第十四話 タイムカプセルから出てきた闇・Ⅶ
◆◇◆◇◆◇◆◇
新田先生に見送られ、ぼくと舞原は、真野さんと一緒に学校を出た。
舞原は、真野さんに家まで送ってもらうことになった。
本当は、ぼくが送りたかったけど、真野さんが「送るよ」と言った後で、「いや、ぼくが送ります」とは言えなかったのだ。
でも、舞原は別れ際に「ありがとう、タケル」と言ってくれた。
その言葉に、さっきまで恐怖で固くなっていた心がほぐれ、少しだけ軽くなった気がした。
家に帰ったぼくは、地図を取り出すと、龍因寺をかき込み、次に学校の場所に『怪』の印を入れた。
その後で、ぼくは考え込んだ。
何か、もやもやと引っかかるものがあるのだ。
あのとき、新田先生は、何かに取り憑かれていたのだと思う。
でも、真野さんは、手紙を書いた一之瀬という人は、もう新田先生を恨んでいないと言っていた。
ぼくは今まで漠然と、タイムカプセルの中にあった手紙が、新田先生にとり憑いたのかなと思っていた。
手紙が取り憑くなんて妙だとは思うけど、真野さんの言っていた通り、深い恨みの文章を書き込まれ、十年間も暗いタイムカプセルの中に閉じ込められていたのだ。
もしかしたら、手紙にそういう禍々しいモノが宿ったのかも知れない。
でも、仮にそうだとして、どうして手紙に宿ったモノは、新田先生にとり憑き、ぼくと舞原を殺そうとしたんだろうか……。
危害を加えるなら、恨みの対象である、新田先生自身に対してじゃないと、理屈が合わない……。
おかしい……。
何かおかしい……。
……そうだ、もしかして!
ぼくは、思い浮かんだ考えに身震いした。
学校には、真野さんと同じように、新田先生の旧姓が木原だということを知っている先生はいるはずだ。
あのとき、職員室で手紙を読んだ新田先生は、こう考えたのかも知れない。
二学期が始まれば、ぼくと舞原が手紙に書かれていた内容を言いふらすと……。
そして、それが他の先生の耳に入り、過去、一ノ瀬という児童に、自分がしていたことがバレてしまうと……。
そうなってしまえば、新田先生の立場は悪くなる。
それを防ぐために、ぼくたち二人を……。
『自分さえ良ければいい……。
そのためなら、大事な子供たちが傷ついても構わない……。
あのときの私の心は、そんな闇の暗い部分に覆われていたの』
新田先生は、そう言っていた。
……今は?
今は、どうなんだろう。
新田先生に憑いていたものがあるとするなら、それは手紙にこもった恨みなんかじゃなく、新田先生自身の暗い闇の部分だったんじゃないだろうか。
手紙は、それを解き放つ、きっかけに過ぎなかったのかも知れない……。
真野さんが手紙を焼き、お経をあげたことで、ぼくはもう終わったと思い込んでいた。
本当にそうなんだろうか?
もしかして、今もまだ、新田先生の闇の部分が、憑いたままだとしたら……。
ガチャッ。
背後のドアが不意に開いた。
驚いたぼくは、飛び上がるように振り向いた。
そこには怖い顔をしたお母さんがいた。
「タケル! 上履きはどうしたの!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
これは二学期になってから知ったことである。
新田先生は野火塚小学校を辞めることになった。
退職届を出して辞めたのではなく、夏休みの間に、行方不明になったのだ。
しばらくして、『墓場』の新しい噂を聞いた。
生徒の一人が、石膏のタイムカプセルをコツコツと叩くと、中から、女性の声が聞こえた。
「……出たくないの」
それは、新田先生の声にそっくりだったらしい……。
了
『幽霊の見つけ方』へ、つづく
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