第17話 カスミ姫に迫る十界仙の巻

注文してから、一刻程、ハスミがはち切れん笑顔で、ぜんざいと茶を持ってきた。


「お待たせしました、どうぞ、姫様、ウチの店、自慢のぜんざいですよ」


「ありがとう、これはお代だ」


「一両もですか! ありがとうございます、ねぇねぇ、まこっちゃん、あんたの姫様は気前がいいわね」


「まあな、仕えてて誇らしいよ」


「そうでしょうよ…ねぇ、姫様…あの噂は本当なのですか? 」


「噂とはなんじゃ? 」


「その…姫様が人身御供になる事です…」


空気が変わる、先程まであった、和やかな雰囲気が、一転する。


「ハスミ! 姫様になんて事を聞くんだ!」


「ごめん、まこっちゃん…でも、ここ数十年、景気が悪いって父が言ってて、姫様が物の怪の類にその身を捧げたら、また、回復するって…言ってるの聞いて…」


「それは…」


わたくしが言い淀むと、東堂が立ち上がり言った。


「今回は違う! 姫様が犠牲にならずとも、この国を良くするすべがある」


「そうなのですか! 良かった…ウチに来たお客様が、そんな目にあっては、なんか良い気分にならなくて…父にも言っておきます」


東堂の自信たっぷりの言葉を聞いて、ハスミは安堵したようだ、いや、安堵したのは、わたくしもそうだ。

本当にありがとう。


わたくし達が、ぜんざいに舌鼓になってる所に、隣の腰掛けに長柄の得物に布を巻いた、坊主の精悍な男が座ってくる。

ハスミは注文を取りに向かい、話しかける。


「いらっしゃい、ご注文は? 」


「そうだな…隣の姫様かな」


「ええっと…面白い方ですね! 姫様を口説くつもりですか? 」


男は、こちらを見てる。

何だ、この威圧感は…この圧は…

両脇に座ってる、東堂と本城は立ち上がり、刀に手をかけている。


――――十界仙の一人だ。


本能的に感じた。

二人はわたくしの前に出て、男を見る。

ハスミは、その場から離れ、わたくしの隣に来た。

そして、本城が抜刀し、斬り掛かった。

男は何食わぬ顔で、座った状態で布で巻いた長柄の得物で、それを防ぐ。


「貴様ぁ、天童の配下の者だな」


「おっかない侍だな、天童の配下であれば何か、不都合か? 」


「ああ、悪いが姫様護衛の大義の為、貴様を斬る!」


本城が再び、斬りかかりと男は、跳び上がり、避けた。


なんという…跳躍力だ。


距離を取った所で着地した男は、布を取っ払い、出てきたのは…十文字槍だ。



月斬槍兵つきぎりそうへい、 宝臧院胤水ほうぞういんいんすい! 天童の命でそこのお姫様を攫いに来た」


「ふざけた事を…それにしても、貴様、宝臧院だと!」


聞いた事がある、ヒノモト国に宝臧院流ありと呼ばれる、槍術使いの一派、十文字槍を使いこなし、数多の侍が恐れられたという。

他の槍術に比べ、細く、短い、十文字槍。

突いても薙ぎ払うにしても、その槍、避けがたしと…まさか、その使い手が天童の元にいるとは…。


「お前じゃないな…そこの総髪の冴えない侍!! 俺と一戦やれ」


東堂が刀を抜き、近づくと、本城が手で遮る。


「本城殿? 」


「お主には姫様を守って欲しい、今まで頼りにしてた分、今度は俺の番だ!」


「相手は十界仙の一人、本城殿、一人では…」


「頼りにならないか…お主は知らんだろうが、俺はお主に負けたあと、時間を見つけては、稽古をこなしていた、それを実践する時が来た…無論、十界仙だけでなくお主に勝つ為にもな」


「本城殿……承知した、姫様の護衛は任せてくれでござる」


「何だ、何だ、こそこそと、二人まとめて相手でも、俺は構わぬぞ」


「貴様の相手は、この本城毅一郎誠がする! 宝臧院流の使い手よ、ゆくぞ!」


わたくしの傍に東堂が来て、周りを見てる、他に天童の配下がいないか確認してる。


「姫様、ここは、本城殿の力を信じましょう、彼は、きっと勝ちます」


「分かった…」



――――そして…戦いは始まった。

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