第16話 カスミ姫、本城毅一郎誠の恋に興奮するの巻

天和七十年七月四日、今日は公務を休み、朝から、城下町へ行き、本城が行き付けだったという団子屋もとい茶屋に向かった。


本城や東堂を連れて、茶屋へ、そこには島田髷の綺麗な娘が店を切り盛りしている。


「いらっしゃ…まこっちゃん!?」


「お、おう、ハスミ、元気にしておったか」


「城勤めなんでしょ! 凄いな〜、ねぇねぇ、その美しい人はもしかして姫様? 」


「まあ…そうだ、丁重にもてなしてくれ」


「じゃあ、三名様、ご案内でーす」


葦簀よしず張りで区切られた腰掛けに座り、茶屋と言うが、ぜんざい、みたらし団子、小豆団子に茶屋と言うだけあってお茶のいい香りが匂う。

あと、本城の奴、目下にしてる、いつもの高圧な感じがしない…しかも、何処となく動揺もしておる。


これは…本城、あの娘に惚れておるな。


「本城…わたくしは分かったぞ、お主、あの娘を好いておろう」


指摘された本城は、手で顔を覆い、わたくしに言う。


「姫様、何故、分かりました? 」


「それは、お主、普段、東堂や目下に対して、接している態度がまるで違うではないか…東堂もそうは思わんか? 」


「思います! 本城殿…ああいう、おなごが好みとは、いや、確かに器量良い、本城殿が惚れるのは、納得でござる! それにしても…まこっちゃんでござるか」


「東堂、お主、俺をからかっておるか! 」


「まこっちゃん、そんなに気を立てない! 」


噂をすれば、注文を取りに来たようだ、良い機会だ、わたくしが聞いてやろう。


「そなた、本城をどう思っておる? 」


「ええ、まこっちゃんですか? それは…大切な幼なじみというか…なんていうか、それだけでは終わりたくない関係というか」


おお! 脈ありではないか!? 喜べ、本城! お主、好かれておるぞ。


「ハスミ! 姫様の言う事を間に受けるな、この方、こうやって楽しんでおられるだけだ」


「えー、でも、ウチ、まこっちゃんの事、大好きだよ!」


来たーーーー!! 真正面からの告白!


「そ、それは…兎に角!注文を頼む、姫様! 何を召し上がりますか!」


「本城殿はハスミ殿を召し上がりたいのでは? 」


東堂ぉぉぉ! お主、まさかの爆弾発言をするとは、これは、斬られるぞ。


「東堂…お主ぃぃ…俺はどうすればいいのだ? 」


これは、本城をいじり過ぎた、項垂うなだれる、堅物の化身ような男は、今まで見た事無いくらい、困り果てている。


「ふう…本城、済まぬ、わたくしも東堂も茶化し過ぎたようだ、茶屋だけに」


「お願いします、ご注文を…」


「茶とぜんざいを三名分出してくれ、支払いは、わたくしが出そう」


「分かりました! じゃーね、まこっちゃん」


彼女は注文を取り、そそくさとその場を去る。






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