笑顔の行方④

あ……!


朝からの騒ぎで、愛龍のレヴィに餌を遣ってないジャマイカ!


トップブリーダーの俺は、厨房から、ビタモンを取り出し、レヴィ用の皿に開けた。


キッチンには、まだ鯡の匂いが漂っていて、俺は思わず顔をしかめた。


足早に立ち去り、団の建物の裏の、モンスター牧場へ向かった。


「ふぅ……此処は閑かだぬ」


牧場では、レヴィや、団の他のモンスター達が、のびのびと放し飼いにされている。


楽しそうな鳴き声があちらこちらから聞こえて来た。


「レヴィー、飯だぞー。遅れてすまんな」


…………………………居ない!


レヴィが居ない!?


「真逆…………!?」



※ ※ ※



「気ん持ちいい~っ!」


空の上。


見渡す限りの雲海。


「クーヤ、もう肉まん食べたかな~っ?」


「クゥゥ~!」


青い龍の背に乗って、シャーマンの女性が飛んでいる。


「クーヤったら、どんなに頼んでも乗せてくれないんだもん。私だってレヴィとお散歩したかったの!」


「クルゥ、クルゥ!」


「うわ~、見て。家があんなに小さく見えるよ!」


「クゥ~」


遥か下方に、ナーロッパの家々が見える。


ミニチュアの様だ。


「あ、アジトだ~。お~い!お~い!」


手を振っても、見える訳は無い。



※ ※ ※



「あの馬鹿……!」


クーヤは苦々しく天を睨む。


「空の上には……」



※ ※ ※



「光る~雲~を突き抜~け Far away~♪(Far away)」


「クゥゥウ~♪」


「体~中に~広がるパノラマ~♪」


「クゥウゥクゥウゥウ!♪」


モモが、昔、ナーロッパで放映されていたアニメのOPを歌っている。


「そうだ!今こそあの伝説の技の練習を」


「クゥッ!」


モモはポーズもそのままに、


「か~……


 め~……


 ●~……


 め~……


 波ーーーーーーーーっ!!!」


モモの掌から、あの技に模した、攻撃魔法が放たれた。




前方から、招かれざる者が迫り来る。


「え……?」


ドラゴンライダーだ。


「レヴィ!引き返そう!」


「クゥ!」


「……女」


『ビクッ!』


モモが振り返ると、凶々しい紫の竜の背に乗る、魔道士の男が居た。


ロッドを携えたその男は、何故か腹を痛そうに盛んにさすっている。


「……今の魔法はお前か……?」


「そ……そうですが」


「俺の腹に直撃したぞ!」


「ご……ごめんなさい。当たるなんて。直ぐに、ヒーリングを」


「もう薬草を塗ったわっ!」


(ん……?こいつ、スマイル団の……?大魔王様への良い手土産だ)


「こっちへ来い」


「お断りします♪(゜ω゜)」


モモは、ポーズを付けて踊ってやった。


魔道士は、必死に笑いを堪えている。


もっとニコニコしようよ!とモモは思う。


「面白い事を言う……だが」


魔道士の掌の中に集まった魔力が、音を立てる。


「その体で、俺のトールハンマーに、何度耐えられるかな?」


「ひ……!助けて!クーヤぁーーーーっ!!」




「モモッ!!」


(!!? クーヤ!?)


クーヤの声が響いた、次の瞬間。


『べしっ!』


レヴィのしっぽアタックが、魔道士を凪ぎ払った。


「へ?」


まるで、達磨落としの様に。









足場を失った魔道士が落下する。


「グモォォォーン!」


主を追って急下降する紫の竜。


ポカーンと呆気に取られるモモを背に乗せ、レヴィはゆっくりと旋回した。




「あ、ありがと、レヴィ」


(先刻、確かに、クーヤの声が……?)


「俺!俺だよ俺!」


「わっ!?」


振り向いたレヴィが、クーヤの声で喋っている。


「ななな!?」


「……レヴィは、憑依出来るモンスターだぞ?」


「あ」


忘れてた……w



※ ※ ※



―― 酒場 ――



「ふー、やっと改修が終わったメェ。ついでに、内装を、しーちゃん好みにリニューアルしてみたメェ」


『どかーーーーん!!』


「メェーーーー!!?」


上から何かが降って来た。


「メェッ!?」


しーちゃんの目の前には、天使の羽根と星の飾りにまみれた、魔道士の姿が。


「……(・-・)/ヨッ」


「ま……又、店が粉々メェ……!」


しーちゃん、涙目。



※ ※ ※



モモが地上に降りると、


牧場の真ん中に、


クーヤが居た。


モモは、


ニコニコ、


と笑い掛けた。


クーヤも、


ニコニコ、


と笑い返した。


モモは、何だかもう、それだけでいい様な気がした。


空が青い。


太陽もニコニコしている。


夕食には、好物を作ってあげよう。


笑うクーヤを見つめ乍ら、モモは、そんな事を考えていた。

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