ニコニコの心

「ここか――――」


僕――通りすがりのナーロッパ住民Aは、眼前の建物を見上げた。


門扉に、燦然と輝く「ニコニコ」のマーク。


まさしく、此処が、スマイル団アジトだ。


「御免下さーい!」


『ぷにょん』 σ)^ω^)ニコニコ


呼び鈴の頬を突つくと、「ニコニコ」と呼び鈴が笑い、中から、ニコニコと笑い声がした。




「あら、貴方ね?」


程無く、ニコニコした女性が出迎えてくれた。


「私は、料理当番の、モモよ。


 団長から、話は聞いてるわ。入団希望ですって?」


「は、はいっ!僕、ニコニコしたいんです!」


「大丈夫よ。この団に入れば、直ぐに、ニコニコ出来るわ」


「よ、宜しくお願いします!モモさん!」




「じゃあ、先ず、ニコニコの練習からよ」


「はいっ!」


「私の真似をして、ニコニコしてね」


「こ……こうですか?(^O^)ニコニコ」


「うーん、ちょっと違うわね。


 もっとこう……だらしなく力を抜いて」


「こうかな?(^∀^)ニコニコ」


「う~ん……まだ駄目ね」


「何が、いけないんでしょう?」


「そうねぇ……」




「やぁ」


「あら、クーヤ♡」


「あっ、貴方が、クーヤさん」


「君か?入団希望と言うのは」


「は、はいっ!」


「先刻から、私が教えてるんだけどね、仲々、ニコニコ出来なくて」


「そうか。気分転換に、俺と、空へ出てみるか?」


「良いんですか?」


「ああ」


「あーっ、良いなぁ、あたし、レヴィに乗せて貰った事無ぁーい!」


「モモを連れて行って、空中でもし、戦闘になったら、堪らんからな」


「ぷーッ」




「クルゥ~!」


「うわ~っ、空の上って、気持ち良いですねぇ~!」


「だろ?」


僕とクーヤさんは、龍のレヴィの背に乗って、雲の上に居た。


「うわー、先刻迄居たアジトが、あんなに小さく」


「フフ」


「クルゥ、クルゥ」




「クーヤさんのお仕事って、どんななんですか?」


「俺の仕事は、巡回だ。まぁ、要は、パトロールだな。


 団の周囲に、異変が無いかどうか、空から見張ってるのさ」


「クルゥ~」




「へぇ~。ただ単に、いつも暇そうにプラプラして、


 セリビアス家の令嬢んとこに、横恋慕しに行ってるだけじゃ、無いんですね!」


「今ここで落ちるか!?」


「ひぃっ!す、すみませんっ!」


「全く……」




「所で、君は、何故、うちの団に入りたいんだ?」


「は、はいっ!……僕、何か、根暗って言うか……、


 いっつも、仏頂面で、俯いて、つまんなそうにしてるんです。


 だから、スマイル団に入って、ニコニコしたら、人生楽しそうだなぁ、って思って」


「成る程……」


「クルゥ~?」




「しかし、それは違うぞ、少年よ」


「えっ?」


「確かに、俺達は、いつもニコニコしている。


 しかし、それは、辛い事が全く無いから、と言う訳じゃ無い」


「そ……そうなんですか?」


「クルゥ」




「ああ。俺だって、泣きたい時もある」


「ええっ!?そんなにニコニコしてるのにっ!?」


「そりゃ、あるさ。例えば、タンスの角に、足の小指ぶつけた時とかな」


「あぁ、そりゃ痛いっすねぇ」


「涙目だ。しかし、そんな時でも、顔はニコニコだ」


「そ、そこ迄、無理しなくても……」


「モモだって、ああ見えて、色んな事に耐えている」


「モモさんが!?」


「クルゥ、クルゥ」




「辛い時も悲しい時も、顔はニコニコ。


 それが俺達――スマイル団の、『心』なんだ」



「ニコニコの……心……!」




あぁ……僕は、勘違いしていた。


スマイル団に入ってニコニコすれば、辛い事は、何も無くなるかと思っていた。


でも、そうじゃ無かった。


団員達は、心に、辛さや苦しさを抱えていても、それでも、ニコニコしていたんだ――。




「帰ったぞ」


「只今です!」


「クルゥ~」


「お帰り、クーヤ、レヴィ、新入りさん♪」


「…………」


「? なぁに?」


(こんなモモさんにも、悩みがあるのか……)




「……僕、やっぱり、入団、辞めます!」


「えっ?」


「どうしたの?これからなのに」


「いえ……僕、スマイル団の事が、解っていませんでした。


 出直して来ます!」




こうして、僕は、スマイル団を後にした。


ニコニコの心。


今の僕には、まだ、理解出来ないけれど……。


いつか、僕も、その境地に、辿り付けたら良いな。


そう思って、僕は、少しだけ――……



微笑んだ。

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Momo ももちよろづ @momo24rose

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