第75話 ペンと剣
「大体そんな事になりそうだから、週刊誌の記事を見て小佐波さんが暴れ出さないようにと、吉森大臣からこうして私が遣わされているわけです」草壁さんがそう答えると、トキネさんは話題を切り替えた。
「あ、そうだ、実際のところ照ちゃんは本当にお金をもらってたのかな?」
「大臣は母校の早稲田大学にはよく講演会に呼ばれるんですが、その時のお車代にはいつもキッチリ領収書を切っているのに、第一秘書が故意に一度だけ政治資金収支報告書に記載しなかったというだけの話です。既に修正は済んでます」
「リークというにはかなりショボい話ですね。でも政治家はイメージ勝負という部分がありますからね。吉森大臣はクリーンなイメージだっただけに、こんなつまらない話でも失望する人が居れば、IT大学構想にもケチが付きかねない。日本はいまだにこんなだからソロス氏も真面目に介入する必要はないと笑ってるんでしょうね」僕は失望交じりにそう言った。
「うーん…病気の子供を餌にして脅したところにも腹が立ちますね。照ちゃんが黙ってろっていうならほうちゃんにでも聞くか…」ほうちゃんというのは、トキネさんの幼馴染で巷では、ANYと呼ばれている凄腕のハッカーだ。トキネさんとは同年代で世の中で起こる大抵の事は知っている。聞けば大体何でも答えを教えてくれる。
「そっちにももう連絡済みです。これは自分の戦いなので、小佐波さんは何もしないでくださいと大臣から伝言されています」草壁さんが釘をさす。
「流石に素早いわね…ま、今回はあの子がどうするか静観するかな…あの子もいつまでも子供じゃないんだから…」トキネさんのセリフは、とても70歳を超えた老齢の政治家に向けた言葉には聞こえない。
そこまで聞いて僕は少し考えた。実は地味に少しずつ積み上げて来た話もあって、こんな時に使えそうだなと思った。そこでトキネさんにこう提案してみた。
「トキネさん、僕に二週間ほどもらえませんか。ちょっと考えがあります」
「まあ、私は動かないとしても、他の人がどうするかは自由でしょうからね」そう言って彼女は草壁さんの方を見る。
「もちろん私も黙ってる気はありません。こんなセコイことをする人間に日本の首相にはなって欲しくないですからね」草壁さんはそう言うので僕はこう返した。
「事実婚とは言え、草壁さんのご主人は政府の関係機関にお勤めなんでしょう?あんまり派手に動けないんじゃないですか?まぁ今回は僕に任せてください。披露宴でも全く出番が無かったし、たまには活躍させてください。ペンは剣よりも強しです」
「北原さんは結構な社会派ライターだったんですか?」
草壁さんは少し意外そうな顔をして僕を見る。一体僕は普段からどんなイメージで見られているんだろうか?
「いえ、個人的にいいところを見せたいという邪な考えもあります…そうですね…うまく事が運んだら…トキネさん!僕と今度こそデートしてくれませんか?」
言ってしまった。今まで最後まで言う事も無かったセリフだ。ここへきてやっと言葉にできた。案の定僕のその発言にトキネさんはひるんでいる。また、食い気味に否定されるかと思えば今回は違った。
「何を言うかと思えば高校生みたいな事を言いますね…青春の香りがぷ~んとしました。琢磨君にあてられた気もしますが……いいでしょう。今回はお手並み拝見と行きましょうか」そう言って彼女はニッコリと笑って見せた。それは171歳のものでは無くて、確かに若い女性のものだった。
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