第8話 オカルトマニアと廃屋の穴2
その後も曰く付きの場所巡りを続け、訪れた神社で、
「蛇、仕事か? 見覚えのある男だが」
家の奥から茶色い髪の男が現れた。そうするのが当然であるかのように、美しい女の手を引いて。
九尾の狐である男は、細井を見下ろしている。
前に会った時にも感じたが、彼女へ向ける時と他者へ向ける時で、彼の瞳の温度が変わる。
「きゅうちゃん、細目さんだ。ほら、ここへ来る途中で会った」
女の言葉で、細井は惜しいと笑う。
「お久しぶりです。九尾様、雪乃様。細井です。確かに細目ですが、井戸の井です」
「あぁ、うるさい男か。何の用だ」
細井から守るように、茶色い髪の男は女を抱き込む。
なぜか警戒されている様子には、苦笑するしかない。
「オカルト趣味の一貫で、あちらの神社を訪れたのですよ。そしたら
「相変わらず、うるさい男だ。女狐と一緒にするな。――爬虫類! なぜ連れて来た!」
「あー、仕事になるかなってな。おい細目。お前、金はあるか?」
「お賽銭ですか?」
くすくすと女が笑い、男たちは口を噤む。
「祓い屋を営んでいるのだ。細目さんにこびり付いたその穢れ、八万で払えるが、如何かな」
呼び名を直すのは諦めて、細井は頷く。
最近、身体が重たいのは自覚していた。原因も分かってはいたが細井にそういう能力はないし、曰く付きの場所巡りをやめるつもりもなかった。
「お願いします。ちなみに、穢れを寄せ付けないアイテムとかはないですかね? あれば欲しいのですが」
女はふむと呟き、考えている。
チリンと鈴の音が鳴り、女は自分の両の手首を眺める。そこには、鈴が縫い付けられた紅白の細布。
「きゅうちゃん、これはどうだろうか」
「しばらく効力はあるだろうが、細目のように穢れた場所ばかりを訪れていれば、すぐに効かなくなる。雪乃が身に付けたというだけで、効力が切れた後は逆効果になるだろう」
「父のようにか」
「……そうだ」
茶色い髪の男は、気づかわしげに女の髪を撫でる。
女はまた、ふむと呟き、考えているようだ。
「水はどうだ? 飲めば体内の浄化。降りかければ、外側の穢れが祓える」
茶色い髪の男からの提案。
「それだ、びゃく。お前の水にしよう。いくらが良いだろうか」
神と、神の花嫁が商売の話をしている様を、細井は興味津々で眺めた。
金額も決まり、細井は購入する事を決める。
出された水に清い力があるのは感じたし、彼らは本物だと、知ってもいた。
水は、一升瓶へと詰められた。
「細目さんはこびり付いているから、洗い流すのが良いだろう。
女の声を合図に、雨が降り始める。
空は晴天。
雨は、細井の周りにだけ降っている。
「まるで狐の嫁入りです」
「降らせているのは狐じゃなくて、俺だがな」
感動が込められた細井の呟きに、黒髪の男が答えた。
清い水を浴び、身体が軽くなるのを感じた。だが、服のままでびしょ濡れだ。髪からは水が滴っている。
「きゅうちゃん、乾燥だ」
楽しそうに女が言うと、茶色い髪の男が小さな溜息を吐く。
そして、細井の周りに小さな青い炎が現れ、くるくる回る。
「新しい使い方だと思わないか、細目さん」
「はい! 狐火を乾燥に使うだなんて! 贅沢です! すごい! そして熱くない! 触るとどうなりますか?」
「燃え上がる」
茶色い髪の男の言葉で、細井は固まった。危険な代物らしいと分かり、大人しくなる。
服も髪もあっという間に乾き、身体も軽くなった。
穢れを払う水を手に入れた細井は支払いを済ませ、ほくほくの笑顔で民家を後にする。
彼らの住処は判明した。
水が無くなれば、また購入しに来ればいい。
身体が重くなれば祓ってもらえばいい。
これからも曰く付きの場所巡りに益々精を出せると、細井は大満足で家路に着いたのだった。
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