第4話 東堂明、契約の巻

「刀だと…」


先程の包帯を全身に巻いて、着物を着ている、老婆がオラに刀を差し出したんだっぺ。


「お侍様、この場を切り抜ける為にも、この刀を…」


「断る、拙者を甘くみないで欲しい」


「ひひひ、そうですか…ならば、この老婆、高みの見物といきますかね」


「東堂、来るぞ」


カスミ姫様がオラに言うと、大鬼獏良だいきばくら修羅一丈しゅらいちじょうが攻めてくる。


ここは…あの技で…真当流、大月王烈衝だいけつおうれっしょう

二人の猛者に、高速の斬撃を見舞うも…


大鬼獏良に当てるも、刀で防がれたっペ、修羅一丈には、躱されたんだべ。

こりゃ…相当な使い手だべ、この場を切り抜けるには、どうする、手の打ちようがない。


オラは、姫様を守れないのか…


オラの脳裏には、先程の老婆の言葉がぎる。


「ご老人、先程の言葉は本当だっぺか」


「はあ…何でございましょうなぁ」


二人と睨み合いながら、老婆に確認する。


「その、刀があればこの場を切り抜けられると、あんたは言ったペ、それはまことだっぺな」


「ええ…そうです、契約を結べはですが」


「契約!それは、何だっぺ!」


「契約は、貴方の寿命ですな、そして…刀を使う事に、貴方の五感、視・聴・嗅・味・触の五つの感覚が薄くなり、寿命もまた別に、縮まります」


何だ…その悪徳商法みたいな、羅列は…だが…だが…オラも姫様も危ないっぺ。

ならば、腹を括るしかないべ。


「乗った! その刀を寄越すっぺ」


「お買い上げ、ありがとうございます、それでは、お侍様の寿命を半分程、頂きますよ」


老婆が素早い身のこなしでオラの眼前に現れ、胸に手をやり心臓を掴む。


「がああああああああああああああああ!」


「ホッホ、新鮮な若い者の寿命じゃ、生き返る、生き返る」


目の前に繰り広げられる、光景に敵、二人は、動かずにいた。


姫様は…


「東堂!東堂!」


オラの名前を呼びながら、老婆を俺から引き離そうとしていた。


「ひひひ、そう引っ張らずともよい、契約は完了した、お侍様よ、この刀…龍我毘沙丸りゅうがびしゃまるを授ける!」


老婆が差し出した、龍我毘沙丸を抜き、オラは、二人と再び、対峙する。


「終わったようだな、たかが、刀一振り、増えた所で、我々の敵ではない」


「大鬼獏良の言う通り…小僧、我ら二人を相手取り、立ち回った事を称賛しよう、我らも武人の端くれ、取り込み中の所は見逃してたが、今度は、本気でゆく…覚悟はいいか?」


「覚悟するのは、お主たちだっぺ…」


龍我毘沙丸と愛刀虎鉄の二刀流で、オラは構えた…先程とは、雰囲気がまるで違うオラに、敵、二人は、後退りをする。


「坊主、先程とはまるで違うじゃないか…良かろう、大鬼獏良、参る!」


「修羅一丈、大鬼獏良の相方として、参る!」


天童の配下、二人の武人がさっきより、まるで違う動きで、迫ってくる。


だが…


真当流…龍虎無双りゅうこむそう


真当流の二刀による、二刀に気を込めて対峙する相手を乱れ斬る、真当流の難易度の高い技。

膂力も増した、この二振りで二人より人間離れした動きで斬りかかるべ。


「ぐうう、ぬおお!」


「ぐああああ!」


二人は、その場に倒れた…っぺ


龍我毘沙丸と虎鉄を納刀し、姫様の元へ駆け寄る。


「姫様、お怪我はござらんか?」


わたくしなら、何の心配もいらぬ、東堂! 腕に傷が!」


「これくらい、平気でござる、唾でも付けとけば治りましょう」


「いけません! 傷をそのままにしとけば、病気にかかるぞ、腕をこちらに…」


姫が傷ついた腕に手をかざすと、傷がみるみるうちに治っていく。


「姫様…これは!」


「我が、将軍家の姫のみが使える、治療術じゃ、驚いたか?」


「ええ…まさか、姫様にこのような力が」


わたくし達、姫と呼ばれる者は、代々、この不思議な力を持っておるのじゃ」


「そうですか…ありゃ?」


全身から力が抜け、膝から崩れるように倒れたべ、これは、あれか…あの刀の行使の副作用か…。


「東堂!大丈夫か!?」


「なーに、ちょっと疲れただけでござる、さあ、姫様、外も暗くなってきもうした、帰るでござる」


「そうじゃな…帰るとするか」


※※※


「この…うつけ者が!!」


「ハッハー、拙者に落ち度がありもうした、どうか…ご勘弁を」


城に戻ると、大老様がかんかんに怒っていたっぺ、まあ、当然だべ。


「ぬうう、貴様のような田舎侍を姫様の護衛の任に付かせたのが、そもそも間違いだった、貴様を解任に致す」


「お待ち下さい、大老様!」


本城殿が会話に割って入った。


「この者、東堂明は大馬鹿者では、ありますが、聞けば、天童の配下、十界仙を二人も返り討ちにしたそうでは、ありませんか、この七百年、誰も敵わなかった天童及び、その配下、二人もです! ここで解任というのは我々、将軍家にも損だと忠言致します」


「ぬぬぬ、東堂明!」


大老様が凄い顔で、こっちを見てくるっぺ、さっきの十界仙よりおっかねぇ。


「はい」


「貴様を護衛取締役に任命する」


「それは…つまり」


「昇進だ、喜べ、貴様の腕を見込んでの事じゃ」


まさかの昇進、喜んで良かったべ…まさに首の皮一枚で昇進にありつけた事に、田舎のおっかあ、おっとうにも手紙で後で送るべ。


「あと、本城毅一郎誠、貴様も護衛取締役に任命する」


まさかの本城殿も!


「貴様には、この大うつけの目付けにもなってもらなければ、ワシも不安でしょうがない」


「ハッハー、その役目、仰せつかりました」


※※※


「いやー、まさか、貴様に続いて俺も昇進とは、大老様も大胆な事をなさる」


本城殿の部屋に招かれて、酒を共に呑んでるが、本城殿は嬉しそうにしながら、どこか浮かない顔をしている。


「東堂…何故、大老様が俺も昇進に為さったのか、その腹積もり…分かるか?」


オラは分かった。


「嫉妬を買わない為でござろうな」


「そうだ、あの狸爺…いや大老様は俺が貴様に嫉妬して、を仕出かすんじゃないかと、そう計算しての人事だ」


「本城殿はそんな器の小さい御仁では、ござらん」


「ふふふ、貴様、いや、お主は嫌味もなくそう言える、大した男だよ」


本城殿はオラのお猪口おちょこに酒を注ぎながら、言う。


オラは注がれた酒を一口で飲み切る。


………………?


「美味い酒だろう、これはここが俺の地元の名産品、帰蝶だ、んっ、どうした?浮かない顔をして、目出度い日だ、もっと呑まないか?」


「本城殿、拙者達は明日も任務でござる、酒はそろそろ…」


「そうか? そうだな、まさかお主に言われるとは、俺もお目付け役、失格だな」


「そう卑下にするなでござる、では、失礼した!」


腕が震える、酒の酔いもなく、味も感じない、これが…龍我毘沙丸の副作用によるものか…姫様の為とは言え、これを使うのは、天童と十界仙との戦のみだべな。


※※※


「カスミ姫様、今日は、いえ、今まで見た事無いくらい、笑顔が綺麗ですね」


「そうか、そう見えるか…」


御小性のツバメにそう言われた時、わたくしの脳裏に浮かぶのは、あの男…東堂明、彼は町中を案内し、興味がある色んな物を案内してくれた。

十界仙の時も、命をかけて守ってくれた…あの老婆が東堂に言った事は、本当なのだろうか…これからも、命を削って守るのだろうか…忠義の為とはいえ、私は心苦しかった。


東堂明…私はお主の事が好きだ。


どうか…死なないでおくれ。

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