第46話 決着
「せーいっ!!」
大きな掛け声とともに上段から瀬野の木刀がトキネの頭部に向けて振り下ろされる。が、瀬野の体は振り下ろし始めたところで後ろに吹っ飛んだ。トキネの突きが腹部に決まったからだ。瀬野の木刀は最初の勢いのまま下まで振り下ろされたが、体の軸がずれたので明後日の方向だ。
やや前かがみになって後方へ飛んでいく瀬野の体をトキネは追いかける。二の突きが右胸部を襲う。すぐさま槍を引いて三の突きを左胸部に当てると、最後は喉を突いた。先ほどの琢磨とは違って柄の部分で突いているので、体に突き刺さることは無い。しかし突きが決まるたびに鈍い音がする。最後には瀬野はたまらずしりもちをついた。そのまま立ち上がれずに最後の突きが決まった喉をおさえている。
「試合でもないのに馬鹿正直に面を打ってきたら駄目でしょうに……」
トキネは瀬野に向かって静かにそう言った後
「生娘を手籠めにするとか江戸時代じゃあるまいし、武道を嗜んだものとして恥を知れ!!」と叫んだ。
「あれは銃剣道ですね」
草壁が琢磨に向かってそう言った。
「槍術は確かに近代に入って廃れてしまいましたが、明治時代に入ってきた西洋の剣術に槍術を融合させた銃剣道は、今でも自衛隊などで盛んに行われています」
柔剣道という武術については琢磨は初耳だった。しかし槍術が現代でも形を変えて伝承されているというのを聞いて少しうれしくなった。
間もなく警察が到着して、東を始め床に転がっていた他の男達や瀬野副本部長も連行されていった。正当防衛とはいえ東の方はそれなりに深い傷を負っているので、後日琢磨は事情聴取に呼ばれることになるだろう。但しあの状況でも祥子が機転を利かせて動画を撮影していたので、まず問題になることは無さそうだった。
その後は最近被害が多発している押し込み強盗犯のアジトを検挙したという事で、警察関係者が次から次にやって来た。鑑識も入って建物内はざわついている。祥子と琢磨、草壁とトキネの4人は建物の外に出た。
「でも感心しないわね。もし助けが来なかったらどうするつもりだったの?」
草壁が祥子に言った。
「ANYさんが草壁さんと繋がってるのは分かっていたので、それとなく彼に相談しておけば話が伝わるだろうなと思ってました。ANYさんが協力してくれて、相手が県警の副本部長であることも、連中のアジトの場所も調べがついてましたし……」
祥子が答える。
「流石はANYが凄腕高校生ハッカーと言ってただけの事はありますね、用意周到です。あ、茂木君にはハッカーの件は内緒だったかな?」
言ってから草壁はしまったという顔をしている。
「小佐波さんも草壁さんに言われて来てくださったんですか?」
琢磨はトキネに聞いてみた。先ほどの草壁のハッカー発言はあまり気に留めていない様だ。
「田村さんが相談した相手のANYってハッカーは私の昔馴染みなんですよ。最近は草壁さんとも仲良しみたいですけどね。彼から田村さんの件を聞いたらなんか腹が立ってきたんですよね。ちなみにさっき琢磨君に刺された東の家もANYに調べさせて、彼と一緒にダニエル、北原さんの三人で行ってもらいました」
トキネが答える。
「ANYさんも行ってくれたんですか!というか、みなさんANYさんの正体ご存知なんですね」
祥子がトキネに尋ねる。
「ネット上でのハンドルネームって本名隠したいから使ってるんですよね? だったらまぁ正体は内緒という事にしておきましょうか……そういえば田村さんのハンドルネームはMORAなんですってね。なんでMORAなんですか? ナイフ好き?」
MORAというのは有名なスウェーデンのナイフメーカー名でもある。
「ハンドルネームの由来は詮索しないのがネットのルールです」
そう言って祥子はニッコリ微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます