ヨハネの四騎士
「いつもの夢だ」
疑似戦闘訓練、母体の記憶から作り出されたシミュレーション。エデンのAIによって課された日課。
超々近距離によって放たれる弾丸は互いをかすめて飛んで行く。コルト・パイソンの残弾数に気をつけなければならない。相手のデザートイーグルの残弾数の違いに関しては言うまでもない。互いに数発外したところで私は肉弾戦に持ち込んだ。蹴りで敵の少女から銃を蹴り落とす。そのままこめかみにこちらの拳銃を当てて引き金を引いた。
「good night」
そこで目を覚ます。
「おやすみなさいで目が覚めるなんて変な話」
「あれW2、どうしたの、こんな時間に?」
「R4こそ」
「うーん、それが思い出せなくて」
シミュレーションの事を覚えているエデンズチルドレンは少ない。
「
Johannesとは上位AI構造体の最上位存在だ。私達の記憶もそこにバックアップされ、死んでも新たな肉体や精神が再生される。何度壊れても新しいものに買い替えられるように。私達は所詮、
「今はそういう気分じゃないかな」
R4は薄く笑うとベッドにダイブした。私は苦笑すると後に続いた。
朝が来る。
『オペレーターより任務通告、都市管理AIの暴走を感知、テロ行為によるハッキングと推測』
「都市管理AI~まためんどくさいわね、最初からロケラン頂戴」
『武装の強化具申を承諾』
「あら素直」
『現場に急行されたし』
AIに急かされハッキングを受けた敵性AIの下に向かう。
アサルトウェポンを起動、現場メタバース内にいたのは大熊だった。
「イナゴより歯ごたえありそうね」
「アサルトウェポンぶっ放したら一発で昇天だけどねぇ」
大熊が牙を剥く。こちらに走り寄る熊型AIをアサルトウェポンで蹴散らす。
『敵個体をオリオンと呼称、認識コード送ります』
「インフラ関係か……消すのはまずいか?」
「んじゃ捕縛モードで……っと!」
捕縛網を射出、熊を絡め捕る、が。
『あなたがたはすいどうのじゅうようせいをりかいしていますか?』
熊型AIは鋭い爪で捕縛網を斬り裂いてしまう。
「こうなりゃ腕の一、二本奪ってもいい! 攻勢ウイルスを注入する!」
私が引き金を引くとオリオンの腕が一本、弾け飛ぶ。
0と1が乱舞する。二進数で構築された世界で。
熊も私達もデータでしかない。
熊が逃げの姿勢に入る。
「逃がすかよ」
「ひゅーW2かっこいいー惚れちゃいそうだぜー」
「まだ惚れてなかったの?」
ちょっとショックだった。
私はアサルトウェポンで熊の足を狙う。
見事にヒットするウイルス性を帯びた弾丸はオリオンの足を弾き飛ばした。
すると熊の身体が0と1に分解されていく。
「やりすぎたか!?」
「違う、メタバースから出ようとしてる!」
「後を追う! オペレーター!」
『捜索を開始、ウッドシティF地区にて敵個体を発見』
「戦力は!?」
『不明』
「役立たず!」
メタバースを脱して部屋に戻るとウッドシティまで駆ける私達。
私の手にはコルト・パイソン、R4の手にはAK-47。
ウッドシティF地区にたどり着く。
そこには異形のアンドロイドがいた。
持っているのは――
「ボウガン……?」
「古くさー」
矢を番えこちらに向かって放ってくる巨漢のアンドロイド、異様に右腕が大きい。そこにボウガンが備え付けられている。
遠目からでは分からなかったが。巨大過ぎる矢に反応が遅れた。
地面を穿つそれは爆発した。
爆風に背を打たれる。
地面に打ち付けられる私達。
「かっはっ――」
「ホワイ――」
二撃目が放たれる。
爆発する矢が。
逃げられない。
その時だった。
バイクの排気音。
旧時代の化石の音が響いた。
「
「わたしの名乗りまで取らないでよブラシ」
「その略し方やめたらこっちもやめたげる」
「あのー痴話喧嘩は後にしてもらいませんかね」
「おっとそうだった」
バイクに跨ったまま二人の少女はオリオンに向かって行く。
「プラズマブレードの錆びになりなぁ!」
「プラズマは錆びないでしょうに」
一閃、すれ違い様に斬り捨てる。
オリオンの右腕が地面に落ち、袈裟斬りにされた胴体が崩れ落ちた。
「はぁ……助かった」
「二人共ありがとー」
「いいってことよ」
「あなたは運転してただけじゃないですの」
そうB6はバイクを運転していただけであり、実際にプラズマブレードを振るったのはP8である。
『任務完了を確認、当該AIオリオンの凍結を敢行、帰投されたし』
「凍結? ウッドシティのインフラはどうなるのよ」
『ウッドシティは閉鎖、住民は別地区へと移動、これにより対処を完了とする』
「Johannesの悪いところだよなぁ」
B6が愚痴る。
Johannesの管理主義は人を人と思ってはいない。
思い出、郷愁、残響、そんなものを意に介さない。
いやJohannesに意思などない。
そこにあるのは『管理』の二文字だけだ。
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