余興本番
第65話 ダニエルVSユートン
しばらくしたところで、会場内にウェディングマーチが流れ始める。先ほどの新郎新婦の入場時には無かった事だ。曲が流れる中新郎新婦席の後方にあった幕があがって、二人が会場の方へと歩いてきた。新郎である井原の曲げた左腕の肘を新婦の草壁が右手で掴んでいる。先ほどの戦闘用ウェディングドレスとは違って、キチンとした白いウェディングドレスを着ている。井原の方も白いタキシードを着ている。
二人が着席したところで音楽は止み。またマーリンがマイクを持って喋り始めた。
「さぁ新郎新婦のお色直しも終わったところで、本日のメインイベントです。いやメインイベントは新郎新婦の披露宴ですから、余興のメインイベントです。先ほどの小佐波時寝チームに対しますのは、新婦の所属先であるユーナム財団から有志の三名です」
出場者は先だって進行役のマーリンと打ち合わせをしっかりしていたので、ここでトキネ達三人と、ユーナムの三人は席を立ってリングサイドに進み出た。
「さて、流石に北原さんはここから先は怪我をするといけないので、リングサイドで眺めてもらっておくとして、ダニエルはどうしますか?はっきり言って向こうの三人は人間という域を超えていると思いますが…」トキネはダニエルに向かってそう言った。
「いえ、折角なので私にも戦わせてください。ギフテッドと呼ばれる人間がどれ程のものなのか体験しておきたいです」
「いいでしょう。ではお先にどうぞ」トキネはそう言ってダニエルの肩を右手でポンと叩いた。
ダニエルがリングに上がると、ユーナム側からはおかっぱ頭の女性、ユートンがリングに上がってきた。色こそ黒ではあるが動きやすそうにダボっとしたズボンを履いていて、上は白いドレスシャツ姿だ。上着は脱いでいる。そうして背中には小ぶりの黒いザックを背負っていた。ユートンはコーナーから動かずロープ越しに、進行役のマーリンを呼び寄せた。マーリンがやってきたところでハンディマイクを奪い取り、リングの中央へと進む。そうして大きく息を吸ってからマイクに向かって喋り始めた。
「草壁先輩!ご結婚おめでとうございます!!」それはマイクが必要ないくらいに大きな声だった。
「先輩の部屋に遊びに行くと本棚には格闘技や武術関係のものしか置いて無くて、壁にはプロレスのポスターが沢山貼ってあってこの人大丈夫なんだろうかとずっと心配してました」会場はどっと笑いに包まれる。草壁さんは新婦席で両手で頭を抱えている。嬉しさか恥ずかしさか、それとも怒りなのか体はわなわなと震えている。そんな草壁の反応をよそにユートンは続ける。
「でもいつの間にかちゃんと素敵な彼氏を作って、今日という日にゴールインされました。お祝いの意味を込めて、今日は精一杯戦わせてもらいます!!」そういってユートンはマイクを握った右手を高々と上に掲げた。会場は喚起と興奮に包まれる。
リングサイドではトキネが呟く。
「戦闘用ウェディングドレスでムーンサルト・プレスの後はマイクパフォーマンスですか…ユーナムもなかなかやりますね。マスクを持って来るべきだったか…」
『そこは対抗しなくていいでしょうトキネさん』長十郎が頭の中で突っ込む。
マーリンがユートンからマイクを奪い返し、ユートンが自分のコーナーに戻ったところで、マーリンから始めの合図がかかった。立会人のサタジットは先ほどと同じく最初からリング中央に立っている。ダニエルとユートンの二人は自分のコーナーからゆっくりとリング中央へと歩み出す。ダニエルは右手に先ほどと同じく大振りの模造ナイフを握っている。まだお互いの攻撃の間合いからはだいぶ離れているところでユートンは立ち止まった。そうして腕を組んで仁王立ちになった。
「なるほど、無駄な筋肉も無くいい体ですね。しかしいくつか古傷もあるようだ」彼女はそういうと組んでいた腕を解き、急にダニエルの方へダッシュすると左回し蹴りでダニエルの右わき腹を狙う。それをダニエルはナイフは握ったまま肘を曲げた右腕を下におろしてガードした。蹴りはガードしたが、その力は若干脇腹にも到達してダニエルの表情が歪む。
ユートンは間髪入れず、今度は右脚のハイキックでダニエルの左肩を蹴った。これはそのままヒットしたが、同時にダニエルは右腕に構えた模造ナイフをユートンに向かって突き出す。彼女はダニエルの左肩に当たった自分の右足の裏を、ダニエルの左胸部に移動させて、そこを回転軸にして後ろに宙返りをしてナイフを躱した。
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