第13話 アメリカから来た男達(その3)

「私が短刀でも持っていたら、あなたたちもう4、5回は死んでますね」そう言ってトキネさんはにやりと笑った。イリヤとダニエルは今度はトキネさんの左右に分かれて立ち位置をとった。


「両側から攻撃するというのは有効だと思いますが、前後に動いたらどうしますか?」そういってトキネさんは前進する。はたから見ていると腰から上は固まっているように見える。足さばきだけで前進している感じだ。イリヤとダニエルは向きを変えて走って追いかける。しかし次の瞬間トキネさんは上体はそのままで、今度は後ろに動き始めた。驚くのはそのスピードだ。先ほど前進したのと同じ速度で後ろに動いている。男二人はあわてて逆向きに方向転換する。


「振り返る分だけ動きが遅れますね」そういうなり、トキネさんはものすごいスピードでダニエルの方へ進むと、上体に手をかけて足払いをした。そうして彼が倒れる瞬間に掌底で顎を軽く打突する。倒れたダニエルはすぐに立ち上がろうとするが、脚がふらついてうまく立てない。軽い脳しんとうを起こしている様だった。

 次にトキネさんはすかさずイリヤの方へ向かうと、両の手のひらを彼の胸板に当てた。当身ではない。少し押したと思ったら、今度はシャツを手前に引いた。シャツから手を放さず更には横方向へ引っ張ると、イリヤの体は宙をまった。そうして彼の体が地面に落ちるのと同時に、右上腕部を両手で抱きしめた。そうして昨日とまた同じ音がした。『ゴキッ』という鈍い音だ。

 トキネさんが腕をほどくとイリヤは立ち上がり、だらんと垂らした右腕はそのままに左腕でトキネさんを殴りに行く。今度はトキネさんは避けることなく、殴ろうとしたイリヤの左上腕部に自分の両腕を絡めた。そうしてそのまま足払いを掛けると、イリヤの体は再び宙を舞う。但し今度は極められた左腕を支点にして弧を描く。彼の体が地面につくのと同時に、また関節の外れる音がした。トキネさんは一呼吸おくこともせず、今度は倒れているイリヤの首に手をまわした。


「首の関節って外すとどうなるか知ってます?」トキネさんはそう言って腕に力を入れるそぶりを見せる。その瞬間先ほどの脳震盪から復活したダニエルが叫んだ。

「STOP!STOP!」それを聞いてか、トキネさんはイリヤの首から腕をほどいた。


「なーんてね」そう言ってトキネさんは微笑む。

「駄目ですね。全然殺気が無い。別に芝居なんかしなくても稽古ぐらいつけてあげますよ」そう言ってから両手をだらんとぶら下げて立ち上がったイリヤの、肩関節を両方とも元に戻した。外した時ほどではないものの、『ゴリッ』という嫌な音が二回した。イリヤは悲鳴こそあげなかったものの、低い唸り声を発した。


「関節は外された時より、入れる時の方が痛いですからね。さ、話は中で聞きましょう」


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