第23話 ハオランVS小佐波時寝

 決着のついたところで、僕達五人は先ほどまでいたVIP室の方へ戻ってきた。

「あのハオランという男は、私の知っている人間でした。彼は特殊な能力を持っていて常人より早く反応できるんです」草壁さんが説明する。


「ああそれで…避けるのがうまかったんですね。あんまり逃げ回るんで腹立って避けられない位の力で蹴りを入れてみました。蹴り技はスカートだと下着が見えちゃったりするから好きじゃないんですよね」トキネさんは軽く言ってのける。


「さ、ある程度ハオランが回復したところを見越して、話を聞きに行きましょうか」トキネさんがそう言った途端、先ほどリングサイドに居たマーリンが部屋に駆け込んできた。

「四合会の間者からの連絡で、ハオランが逃げたそうです」マーリンの言葉にトキネさんは驚くが、他の4人はそりゃそうだろうと納得だった。


「当然構成組織の極龍には四合会から人間を送り込んでいます。今日の大会の表彰式などは、ハオランの急用を理由に中止にするようだと連絡がありました。移動に使う車の場所は掴んでいます。急いでください」そう言われて僕とトキネさんと草壁さん、加えてダニエルとイリヤ、そうしてなぜかマーリンの合計6人が会場となっていた建物を出て、建物周囲の駐車スペースを横断する。そうしてやや闇カジノに比べると小さめの倉庫の様な建物の中に入った。


 しまった。他の人たちはともかく、僕がついてくる必要は一切なかったことに、建物に入った時に気が付いた。僕たちが建物に入ると、丁度ハオランはSPらしき数人と黒塗りの高級車に向かって歩いているところだった。


「待ちなさいハオラン!」そう言ってトキネさんはハオランを呼び止める。ハオランとSPが振り返ったところで、トキネさんは猫マスクを外して空中に投げ飛ばした。ハオランは先ほど砕かれた顎に包帯をグルグル巻きにして、怯えた顔でトキネさんの方を見る。


 そうしてハオランはSPと一緒に胸元から拳銃を出して身構えた。同じ建物内にいた十数人の人間も同じように刃物や拳銃を構える。そうしてハオランとトキネさんとの間に割って入ってきた。


「あなたたちは危ないから車の陰にでも隠れておいてね」そう言い残してトキネさんはハオランの元へ向かう。向かいながら大きな声で叫ぶ。


「逃げたらぶっ殺すって言っただろうがこのクソガキが!!」トキネさんはハオランの元へ一直線に向かっている。いや一直線ではない、ランダムに前後左右の動きを加えている。トキネさん以外の5人は言われた通り一旦車の陰に隠れた。特に僕は銃を見たとたん、渋谷の事務所の時と同じで足が震えている。情けない限りだ。


「流石にトキネさんも銃で撃たれたらやばいですよね?」僕がそういうと、隣にいたダニエルが笑いながら言う。

「動いている標的を銃で撃つのは実は物凄く難しいんだよ。機関銃でも持ってこない限りあの速さで動かれたら無理だろうね。僕らが出て行ったら的が多くなるし誰かに当たる可能性もあるから、隠れていた方が足を引っ張らない」


 そこから先のトキネさんはまさに鬼人のごとき動きだった。赤い道着は縦横無尽に動き回り、見る見るうちにハオランとの間にいた人間は宙に舞い、そうして倒れて行った。乱戦状態になって銃を撃つのが難しくなったところで、ダニエルとマーリンはいつの間にか車の陰から飛び出し、端々で敵の掃討に協力している。倒した人間からは銃や刃物を回収している。このあたりは流石に実戦慣れしているという感じだ…いや草壁さんも同じことをしていた。一体彼女は何者なんだろうか?イリヤはせっせと武器を取り上げられた敵を、どこから持ってきたのかロープで縛りあげている。


 トキネさんはなおもハオランに向かって敵をなぎ倒しながら進んでいく。投げ飛ばされた男たちが宙を舞っている。きっと日露戦争時のロシア兵もこれと同じ光景をみていたんだろうなと思うと、ちょっと感慨深いものがあった。


 遂にはハオランの傍にいたSPも倒されてハオランは一人きりとなった。そこでトキネさんの動きが止まった。するとすぐさまハオランはトキネさんに向かって銃を向け発砲した。しかしその動きを察知して横に縮地で動いたトキネさんに弾は当たるはずもなかった。


「躊躇なく相手を殺そうとするその胆力はいいとして…逃げてんじゃねーぞ小僧!」

トキネさん、言葉遣いが怖いです。


 観念して地面に正座させられたハオランにマーリンが言った。

「先ほど王会頭から、直ちに香港に戻るようにと連絡がありました。逃げれば親族も六親等まで全て皆殺しにするとの事です」それからマーリンはトキネさんの方を見て

「何かおっしゃりたいことはありますか?」と聞いた。


「喜田議員の件は日本の警察より王に任せたほうがいいとして、半日店を閉めた分の損害賠償の請求書を後で送っておきますので、香港に行く前に誰かに申し送りをお願いします」トキネさんはハオランに向かってそう言った後、ダニエルにの方を見てこう続けた。


「あとファイトマネーはマーリン戦で全部自分にぶっこんどいたので、換金して喜田議員のご遺族に香典だって言って渡しておいて頂けますか?オッズが100倍超えてたから数千万円にはなると思います」

 それを聞いて喫茶『乃木坂』の半日分の売上っていうのは一体いくらなんだろうと僕はぼんやり考えていた。もしかして僕が飲むコーヒー一杯分だったりして…。


「今から帰っても明日の朝から出かけるのはきつそうです。いつもの三連休がただの週末休みになっちゃいましたね」トキネさんは最後にそうぶーたれた。自営業の僕が言うのも何だが、世間は週休二日が普通ですよトキネさん。

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