第15話 アメリカから来た男達(その5)
「で、結局その組織っていうのは?」全員分かっている感じだが、僕にだけはさっぱりわからなかったので聞いてみた。
「四合会ですね」そう言ったのは草壁さんだった。
「利権の為に喜田議員を脅すのは分かるとして、四合会の王(ワン)もソロスと同じで私にちょっかい出してくるとは思えないんですけどね」そうトキネさんが付け加えた。
「うん。正確には日本で動いているのは四合会の下部構成組織『極龍(ヂーロン)』だからね。上の意向とは違っているのかも…」三船氏が言った。
「四合会って何ですか?」僕は今度は隣に座っている草壁さんに小声で聞いた。
「分かりやすく言えば香港を拠点とするチャイニーズマフィアですね」世の中には知らない事が溢れてるなと改めて僕は思った。あとでこっそりググってみよう。
「極龍なんて初めて聞く名前ですね。で、その極龍とやらにはどこにいけば会えるわけ?」トキネさんは三船氏に聞く。それには三船氏より先にダニエルが答えた。
「極龍は日本でのカジノ利権を狙ってますが、既に日本国内で非合法の闇カジノを運営しています。なので組織自体への接触は難しい事では無いんですが、首領のリ・ハオランという男は用心深くてなかなか表に出てきません。ただし定期的に必ず顔を出すイベントがあります」そう答えてからダニエルは、三船氏の方をチラ見した。三船氏は黙っている。
「裏カジノでは週に一度興行として格闘トーナメントを開催しています。もちろん賭けの対象でもあるんですが、そこで勝ち抜いた人間にゲストも加えて月に一度スペシャルな大会を開いています。その王者に君臨しているのがリ・ハオランなんです。彼は完全な武闘派のたたき上げなんで、相当腕に自信があるんでしょう。そこで自分の力を示して組織を引き締めているというわけです。トーナメントには組織の人間も参加OKで、自分を倒せる人間がいれば後継者にすると豪語しています」そうダニエルは続けた。
「なるほど、その大会トーナメントを勝ち上がれば確実にそいつに会えるって訳ね」やばいトキネさんの表情が一気に明るくなった。
「で、そのスペシャルな大会はいつ開催されるのかしら?」トキネさんの質問には嫌な予感しかしない。
ダニエルは答える。
「日本にはプレミアムフライデーというものがあるらしいですね。スペシャルな大会はその前日の夕刻に開催しているんだそうです」プレミアムフライデーという言葉は久々に聞いた。毎月最終の金曜日…ん?そうそれはまさに明日の話だ。
…という事は開催は今日の夕方という事になる。
「我々ソロスを中心とするグループも日本のカジノに関しては参入を表明しているので、ハオランとは知らぬ仲ではありません。我々の中にも腕自慢がいれば、誰か大会ゲストとして参加してみないかという打診を受けていました。自分たちの方が上だと力を誇示したいんでしょうけどね」そうダニエルは続けた。
「出場枠があるって事ね」トキネさんが食いつく。
「はい、今晩の大会にはイリヤが参加予定でした。…イリヤ、例の物」そう言ってダニエルはイリヤの方を見る。イリヤは慌てて食べかけの和菓子と皿をテーブルの上に置き、床に置いてあったショルダーバッグから包みを取り出した。
「お土産渡すのを忘れてまシタ」イリヤはそう言って包みをトキネさんに渡す。
「開けてみてください」ダニエルに言われてトキネさんは包みを開ける。
そこには深紅の柔道着が入っていた。驚くトキネさんに向かってイリヤが言う。
「帯は黒にしておきまシタ。赤だと目立ちすぎるノデ」柔道の最高段位十段を示す紅帯保持者は世界でも数人しかいないらしい。それをこの若い女性がしていたところで誰も信じはしないだろうが…。
「言っておきますけど、私が日露戦争で着ていたのは軍服じゃなくて、純白の看護服ですからね。返り血でいつの間にか真っ赤になっちゃってたけど」
…トキネさん怖すぎます。いや、でも純白の看護服姿も見てみたいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます