第11話 アメリカから来た男達(その1)

「この二人がどう関係してくるのかしら」トキネさんが聞いた。

「まず喜田議員が関わる政治団体のお金の動きを探ってみたんだよ。外資系の企業でタイタンていう介護器機の会社が結構いいスポンサーみたいでね。その米国本社のCEOがクリスタル氏。彼は元グリーンベレーの実業家という変わり種なんだけど、事業の立ち上げ時に出資したのが投資家のドナルド・ソロスというわけ」三船氏が答える。


「そっちの線か…でもソロスが私に手を出してくるとは思えないけど…」三船氏の説明にトキネさんは納得がいかないようだ。

「ドナルド・ソロスと言えば百人委員会のメンバーだし、色々あるんじゃないの?聞いてみないと分からないけど」三船氏は言う。


「百人委員会ってなんですか?」三船氏の口から今まで聞いたことのない単語が出たので、僕は草壁さんに聞いてみた。

「百人委員会は世界の投資家や国際資本が集まって作ってるという組織ですね。一般的には都市伝説扱いでその存在を信じてる人はあまりいませんが…」草壁さんが教えてはくれたが、なにやら怪しい話だ。


 それを聞いたトキネさんが補足してくれた。

「それがあるにはあるんですよ。ただ陰謀論みたいなかっこいいものでは無くて…そう、互助会みたいなもんです。だから自分達が世界をこう動かしたいと思っても、その地域では合法的な手段しかとりません。どうしてもという時は、先に法律を変えるぐらいの力は持ってますけどね」


 三船氏の話は続く。

「吉森大臣のIT大学構想は百人委員会からも煙たがられていたから、大臣の政敵である喜田議員に近づいたのかもね。クリスタル氏と彼が率いるタイタンは日本での使い走りってところかも」

「タイタン以外にも喜田議員に関係している外資系企業はたくさんあるでしょうに、どうしてほうちゃんはこの二人に目をつけたのかしら?」トキネさんは聞く。豊水氏はほうちゃんと呼ばれているらしい。


「ああ、喜田議員が自殺…落ちたホテルの監視カメラのね、ちょっと当日の録画データーを拝見したらこの二人が写っていたんだよ。ミロノフはともかくクリスタル氏は見覚えのある顔だったからすぐに分かった。もちろん百人委員会は違法行為は嫌うから直接人を殺すようなことはしないはずだけど、なんかありそうでしょ?」三船氏が答える。


「確かに偶然そこに居合わせたって事もないでしょうね。直接聞いてみるのが早そうだけど、この二人の居場所は分かるのかしら?」そう聞くトキネさんに三船氏は意外な言葉を返してきた。


「そう言うと思って、彼らなら呼んでおいたよ。もうすぐここに来ると思う」いや、喜田氏は殺害された可能性だってあるのに、それってヤバくないですか三船さん?

そう思った僕の心配をよそに

「流石ほうちゃん気が利くわね」と、トキネさんは褒めている。


 三船氏に僕の祖母や実家の話を聞かれて雑談をしているうちに、インターフォンの呼び出し音が鳴った。モニターにはインターフォンのカメラ画像で二人の男の姿が映っている。三船氏はパソコンを操作して電動の門扉を開けている。遠隔で色々なところから操作できる様にしているのだろう。


「さ、みんなでお出迎えに行きますか。米戸さんは奥の方にいてくださいね。お茶が必要そうなら私が自分で入れますから大丈夫です」三船氏はそう言って部屋の扉を開け、先ほど僕らが入ってきた玄関の方に進んだ。

 僕とトキネさんと草壁さんの三人はそのあとをついていく。ドアノッカーの音がしたので三船氏が扉を開ける。内開きなので、三船氏はドアの陰に隠れる形となり、来客二人と僕ら三人が対峙する形になった。二人の男は僕らを見て一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。最初に口を開いたのは小柄…とは言っても185cmぐらいあるがダニエルの方だった。


「あなたが小佐波時寝さんですね。やっとお会いできました。お目にかかれて光栄です」草壁さんではなく、トキネさんに向かって会釈している。それはダニエルの中では彼女の顔と名前が一致しているという事だ。そうして彼女がここにいるのも予想の範疇なのだろう。またこれはどうでもいい話だが、顔に似合わず流暢な日本語を話す。このアメリカからやってきた二人の男は、両者ともに黒いスーツを着ている。イリヤの方は画像のイメージよりも更に体がでかい。身長は2mは無いと思うが190cm以上はあるだろう。縦だけでなく横にも大きい。


「ほうちゃん、一体彼らをなんて言って呼び出したのかしら?」トキネさんは扉の横にいる三船氏に問いかけた。

「いや、君が彼らに聞きたいことがあるみたいだって言っただけだよ。間違ってないよね?」三船さんもトキネさんに負けず劣らず直球派の様だ。トキネさんはまた、二人の方を向き直して話しかけた。


「まぁそれなら話は早いわね。単刀直入に聞くけど、あなたたちが喜田議員を殺したのかしら?」いやトキネさん、それは単刀直入すぎやしませんか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る