第6話 東堂明、再来、十界仙と対峙の巻

――――天和てんわ七十年、七月二日、夏に差し掛かり、気温も上がっており、このエド城でも、みんな、暑そうにしてるべ。

だが、ここ、カスミ姫様のお部屋は涼しいんだべ。

エド城、御用達の陰陽師の力がもった、呪符をカスミ姫様の部屋に貼ってある為、ここは、涼しいそうだ。


美しい垂髪すいはつ、十二単を纏っているカスミ姫様も、ここでは落ち着いていらっしゃる。

オラ達、護衛取締役は姫の部屋で待機しておってな、襖の近くで、いつ天童達が襲って来てもいいようにしてるんだべ。

まあ、護衛役から昇進してもやる事は変わらないべ。


姫様は、普段は公務のお手伝いで、色んな書類を目に通し、判子を押しているべ。


「はあ…なあ、東堂、本城、わたくしは、見ての通り公務で忙しいのじゃ…気が滅入って、仕事にならん、何か面白い話しをしてくれぬか?」


「では、不肖、本城毅一郎誠が話をします」


本城殿が! オラは堅物の本城殿からそんな話をしてくるとは…思わなかったので、つい


「あの堅物の本城殿が…」


呟いてしまったんだべ。


「東堂、お主、俺の御伽噺おとぎばなしにケチをつける気か?」


「いや、本城殿が…意外だなと…」


「ふん、ぬかすではないか!では、カスミ姫様…お耳を汚すようではありますが…」


本城殿が語ろうとした時だった、城内に『であえ!であえ!』と声が木霊する。




「本城殿!これは…」


「うむ、例の天童の十界仙だろう…」


「お主達も行って来るのか?」


カスミ姫様が心配そうに、オラ達を見ている、そこで、オラは…


「拙者、東堂明が参るでござる、本城殿は、最後の守りとして、ここに残るでござる」


「東堂…分かった、姫様、本城毅一郎誠が身辺警護に当たります!」



※※※



オラは身辺警護を本城殿に託し、不届き者である…十界仙を迎撃の為、城内を駆けぬけ城下の門まで降りていくと…そこには…。


―――――死体の山が積み上がっていた。


「ひいいい!この化け物共め!」


生き残りの門番と数は少ないが、城内の侍達が必死にここの城の門で敵を食い止めていたんだ。


「拙僧を化け物呼ばりとは…俗世は何とも救い難い…」


泣いているのか…あのおどろおどろしい袈裟を纏った坊さんは…それに坊さんの後ろにいるのは、見覚えのある二人だっぺ。


「おお、小僧じゃないか! 貴様に会いたかったぞ」


それがしもだ、この間は、不覚を取ったが、今度はそうはいかんぞ!」


オラは会いたくなかったぞ、だが…この間とは違い、今度は三人だっぺか…龍我毘沙丸を使わずには…いかないだべか…。

そう思い、龍我毘沙丸に手をかけると…


「お止めなさい」


いつの間にか、横にいた、狩衣かりぎぬを着た、お方がオラに言う。


「貴方は…」


「私は、将軍家お抱え陰陽師、土御門泰久つちみかどやすひさ、君が携えてる、その刀、彼ら以上に異様な雰囲気を醸し出してる、抜けば…この場を切り抜けられると思ってるだろうが、君に何かしら、反動が来るんじゃないか」


「よくそこまで、お分かりでいらっしゃる、だが、土御門様、あやつらを斬り伏せるには…」


「我々を見くびって貰っては困る、ほら、援軍が来たようだね」


振り返ると、あれは…将軍家の剣指南役、柳生一刀斎やぎゅういっとうさいの門下、荒木又左衛門あらきまだざえもん殿ではないか。


「よもや、撃退していると思って来てみれば…何たる、不覚…将軍家お抱えの柳生神影流の稽古をこなした、益荒男達がこうも、倒されるとは…噂の十界仙とは貴公らだな」


「しかり、われ千気剣士せんきけんし 大鬼獏良だいきばくら!そしてあちらにいるのが…

人慨剣士じんがいけんし 修羅一丈しゅらいちじょう! そして…

悟空坊ごくうぼう 聖来暗転菩薩せいらいあんてんぼさつ! 天童様の命により、カスミ姫の身柄を受け取りに参った」


大鬼獏良がズイッと前に出て、名乗り上げる。


オラは、愛刀虎鉄を抜き、構えた。

荒木又左衛門殿が横に並び、オラに言う。


「貴公は、カスミ姫様の護衛取締役の東堂明だな…噂で聞いたぞ、あの十界仙の二人を返り討ちにしたと…頼りにしてる」


頼りにしているのは、オラなんだけどな。

この戦いでは、龍我毘沙丸を使わず、奴らを追い返す、もしくは、この場で出来るなら、斬り伏せて見せるんだべさ。


「来るぞ、東堂、土御門殿!」


オラは大鬼獏良を、荒木殿は修羅一丈を、土御門殿は聖来暗転菩薩を相手に戦いは始まった。


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