第83話 源義経

「はっはっはっ、彼は今でも結構な人気があるみたいだね。僕はもう少し前の人間だよ。勉強嫌いな君でも源義経ぐらいは分かるだろう?」

「勉強嫌いは余計でしょ。義経くらいは流石に分かるわよ」冗談で織田信長の名前を出したところ、さらに凄い名前が出て来て、トキネは内心動揺していた。


「兄貴に殺されそうになって、大陸に逃げ延びたんだ。三歳ほど歳をサバ読んでチンギスハーンを名乗っていたけど、1159年生まれだから君よりも大分年上だろう?でも四賢者の中では若手で通ってる。君とはそれなりに長い付き合いだけど、真剣にやりあった事は今まで一度もなかったよね」


「源義経と来たか…。あんたよく100年以上も隠してたわね。今日はソロスも来てるのよね。招待状にも署名があったし…」

「ソロスとはミス小佐波 をここに呼んだ方がいいんじゃないかって、今まで何回も話してたんだよ。でも普通ここに来るのは不老不死を求める人で、君には意味がないからね。でも最近になってサタジットも君を呼ぼうとか言い始めたから、とりあえず招待状を出してみようという事になったんだ」


「まぁ経緯はいいですよ。源義経についてなら小説でも読みました。 剣術、鞍馬八流 の使い手で鞍馬山で鬼一法眼(きいちほうげん)から教えを受けたんですよね」

「あ、結構詳しいね。でもそれはだいぶ脚色があるなー。確かに当時の京都でブイブイ言わせてた流派ってのがあって、俺もその一つを学んだんだけどね」


「そうそう京都の流派。なんだったかな?確か五つの大技を使うとかだったわよね?」トキネが言った。

「ああ、あれね。その小説は俺も読んだよ。「蜘蛛手」、「角縄」、「蜻蛉返り」、「水車」、「十文字」だったかな。かっけーよな。でもそれってどんな技なんだ?」

「あんたがそれ聞いたらダメでしょう。がっかりさせないでよ。折角これから見られると思ったのに…」


「でもさ水車って最近の人気アニメでも技名で使ってたでしょう?あのアニメ香港でも大人気だったよ。光栄だなー」


「で、どうするの?私をこのまま通してくれるの?それとも手合わせする」

「そうそうその話。君が話の腰を折ったんじゃないか。折角だからここでやり合わない手は無いよね。真剣での切り合いなんて今時なかなかできないよ」そう言って義経はトキネが手に持つ村田刀を見た。


「なのに何だよその色気のない刀は…それで俺の愛刀『膝丸』とやり合おうっていうの?」

「あんたね。そりゃ将軍の弟なら国宝級の刀持ってるでしょうけど、私は一庶民なのよ。そんないい日本刀持ってるわけないでしょう?」


「ちょっと待って、今兄貴の愛刀出すから…前に何度か握ってるからいけると思う」そう言って義経は自分の愛刀『膝丸』を左手の持ち替えると、右手を見つめる。その手には先ほどのサタジットと同じく一振りの日本刀が出現した。

「はい、じゃあこれ使いなよ。銘は『髭切』…あれ?『鬼切丸』の方が有名かな?」そう言って義経はその日本刀をトキネに投げて渡した。それをトキネは受け取ると刀身をまじまじと眺める。


「これ、本物だったら国宝級のお宝でしょうに。投げてよこすかな…」そう言ってトキネは鬼切丸の束部分を両手で握りしめた。

「まじか…これは遥々ロシアまで来たかいがありましたね。これであんた…義経殿を切り殺してもいいんですよね?」そう言ったトキネに義経は


「物騒な事言うな~。これでも俺結構強いって言われてるんだぜ。兄貴だって殺そうと思えば殺せたのにさ」

「義経の使った剣術には謎が多いっていうのが、武術家の統一した見解だから、実際にそれをこの目で見れるっていうのはたまらないわね」そう言ってトキネは鬼切丸を義経に向かって構え直した。先ほどサタジットと相対した時と同じく晴眼の構えだ。


「ここ何百年かはその構えが主流らしいね」そう言って義経も『膝丸』を構える。右手を前にして構えるのは晴眼の構えと同じだが、刀身は寝せていて剣先はトキネの方には向いていない。

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