第5話 東堂明、御台所様、将軍様に謁見するの巻

「「申し訳ありません!天童様!」」


ここは、ヒノモト国にある僕の神殿。

僕の前に、ひざまずいてるのは、カスミ姫を拉致し損ねた、二人の武人、大鬼獏良だいきばくら修羅一丈しゅらいちじょうだ。


「仮にも、十界仙の二人がたかが…一人の侍に返り討ちにあうなんてね…おおっと、畏まらないでよ、たかがと言ったが、この七百年、盤石だった、僕の戦力の内、二人も退けた、その侍…興味深いね」


「我々は、どんな罰でも受ける所存であります」


「いいよ、罰なんて…そんな物に何の価値がある? なあ、みんなもそう思うよな!」


神殿の奥から現れるのは、僕の護衛、作戦遂行の為の選んだ者達、十界仙。


今、集まってるのは…謝罪してるのも含めて、八人か…

残りの二人は…一人は僕と二人きりの時しか、会わない…他の十界仙も姿を知らない。

もう一人は、ただひたすら、人外になっても、素振りをしてる…剣の探究に余念がない、老剣士だ。


そして、今、居るのが…


千気剣士せんきけんし 大鬼獏良だいきばくら

人慨剣士じんがいけんし 修羅一丈しゅらいちじょう

闇黒拳士あんこくけんし 研山無死郎けんざんむしろう

悟空坊ごくうぼう 聖来暗転菩薩せいらいあんてんぼさつ

荒振陰師あらぶりいんし 須金闡明すがねせんめい

豪粋弓兵ごうすいきゅうへい 新免為朝しんめんためとも

月斬槍兵つきぎりそうへい 宝臧院胤水ほうぞういんいんすい

陰陽隠密おんみょうおんみつ 木戸弥右衛門きどやえもん


以上、八名が集まってるな、さて…次は何して


「大鬼獏良、修羅一丈、君達に助っ人を寄越そう…聖来暗転菩薩、君の力を貸してやれ」


「分かりました…拙僧の力を奮いましょう、お二人とも宜しく頼むよ」


「応!」


「こちらこそ頼む」


さて…お遊びの始まりだ、カスミ姫をさらえるか攫えないか、たのしみだ。


※※※



翌日


オラと本城殿は御台所様みだいどころさま、将軍の奥様から呼び出された。

御殿向ごてんむきと呼ばれる、将軍様の大奥での寝所や応接室である御座ござの間があり、オラ達は女子おなごだらけの所を神妙になりながら、御座の間に向かったべよ。



「二人とも、まず、昇進おめでとうございます、これを機に、職務に益々励んで欲しいわ」


「「ハッハー、勿体なき御言葉を!」」


オラ達は素直に、称賛の言葉を貰ったべ。


「あとね、大老様には、叱られてましたが、東堂、貴方はカスミ姫には、よく遊んで上げてね」


「ハッ!しかし、御台所様、それは…宜しいのでしょうか? 城下町へと姫を遊びに連れ出した拙者が言うのも、おかしな話ではありますが…」


「良いのです、大老様にはわたくしからも、言っておきます、上臈御年寄様と共に進言すれば、あの方も納得してくれる筈です」


御台所様が、そういうと涙を流しているべ。


「御台所様! どうかされましたか、拙者達が無礼が働いてしまったならば、どうかご容赦を…こら、東堂、お主も頭を下げぬか!」


「ハッ、御台所様、どうかご容赦を!」


「お二人共、顔を上げなさい」

         

御台所様はそう言って、オラ達にそう言ったので、オラ達は顔を上げた。


「あの子にも、生きる喜びをあげれると思ったら、涙がでたのです、東堂、本城、貴方達がわたくしも宗家様も、あの子に笑顔を与えらなくて、それが負い目に感じていたのです、でも、昨日でしょうか、御小姓おこしょうのツバメから、聞いたのです、あの子が笑っていたと…それも今までで一番、綺麗な笑顔だったと…」


カスミ姫様の母親なりの愛情を感じたべよ。

愛娘が人間らしく生きるのに、身分は関係ないべな…オラもおっかぁによく師匠の練習の後に、心配されたもんだべ。


「私からはそれだけです、あの子を宜しく頼みます」


御台所様が頭を下げられたべ!恐れ多く、オラも本城殿も頭を下げた。


「御台所様」


襖の奥から、御小姓おこしょうであるツバメ殿の声が聞こえるべ。


「ツバメ、どうかしましたか?」


「実は…将軍様が東堂明、本城毅一郎誠、両名に会いたいと…その…今、襖を開けますね…」


襖が開けられ、部屋に入って来たのは、当代将軍、徳沢宗家様だ!


「「将軍様、勝手にこの場に来て申し訳ありません」」


一応、ここは、大奥の間に相当する。

本来なら、将軍様以外の男は入るのは、御法度なんだべ、だけんども、御台所様のお呼びで来てしまった…この状況、どうするべ、今度こそ、お払い箱か…そう、緊張していると…


「そう、畏まるな!ほれ、足も崩してもよい、東堂、本城、お主達の活躍は耳にしておる、特に東堂、誠にその忠義、ご苦労である」


将軍様は意外にも、怒らずに…寧ろ、お褒めの言葉を頂いた。


「その将軍様、怒らないのですか? 拙者達がこのような場所にいては…」


「構わん…東堂明、余の娘をよくぞ守ってくれた! その剣腕をこれからも振るってくれると誓えるか?」


「そうか、そうか…ほれ、カスミも入って来なさい!」


姫様もいたのだっぺ! まさかの将軍様一家の前にこうして立ち会うとは、夢にも思って無かったべ。


「東堂」


姫様は生気がないのは、以前と変わりなさそうだが…だが、表情には嬉しさが出ているように感じた。


「はい!!何でございましょう!」


わたくしの事が好きか?」


場に緊張が走った!母君、父君である御台所様と将軍様の前で、何と返事をするべよ。

頭が混乱するべ、そんなオラはとんでもない事を口を滑らしたべ。


「好きであります…………姫様はオラの事が好きだっぺか?」


ッッッ!?オラは何と言う事を言ったっぺ!

流石に不味い事を口に出した事を後悔したべ。


「そうか、そなたは私の事が好きか…私は東堂、そなたの事を好きになれん…すまんの」


一連の様子を見ていた、将軍様と御台所様は笑っていた。


「東堂、流石、剛胆な気持ちを持っておる、だが…余の娘の目にはかなわなかったようだ、ワハハハハ」


「東堂、貴方…大胆なのですのね…フフフ」


「東堂殿、調子がよすぎですぞ」


挙げ句に御小姓のツバメ殿には、小言を言われる始末、何だべ、みんなして…オラ、決めったべ。

いつか、姫様をオラに惚れさせるっぺ


※※※


東堂、本城、御小姓のツバメ、父上が部屋から、出ていった。

居るのは、母君だけだ。


「母上…私…」


「分かってます、東堂明の事は本当は好いておるのでしょ、あの場で本心を言わなかったのも、何か理由があるのでしょう」


だって、だって、私に惚れてたら、あの男…無理をするのだもの。

それなら、はじめから、好いておらんと言えば…無理しないと思ったの。


「女心は複雑ね、カスミ」


「母上、私、私、本当は…」


「いいの、いいの、我慢しなくてもいい日がきっと来るわ」


母上の言葉が救いだった…東堂…好きだ!

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