第43話 参上

 瀬野はベッドから立ち上がるとそう話した祥子の腕を強くつかみ、部屋の外へと連れ出した。廊下を通って隣の部屋へはいると、数人の男がいる他、東は奥の方に座っていた。部屋は先ほどのベッドの置いてあった部屋とは比べ物にならないほど大きい。天井も高くてがらんどうの倉庫と言った感じだ。


「どうかされましたか?」東は瀬野と祥子に気が付くとそう話しかけてきた。

「この小娘盗撮してやがった。俺の正体も知っていて動画を公開するとか脅してきたぞ。どうしてくれるんだ」瀬野はひどい剣幕で怒鳴りたてる。東はまぁまぁと言った感じで両手のひらを前に出して前後に動かした。


「お嬢さん約束は守ってもらわないと困るなぁ」東が言う。

「私が解除しない限り動画の公開は止められませんよ。家族と友人に手を出さないというならば、とりあえずすぐには公開しないでおきます。但しある一定期間操作しないと再び公開される設定になっているので、これを担保とさせていただきます」

 祥子は物怖じすることなく東と瀬野に言ってのけた。


「かしこいけど困ったお嬢さんだな……」

 そう言うと東は机の引き出しから短刀を取り出すと、鞘から中身を取り出した。そうして祥子の横に立つと短刀を彼女の顔に当てがった。


「気の強い女の子は嫌いじゃない。でも俺らはね、法の枠組みの外で生きている人間なんだよ」

 そういうと祥子の服の首元を掴み、下の方へ強く引いた。祥子の着ていた上着のシャツのボタンははじき飛び、開いた胸元からは下着が見え隠れしている。


 東は瀬野の方を見ると

「副本部長さん。今日は予定変更させてもらいます。今からこいつを裸にひん剥いてビデオ撮影しますので、少し離れて鑑賞していてくださいますか?参加して頂いても結構ですが…」

 と言った。そう言われて瀬野はブツブツ文句を言いながらも部屋の隅の方へ移動する。


「おい、誰か動画撮影用のカメラ持ってこい」男は部屋にいた若い男たちにそう指示を飛ばすと今度は祥子に向かって語り掛ける。

「その動画とやらが公開されたら、今から撮影する動画も世界に向かって公開するからな。その覚悟があるなら好きにすればいい。それから約束を破った罰として、お前の母親も弟も少々痛い目にあってもらうぞ。ああ、友達も二、三人入院してもらおうかな」

 東はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。


「外道!!」

 祥子はそう叫んで東を睨み返す。

「気が強くていいねー。いい動画が撮れそうだ」


 東がそういったその瞬間、入り口の扉が勢いよく開いた。祥子と瀬野が入ってきた廊下からの入り口ではなく、直接外部に繋がる出入り口だ。外からの光が強く差し込んでくる。


 その逆光の中に立つ人影があった。


「やめろ!!」その人影が大きな声で叫んだ。


「なんだお前は」

 東はそう言って扉の方を向く。顔に刃物をあてられたままで祥子も同じ方を見た。


 その逆光の中に立つシルエットは……茂木琢磨だった。手には先端が竹ではなく木刀仕様の短槍を携えている。


「おいおい、見張りはなにしてるんだよ。使えねーな」

 東はそう言うと部屋の中にいる手下らしき数人の男を睨みつけた。そうして眩しそうに逆光の中の琢磨に視線を戻す。


「お兄ちゃんかっこいいね。お嬢さんの彼氏かい? まぁいいや、この状況を見れば分かるだろう。怪我したくなかったらお兄ちゃんもおとなしくそこで見学しておきなよ。それとも彼女の顔に一生残る傷でもつける気かい? 責任とれるのかな?」

 そう言いながら東は短刃の先端で祥子の頬をぺちぺちと叩いている。


 一瞬あたりは静寂に包まれる。しかし静寂を破って琢磨がまた大声で叫び始める。


「顔に一生残る傷ができてもっ!……裸が世界にさらされてもっ!……」

 琢磨はそこまで言ってから大きく息を吸って。それからまた一段と大きな声でこう叫んだ。


「自分がずっとそばにいてやるっ!!……それでいいかっ!!」

 

 その叫びに祥子は満面の笑みを浮かべて答える。


「はいっ!!」

 迷いのないその返事は部屋の中に大きく響き渡った。


「よく言った!!」

 今度は祥子ではない誰か別の女性の声が大きく部屋の中に響き渡った。琢磨の立つ扉とは別の廊下に続く扉にも人影があった。小佐波時寝だ。横には副本部長を取り押さえた草壁マイの姿もある。

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