第3話 東堂明と呪術師と十界仙の巻

―――――1週間後


御台所様みだいどころさま上臈御年寄様じょうろうおとしよりさまが居ない時に、カスミ姫様にある事を提案したんだべ。

本城殿や御小性おこしょうのツバメ殿は、その場に居て、オラの提案を聞いては、驚き、焦り、怒らせたんだべ。


その提案というのは…


「カスミ姫様、拙者と城下町へ遊びに行きましょう」


「なっ!東堂、貴様、とうとう気が狂ったか!この間、鬼も出てるのに、町へ繰り出すとか、出来る筈もなかろう!」


「そうですよ、東堂殿、この状況で遊びにいくなど…出来る訳ないじゃないですか!」


お二人に、猛反対されるも、オラは諦めねぇ。


「あやかし、妖怪の類は拙者に任せれば、よろしいでござる、今、御台所様や上臈御年寄様がいない時ぐらい、羽目を外しても、良かろう、仮に知ったとして、姫様が了承すれば、姫様の待遇からしても許してくれるでござる」


「貴様、この一週間、俺に町を案内させてたのは、この為だったのだな!」


「流石、本城殿、賢明な御仁である」


「東堂明!」


「ハッ!何でございましょう」


カスミ姫様が口を開き、オラに言い渡す。


それは…


わたくしも城下町へ気晴らしに行きたい、護衛を頼む」


生気のない声は相変わらずだったが、少しだけ、ほんの少しだけだったが、愉快そうな表情でいた。


「ハッハー、大船に乗った気でいてください」


本城殿やツバメ殿は、あちゃーと頭を抱えておるが、どこか、嬉しそうにもしていたべ。


※※※


「東堂、あれはなんじゃ?」


「あれは人形浄瑠璃を行う会館でござる、太夫・三味線・人形が一体となった芸術でごさる」


「ほう、庶民はあれを楽しんでいるのだな」


城下町へ赴く際、普段、着ている十二単から、御小性から借りた着物に着替え、町を散策することにした。


「東堂、あれはなんじゃ?」


「はっ、歌舞伎座でございます、中では歌舞伎…音楽や舞踊と一体となった演劇が行われてるでござる」


姫様はあちら、こちらへと興味津々に尋ねるべ。

きっと、城の中では、退屈な日々を過ごして居たのだっぺさ。

だけんども、顔色は相変わらずだっぺな、やはり、天童とかいう不届き者を懲らしめなければ、姫様にとって、自由が得ることは、出来ないであろうっぺ。


「おい、東堂、あれを見てみろ!飴を売っておるぞ!子供達もはしゃいでおる」


「姫様も一本、頂くでござるか?」


「東堂!お主、太っ腹だな、ありがたく頂こう」


少しだけ、姫様の顔に生気が戻っているように、感じたべ、やはり年頃の女子おなご、甘い物には興味津々だっぺ。


そして飴屋の主人に飴を一本、頂こうとする。

「東堂、わたくしは、あの鳥の形のがいい…あと、東堂…わたくしのことは、カスミと呼ぶのじゃ」


「はっ、カスミでござるね、承知した、ご主人、そこの鳥の飴を一本、頂けるか?」


「はい、はい、四文ね、どうぞ!」


「カスミ、これをどうぞ!」


姫様は嬉しそうだった、飴を舐める姿は、本当に、そこらの年頃の娘と変わらぬ、愛らしさがあったべ。

姫様と町中を散策し、川沿いに怪しい姿の者が居たっぺ。

何やら、物を売っているわけでもない、拙者は釣られるように、川沿いに居た、その者に足を運ぶ。


「どうしたのじゃ、東堂?」


「カスミひ、いや、カスミ、ちょっとここで待って貰えるでござるか!」


「構わんが、なるべく早く戻ってこいよ、わたくし、一人、寂しいぞ」


「分かっております、なるべく早く戻ります故」


駆け足で川沿いにいるあの者に、会いに行ったんだべさ、そうしたら…


「いらっしゃい、お侍様、我に何かご用で?」


その者は全身を包帯で巻いていた、声や着物を着ている所を見ると、老婆だと察したべ。


そして…オラの勘では…


「……お主、呪術師だっぺな、こげな所に店を構えて…何をしている」


「お侍様は勘が鋭い、そうです、我は呪術師、むくろ、強さを求める者に力を授ける者」


「力だと…」


「お侍様、貴方は、どうやら、今の自分の力に満足しておられないようだ…どうです、我の秘術を授けようでは、ありませんか?」


胡散臭い、胡散臭いっぺ、こんな所にやって来た、自分を恥に思ったべ。


「いや、不要でござる、失礼した!」


「キャーーー!」


川沿いのこの胡散臭い店から、出たら女子おなごの悲鳴…それも、姫様のだっぺ。


東堂明、一生の不覚。


急ぎ、姫様の元へ駆けつけると、其処には、姫様を攫おうと、異様な雰囲気の侍が二人いた。


「姫様から離れろ、不届き者!」


オラは抜刀し、姫様と不届き者の間に割って入った。


「カスミ姫様、お怪我はござらんか?」


「大丈夫…だけど…あの者達は天童の配下、十界仙の手の者よ」


「十界仙?」


「おおっと坊主、そこの姫を渡して貰おうか、我は十界仙の一人、大鬼獏良だいきばくら、もう一人は修羅一丈しゅらいちじょう、天童様の配下として、姫を渡して貰おうか」


大鬼獏良と言う侍と修羅一丈という侍、どちらも、体格はオラと変わらないが、構え、呼吸使い、威圧感…そんじゃ、そこらの妖怪と段違いだべ。


どうする? このまま姫を連れて逃げるか?

無理だべな、この二人に囲まれては…どうする、どうする、どうするっぺ。


「お困りのようですな、お侍様」


先程の老婆がオラの前に現れた!


「何奴!」


十界仙の二人も警戒している。


「お侍様…我ならこの場を切り抜けられますよ、ひひひ」


不気味な声を上げながら、オラに迫る。


「この刀をお侍様に献上しようと、思いましてな」

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