第55話 指名
もちろんそこにいたゲッツを除く全員が唖然としていた。いつもは凛としている草壁さんが生まれたての小鹿の様に恐縮している。
「おおーマイ~。パパの事心配してきてくれたんだね~」そういってゲッツは草壁さんを抱きしめる。
「ミス小佐波はパパの事ぶっ殺すとか言うんだよ」確かにトキネさんはさっきそんなことも言っていたような気がする。
しばしの沈黙の後トキネさんが口を開く
「えーと、頭痛くなってきた…草壁さんはコイツの娘だったの?」
草壁さんは自分に抱きついているゲッツを引きはがしてから答える。
「恥ずかしながらそういうことになります」
「いや、まぁご結婚はおめでとうございます…」トキネさんは草壁さんに向かってそう言った後
「そうじゃなくて、あ、駄目だ、これはユーナムの人間だった事よりも全然衝撃が大きい」と続けてからしばし頭を抱えた。かなり混乱しているようだ。そうして現実逃避するように、入れかけだった三船氏が注文したコーヒーを再び入れ始めた。
「道理で容姿が日本人離れしていると思ったら、草壁さんはハーフだったんですね」
場の空気を和らげようとして言った僕の発言には、誰も賛同してくれなければ反応もしてくれなかった。…やってしまった。
「俺も全然知らなかったなー。ていうかかなり綿密に情報隠蔽しているよね」三船氏が言った。別名は有名ハッカーANYである三船氏がそう言うのならそうなのだろう。
「母は日本人で草壁姓は母方のものです。父の戸籍やら年齢は公的書類には一切記載できませんし…個人情報は財団の方でしっかり対策してもらってます」草壁さんはそう言った。
それはそうかもしれない。1480年生まれなら500歳を軽く超えてしまっている。世界史は詳しくないが、国籍は神聖ローマ帝国生まれのドイツ人という事になるのだろうか?そんな訳が無い。
「分かりました!!」突然トキネさんが大声をあげた。店にいた一同は彼女の方を見る。
「草壁さんには普段からテルちゃんが世話になっていることですし、知らない仲でもない。それで彼女の結婚式が盛り上がるというなら大いに結構。その格闘戦とやらに是非ともエントリーさせて頂きましょう」トキネさんはきっと訳が分からなくなっている。
「おお~流石はミス小佐波!!ダンケシェーン。あなたが退屈しないように参加者は凄いところを揃えておくよ。今ユーナムの娘の顔なじみのギフテッドにも鋭意交渉中だから楽しみにしておいてよ」とゲッツは言った。
「ギフテッドの人たちが参加するんですか?」ダニエルが興味深そうに聞く。
「だって普通の格闘家とかじゃ、ミス小佐波の相手にならないでしょう?ユーナムのギフテッドは格闘技にも長けている人が多いから絶対盛り上がるよ~」ゲッツは答える。
「本当に申し訳ありません」そう言って草壁さんは深々と頭を下げた。
しかし次の瞬間頭を上げると、満面の笑みを浮かべて
「でも正直楽しみなんでよろしくお願いいたします」と言った。
普通なら『それで結婚のお相手は?』とか聞くところだと思うのだが、先ほどの様にだだスベリしてもいけないので、僕はぐっと我慢した。その代わりに
「あの~その結婚式の余興というのは我々も見学可能なんでしょうか?」とゲッツさんに聞いた。
「マイのお友達なら大歓迎さ。観客は多い方が盛り上がるから、どんどん誘って来てくれよ。会場はドーンとでかいところを貸し切るかな」ゲッツ氏はそう言った後
「あ、ポリス関係者はやめておいた方がいいね。ヤバいのがいっぱい来るし、死人が出たら何かと大変でしょ?見て見ぬ振りもできないだろうし」と続けた。
気軽に見に行っていいものかどうか熟考した方が良さそうだ。
「一応式は二か月後の11月って事なんで、また詳しいことが決まったら連絡するよ。今のところ格闘戦は3人1チームでやろうと思ってるけど他に二人のあてはあるかな?」
「それって一人で三人相手してもいいのよね」
そう言ってからトキネさんは少し間をあけて
「ほうちゃんは流石に死にかねないし…ここにいるダニエルと北原さんでいいんじゃないかしら」と言った。
僕は自分の耳を疑った。
「いや、トキネさん、僕も死にかねないと思うんですが…」
「大丈夫ですよ。殺されそうになったら助けますから」いや、トキネさんそれ全然大丈夫じゃないです。
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