軟性?弾性力?」


 少年は続いて黄色の光を浮かべる。ひと時とは言え、外に出て村を見れた喜びを脳裏に浮かべる。


 小石に当たると、それは宙に浮いて浮き沈みし始める。


「喜びは浮遊。確かに空に飛んでいってしまいそうなほど、軽やかな気持ちだった。

 やはりこの能力は、ある物体に俺の気持ちを共有し、そして動きを限定的ながら反映する」


 少年はこの後も色々な研究を続けた。有り余るほどの好奇心を満たすために。この時だけは騎士たちに追われていることも忘れて……本当に楽しそうに無邪気に試行錯誤するのだった。



 時刻は深夜。少年が自分で丈夫な木の枝にくくりつけたハンモックのようや寝床で静まりにかえっていたとき、頭上に気配を感じた。バサバサと羽音が聞こえたものだから鳥がきたのだと思って目を覚ます。その辺に落ちていた布を水で洗って再利用した。この寝床は寝心地も悪く最悪な寝覚めだった。


 少年は光の粒子で周囲を照らす。

 鳥であった。ただ何か違う。あの時感じた無機質なもの。何より両目の上の額にあるもう一つの目。それが怪しく灯っている。


「ッ!」


 少年は怖気と共に目を覚ました。すると間髪入れず、赤色の光を出現させ目の前の化け物に喰らわせる。

 すると化け物はうめき声もあげずに、翼の一部が霧散した。そこから徐々に蝕むように翼を中心に胸、顔、左翼へと消えかかる。

 最後に一欠片も残らず消えたところで、俺はハンモックから飛び降り、道の見えずらい夜の森を駆ける。


「見つかった!」


 あの時の蝙蝠とはまた別の化け物。だが少年は一瞬であの騎士が出現させた化け物だと勘づいた。


「居場所が割れたなら、先日より多くの騎士たちが捕らえに来るはず」


 であれば前のように鉱山に逃げおおせたとして、むしろ逆に俺が袋小路に追い詰められてしまう。この案は却下だ。


「やるしかないのか……!」


 俺は今や闇討ちする側ではなく、される側。なるべく、広く見通しのいい場所に移動する。


 木々の拓けた場所。短い草や苔が地面から生えているその場所に奴は待ち構えていた。


「よう。お前ならここに来ると思っていたぜ」


「だれかと思えばこの前のバケモノ使いじゃあないか。アンタしつこい。しつこすぎる。アンタは騎士というよりストーカーと言った方がお似合いだ。副業に誘拐犯でも兼業してるのか?」


「ナハハハハ!確かにお前に注目しているという意味ではさながら、お前の言うとおりかもしれんな」


 暗順応と月明かりで、視界が見えるようになってきた時。少年は改めてあの化け物を見る。


 やはり蝙蝠とは別種の先ほど見た鳥。三つの目に鋭い嘴。無骨な趾からは3つに爪が分かれている。まるで鷹のような鋭い雰囲気を醸し出している。


「使えるようになったんだろう?使い手の精神を具現化しこの世に干渉する、新人類と定められる前提の能力───ゼクロス」


「は?ゼクロス?」


 聞いたことのない単語に、首を傾げる。

 だがおそらく奴は俺の能力のことを言っているのだろう。いや、奴の能力も含めた総称というべきか。


「俺やお前の持つ能力の総称だ。別に個人の識別名ではない」


 そう言うと奴はその辺の切り株に腰を下ろす。全くの無防備の状態。少年は奴の意図を図りかねる。


「今回はお前を連行しに来たんじゃあない。交渉に来たんだよ」


 奴は足を組み髪を右に流す。大胆なイメージが染み付いていた奴の余裕のある流麗な所作。ここでも暮らしの違いが垣間見える。


「交渉?お前が、俺に?」


「そうだ。男爵様にお前の話をしたら、大層喜んでいらっしゃったよ。まさか新人類が、奴隷の中で目覚めるとは……とな」


 こいつの話からするに、やはり能力者と言うのは、誰も彼もが目覚めているわけではないとわかる。


「単刀直入に言う。お前も食客として俺たちの仲間になれ。そこは新人類だけの特殊部隊と言ってもいい」


「それはお前の仕える主の、屋敷に招いてくれる……と言う意味か?いいのか?奴隷を招くなんて品格が疑われるぞ?」


「それほどの価値がお前にあるんだよ。勿論食事も、寝室も依頼も生活に必要なことから個人的な、趣味にまで出費してくださる。全てがそこらの貴族では、味わえない高水準の生活レベルが確約されてるんだ。破格の高待遇だぜ?」


「で、そんな美味しい餌までぶら下げて、俺を見事捕まえられたとしよう。お前の主人は俺をどう扱うつもりなんだ?」


「扱うなんてとんでもねぇ。男爵様はお優しい方だ。俺も含め他の食客達も、よくしてもらっている。

 俺は必死で剣の腕を磨き上げてきたが……それでも限界を感じまった。そこで男爵様は俺に高い金払って、専門の指導者を付けてくれた。免許皆伝持ちのかなり箔がついた師匠だ。俺はそこの流派に入れてもらうとな、メキメキと頭角を表していったわけよ。まぁ、これに関しては自慢話だがな」


「お前のどうでもいい身の上話なぞに、興味はない。報酬は聞いた。待遇も人となりもお前の言う通りだとして、俺にどうして欲しいかを聞いてるんだ」


「能力持ちにしてもらうことなんて、一つだろう。その各々の分野で、成果を収めるんだよ。俺は知っての通り、監視や追跡、斥候が担当。他の食客も研究やら、戦闘やら、医療やら自分のしたいことに、熱中している。

 そうだなお前の能力は……あの鉱山の風穴を見るに戦闘から瓦礫やゴミの撤去や処理、それこそ鉱山の開拓指導者として、従事したらいいんじゃないか?」


 適当に当たりをつけやがって。


「どうだ?奴隷時代とは比べ物に、ならない天国だぞ?答えは決まっているだろう?」


「子細断る」


 俺は一息にその提案を、一蹴した。奴は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。本気で受け入れてもらえると思っていたのか?頭の中で花でも植えているのか?


「正気か?これほど魅力的な提案のどこが不満なんだ?」


「提案自体は確かに魅力的だな。当時の何も知らない俺に、持っていけばいい。二つ返事で受け入れるだろう」


「今はダメだと?」


「一つ目に、気に食わないことは今まで奴隷としてこき使ってきたくせに、俺の新しい使い道が見つかると、また搾取しようとしてくるところだ」


「それについては、お前を屋敷に迎え入れた後に謝罪してくださるだろう。お前が元々、両親の借金返済のため奴隷として売られたのは、調べがついている」


 初耳だ。まぁ、あの豚どもが俺にそんなことを話す道理もないか。


「そこだ。気に食わないところ二つ目。謝罪と言ったな。領主にもこちらに誠意が、あると思っていいのか?」


「当然だ」


「ならばこの場にいないのは、おかしな事だな。一介の騎士であるお前を俺によこしたのは、その程度の誠意だったからではないのか?」


「男爵様はお忙しい。そのことも含めて、また別の場を借り謝罪する」


 だったら、こいつに俺を監視させて仕事が片付いた後にくればよかったではないか。よほど俺が欲しかったのか?やはり奴にとって俺は、物でしかないではないか。


「では三つめだ。俺は誰の下にも着くつもりはない。腹が立つんだよ。天上気分で胡座をかきながら、下っ端を高みの見物する奴のことが」


「お前の境遇や過去には同情するが……騎士としてこれ以上主人への、侮辱は許さない」


「なら俺が極度の癇癪持ちなのは、知ってるか?あの場にいたお前なら知ってるだろう。何がキッカケでキレるか分からないぞ?それこそお前の主人に害をなしてしまうかもな。周囲を破壊し尽くして、領主もそれに巻き込んでしまう未来もあり得るわけだ」


 奴は姿勢こそ変えていないものの、気迫が増す。俺を冷たい目で睨みつけている。それを俺はどこ吹く風と言わんばかりに、受け流す。丁度吹いてきた冷たい風が俺の髪を揺らした。


「お前たちもお前たちだ。食客とか言って、大層な称号を貰ってるらしいが、それでも下の人間にすぎない。犬なんだよ。お前らは。領主の。使いっ走りの」


「では、交渉決裂ということで構わないな?」


「言われずとも俺に持ってきた時点で決裂は、確定している」


 俺は自由になると決めた。

 勝者であり続けると決めた。

 自分の思うままに生きると決めた。

 二度と奪われないと決めた。


 あの時……さらに幼い時に見た、領主の顔を覚えている。奴隷に向かってゴミでも見るような見下した面。穢らわしいものとし突き放す舐め腐った態度。本性を知ってなお、下につこうとする奴隷はここにはいない。


「今からお前を、鉱山を爆破し奴隷としての責務から逃れた国家反逆の大罪人として、死刑台に送る!自分の愚かな選択をあの世で悔やめ!」


「犬らしい台詞を間抜けヅラで言って、笑わせるんじゃあない!」


 俺は既に周囲に、光子を浮かび上がらせている。それを奴の元に流し込むように送る。


「もう見ている!」


 騎士はそういうと、自分で顕現した化け物でそれを防ぐ。

 馬鹿め、と内心ほくそ笑んだ。赤い粒子に触れれば、あの化け物が消失することは、確認している。


 しかし予想に反して、その鷹もどきは翼で風を発生させると、光子は吹き飛ばされ無力化された。


「お前の能力は破壊か?奴隷らしい野蛮な能力だ!」


「一回防いだぐらいで、図に乗るな!」


 続いては接近だ。光子が吹き飛ばされるなら直接当てればいい。あの鉱山の時のように。


 俺は奴に接近すると、光子を手のひらに集中させ伸ばすように前へ繰り出した。


 その時、腰部に鈍い痛みが走る。それと同時に俺は横へ吹き飛ばされた。


 俺は立ち上がり、俺に攻撃を喰らわした者の正体を見る。するとそこには、鉱山で見た蝙蝠もどきがいた。


「霊獣が一体しか作り出せないと思ったか?この戦い。言っとくが、お前の方が不利だぜ?この前は本気じゃなかったんだ。今回は殺す気でいく。決して逃しはしない」


 多勢に無勢。少年は舌打ちすると、今度は黄色い粒子を手のひらに吸収させる。その辺の石を掴むと奴に向かって投擲した。


「速い!」


 奴は化け物……霊獣と呼んでいたものに身を守らせる。すると霊獣は頭が弾け飛び、そのまま虚空へ消え去った。


「おいおい。なんだ今のは?」


「死んだら教えてやる」


 黄色い粒子の持つ、特性は浮遊。質量はあるが重力と釣り合う斥力が発生してるのか、それとも重力無視しているのか。不思議なことに落ちることはない。さらにこっそり黒い粒子も吸収し、手のひらに斥力を発生させ投げつける事で反発力も相まって、異常な速度が出ている。

 豪速球が等速直線運動でやつに向かって行くため、威力も分散せずただ投擲するだけで凶器になる。


「ますます惜しいな。お前が底なしのバカでなければと、今年一番悔しい」


「そうか。残念だったな」


 俺はまともに返事をしている余裕はない。動き回りながらの、能力の使用がまさかこれまで体力を消耗させるとは思っていなかった。


「凄まじい成長速度だ。能力発現から一週間ほどでこの熟練度。天才的と言ってもいい。だがお前はまだ粒子状。不完全なんだよ。だから文字通り俺とは居座る次元が違う!」


「不完全……?」


 俺の抱いた疑問疑問など、消化させる暇もなく、騎士がこちらに鷹を襲わせてきた。

 翼を大きく払うように広げると、鳥の茶色い羽毛がこちらに飛来する。


「ッ!」


 少年は、後退しながら身を捩り回避したり、赤い粒子をぶつけて相殺しやり過ごす。とは言えこの手数。見る間に服に切り裂かれその下から血が流れる。

 次々と裂傷が増えていくのをよしとせず、少年は赤い粒子を一つ一つ狙いを定めて相殺するのではなく、目の前に壁を作るように大量の粒子を出現させる。数で訴えかけ相殺し切ると、少年はガクッと膝を折った。


「そんなに無計画に力を使っては、そうなるだろうな。言っておくがその粒子は無制限ではないぞ。それが尽きればお前も為す術がなくなる」


「ハァ……ハァ…」


 認めたくはないが、奴の言う通りこのままではこちらが先に尽きる。短期決戦に持ち込むには本体を叩くしかない。しかし化け物が邪魔だ。


「ほらほらほら!休んでる暇はないぜ!」


 俺は、咄嗟に地面を横に転がる。すると横には、先ほどの羽毛が突き刺さっていた。それを見た俺は固唾を飲み込み、目の前の敵を見る。


 次弾が発射される。俺はそれに対し、必要最小限の粒子で防ぐ方向に切り替える。


 ───粒子は最悪温存しなくていい。このまま追い詰められて、あいつが完全に油断した時。本体の意識に唯一隙ができる。

 そこでぶつかる。あの一撃必殺を。


「オラオラ!どうした!さっきまでの威勢はどこ行ったんだ!?反撃してみろよ!犬っころなんだろう!?俺はよー!」


「くっ……!」


 回避はしてるものの、腕や足の裂傷が増え始める。顔の頬を掠めた時なんかは死を感じたほどだ。あの羽は妙に切れ味がある。

 段々とイラついてくる。だが、ここそういう場面ではない。冷静さを欠けば、死んでしまう。


 粒子がきれる……!仕掛けるならここしか!


 俺は苦し紛れに、奴に突貫する。愚直で蛮勇。バカな選択だと奴は思っている事だろう。今は構わない。その代わりその命はもらう!


「気でも触れたか!?ならそのまま沈めてくれる!」


 俺は先ほどと同じように、化け物に突進され妨害される。そしてそのまま木の幹の方は吹き飛ばされた。


 位置取りは完璧!


 そして木の幹に衝突。だが少年に衝撃はやってこなかった。


 背中に黒い粒子を集めていたのだ。奴に見えないように。そして少年を避けるように木が弛んだ所で少年は粒子をふっと消失させる。すると能力解除に伴って歪んだ木が元に戻る。少年は反発力によって、奴の元に発射された。


「く……ぅ!」


 急激な加速度によって、少年は臓器に浮遊感を覚え苦しむ。それでも歯を食いしばって、赤い粒子を手のひらに吸収させた。


 勝ちを確信していた、騎士は油断から反応が遅れてしまった。声を上げ驚く暇なく霊獣を盾にしようとする。


「……!」


 少年は気合いと共に、掌を奴に向けて放つ。無理な体勢により掌は、狙いが逸れ肩に触れてしまう。それでも少年は作戦を敢行すべく手のひらに集う粒子を直線上に発射した。


 赤い光が収束し奴の内部で爆発が起きた。


「なにィィィィ!!」


 奴は絶叫し、驚嘆している。自らの爆ぜ千切れ飛んだ右腕を見て。少年はそれを見て初めてこの戦いで笑みを浮かべ、勝ち誇ったように言った。


「俺の勝ちだよ!負け犬が!」


 騎士が絶叫する後ろで、少年はズザザザと仰向けになり摩擦を味わいながら地面を、滑る。


「グフ!」


 少年は肺の中の空気を押し出され、脳がチカチカと弾けた。

 落ち着くように、深呼吸すると肺に空気が満たされ、平常時の時と同じく調子が戻る。


「ぬわァァァア!!」


 なおも自分の腕を押さえつけ絶叫する兵士。痛みも計り知れないが、何よりその目は、信じ難いものを見るような、否定したい気持ちが溢れる絶望の目であった。


「ゲホッゲホ!ハァハァ……」


 騎士は絶叫のあまり、むせこむことで平常に戻る。だが髪は乱れ、顔はシワが寄っており、とても持ち直した表情には見えない。何よりちぎれ飛んだ腕と、散らばった肉片が鮮やかに放つ赤血色が痛々しかった。


「やって……やってくれたな!」


「やってやったとも。何か問題でも?お前もその気だったじゃあないか」


 騎士の怒りの目が心地よい。何もできず弱者に睨みつけられる。征服感。圧倒感。俺もあのブタどもからはああ見えていたのか。


「だが絶望するのはお前の方だ!右腕くらい治癒系の能力者に頼めば、再生する。お前は俺の心に復讐の灯火を生んだだけだ!次……次会った時がお前の最後だ!」


「なんだ?俺に殺されにくるのか?わざわざトドメをもらいにくるなんて、変わったやつだな」


 騎士は俺の言葉に、こめかみに青筋を浮かべながら唇を噛む。奴はフラフラしながら鷹もどきを顕現すると奴の背になり、どこかに飛び去って行った。

 あの化け物といえども本体のやつの精神が一気に削られたはずだ。故にあの鷹もどこか小さく萎んで先刻より、覇気が感じられなかった。


「勝利。初めての能力使用での戦闘で、最後に笑ってやった」


 少年は愉悦の表情を浮かべながら、地面に両膝をついた。

 奴の前では消耗し切ってるなんて、おくびにも出さなかっただけで、少年はとっくに限界を迎えていた。緊張の糸が切れたいま、酷使し切った肉体で立てるほどの力は残されていない。

 それでも少年は恍惚とした表情で手で顔を覆い、飛び去るやつの小さな小さな背を見ながら、ただ笑っていた。

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