プレゼント

「ふぅ。今日も無事に、巡回終了だ」


「クゥ~」


夕刻。


定期巡回を終えた俺は、龍のレヴィの背に乗り、アジトへの帰路を急いでいた。




「クルゥ、クルゥ~」


「ん?又、龍神池で泳ぎたいって?この間、遊んだばかりだろう?」


「クルゥ」


龍神池というのは、ナーロッパ有数の貴族・セレブリティ家の庭の東にある池だ。


レヴィは、この池で泳ぐ事を気に入っている。


……そう言えば、あの娘はどうしただろうか。




「お兄ちゃーん!」


「ん?」


遥か下方から、俺を呼ぶ声がする。


――あの娘だ。


先日、溺れている所を助けてやった娘が、あの池の畔で、俺を呼んでいた。




「やぁ。久し振りだな」


「お兄ちゃん!会いたかった」


娘は、俺が地上に降り立つなり、抱き付いて来た。


「ははっ、元気そうだな」


「お兄ちゃんのおかげよ。ほんとにありがとう」


「なぁ~に。もう落ちない様に気を付けろよ?」


「うんっ!」


輝く様な笑顔。


やはり、モモに似てるな。




「あのね、お兄ちゃんに、これ、あげる……助けてくれたお礼よ」


「ん?」


そう言って、娘が差し出したのは――。


「これは……」


(レヴィの……鱗だ)


先日の騒ぎの際に、一枚、剥がれたのだろう。


「きれいでしょう?」


彼女は、これが龍の鱗だと、気付かなかったのだ。


俺は、何とも言えぬ、ぬくい気持ちになった。


「綺麗……だな」


「ね?」




「……そういえば、名を聞いていなかったな」


「え?わたしはねぇ――」


屈託無く笑う少女。


「コモモ!」


(えっ?)


一瞬、耳を疑った。


「コモモ、だよっ」


(名前迄、同じなのか……)




「お兄ちゃんは?」


「俺か?俺は――」


一陣の風が吹き抜ける。


「クーヤ。夜月の風の、クーヤだ」


「くうや……。いいなまえね!」


そう言ってコモモは、ころころと笑った。




「さぁ……そろそろ俺は、行かねばならん」


「もう行っちゃうの?」


小さなコモモが、悲しそうな顔をする。


「仲間達が心配する」


「ねぇ、またあえる?」


「又会えるよ」


「コモモが呼んだら、かならず来てくれる?」


「約束するよ」


「じゃあ、おまじない」


「ん?」


ちゅっ


「こ……こら///おませさんだな」


「えへ」




コモモは、ずっと、ずっと、小さな手を振っていた。



さあ、今度こそ、アジトへ帰ろう。



もう一人の「モモ」が、俺を待っている。

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