第84話 トキネVS義経
「ところで、ここでは心に描いた武器が具現化できるなら、刀だけじゃなくて銃も使えるのかしら?」トキネは義経に聞く。
「四賢者とか言いながら、観察対象にもなっているみたいだから飛び道具は駄目みたいだよ」
「どういう線引きなのかしらね」そう言うとトキネは手にした鬼切丸を軽く振りかぶると、剣先を義経に向けて投てきした。義経はあわてて自分の刀でそれを床へと打ち落とす。
「危ないなー。刀は飛び道具じゃないでしょう?国宝級の刀なら投げないでよ」そういう義経を横眼で眺めながら、トキネは自分の右腕に念を込める。
「同じものは二本とは具現化しないみたいね」
「ああ、なんか同じものが二つ存在すると、矛盾が生じるからできないらしいよ。ここの外には本物もあるから、ここから外には持ち出すこともできない」その義経の言葉を受けてトキネは念を入れ直す。すると彼女の手の中には一本の日本刀が出現した。トキネはそれを両手で構える。
「折角の鬼切丸だけど、やはり使い慣れた刀の方がしっくるかな」
「その刀は?」
「河内守国助(かわちのかみくにすけ)作、新刀一文字!」
「なんだ結構いい刀使ってたんじゃん」
「もらいものですけどね」そう言うのと同時にトキネは摺り足で、義経との間合いを詰めると素早く突きを繰り出した。義経は体を左に振ってそれを避けると、更に左に動いて前進したトキネと距離を開けた。
「いきなり突きで喉元狙ってくるとか容赦ないね」
「真剣同士の一対一なら突き技でしょう」
「またまた~。今の突き技は、躱した瞬間にこっちから切りかかってたら、刃を返して先に切られてたよね。おーこわ」
「流石は義経。良い勘してるじゃない」
「日本の時代劇もネットでよく見るけど、真剣同士であんなに長丁場を戦えるわけないよね。相手の背丈ぐらいまで飛ぶなんて事も俺できないし」
「確かにその通り。勝負は一瞬で決まるのは800年前も今も変わりないでしょう。時代劇を見ているなら知っていると思うけど、こんな技は昔は無かったでしょう。
そういうとトキネは左手の平を上に向けて何やら念じる。光の粒が結実したそれは一つの鞘だった。トキネはそれを左手に握り、右手に握っていた新刀一文字をそこに納めた。そうして腰を落として低い姿勢をとる。
「居合だね。確かに真剣を使った居合技と対峙するのは初めてだ。でもどこから刀が出てくるかわかっていたら、いくら早くても避けられるんじゃないの?」
「そう思うんならこちらへどうぞ…」トキネにそう言われて義経はまた先ほどと同じ構えを取る。先ほど突きを躱したものの、トキネの刀は鞘に納まっていて、腰に差しているので正確な間合いは読めない。じりじりと距離を詰めていく。トキネは微動だにせず、左手は鞘を握り、右手では刀の柄を握っている。
二人の距離は段々と縮まっていく。義経の構える膝丸の先端はゆらゆらと揺れている。ある程度まで二人の距離が近づいたところで、まるで示し合わせたようにほぼ同時に二人は動いた。義経の刀はやや斜め方向からの突きとなってトキネを襲う。しかしそれが突いた瞬間トキネの姿はそこになかった。義経の刀は空を突く。身を低くして突きを躱したトキネは、左手の手首をひねって鞘を横に向けた。上を向いていた刃は横向きとなる。そうして右手は鞘から刀身を抜き出しながら義経の腹を霞めた。義経はトキネの居合を警戒して、完全に突きに体重を乗せていたわけではないのでかろうじて身を引くことができた。トキネにしてもこの切り方では刀に体重は乗らず傷は浅い。しかし一旦斜め上方に振り切ったトキネの刀は宙を円状に舞ってもう一度義経に切りかかった。今度は両腕で柄を握っている。刀は義経の右肩から入って袈裟懸けに義経の体を二つに割いた。
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