第33話 炎との戦い

ドーン!


父さんが巨大な石をイノシシとサイのハーフのような生き物の上にテレポートさせた。


「こいつはイノドンと言って、見た目はこんなんだが味は良いぞ」


父さんは、今倒したイノドンを指差して言った。


父さんは、手際よく気絶したイノドンを殺し、テレポートさせた。


「さっきの洞窟にテレポートさせた」と父さんは言うと、スタスタと歩き始めた。


父さんの今の能力では自分以外のもののテレポートしか出来ない為、わざわざ歩かないといけない。


「こういうとき、自分も一緒にテレポート出来たら楽だなと思うな」


「そうだね」


やっぱり、父さんも僕と同じことを考えていたみたいだ。


「隆弘も先に行っておくか?飛ばしてやるぞ」


「いいよ。自分の足で歩くよ」


仮に先に行ったところで僕はイノドンをどうにか出来るわけでもないし、ただ待っているだけになりそうなので一緒に歩くことにした。


基本的に父さんと帰り道は無言だった。


時折、父さんがこの異世界にいる変わった植物や動物を見かけた時は少し解説してくれた。


まあ、元々父さんと仲良かったわけではないのでこれが僕らにとっては自然だった。


ふと、元の世界のみんながどうしているのか気になった。


健太、さやか、そして由美さん、みんな僕のことを思って送り出してくれたけど、今頃どうしているんだろうか?


「父さん、父さんの能力で元の世界の様子ってわかったりするの?」


僕は問いかけた。


「いや、別次元の世界に対しては、隆弘のように特別な場合を除いて干渉することは出来ない」


「そっか」


僕は少し肩を落とした。


「どうした?ホームシックか?」


「別にそんなんじゃないよ。みんなが今頃どうしているか気になっただけだよ」


僕は首を横に振った。


「恐らく、隆弘がこの異世界から元の世界に戻る地点は、『死に戻り』をした地点になると思うから、元の世界の人間からしたら、行ったらすぐに帰ってきた感じになるだろうな」


「そうなんだ」


なるほど、じゃあ、みんなは僕がいなくなって寂しいと思う時間もないわけか。


この寂しさは僕だけが感じているのか。


良かったと思う反面、そう思うと余計に寂しくなった。


そんなことを考えていると、あっという間に今の我が家である洞窟に着いた。


「さぁ、イノドンをざはくか」


父さんは大きめの包丁のようなものを取り出し、慣れた手つきでイノドンを分解していった。


父さんは、すぐに火を起こし、鉄の板の上でイノドンの肉を焼き出した。


イノドンの肉はまるで牛肉のようでとても美味しそうだった。


「さぁ、食べるか」


父さんは、皿に肉を乗せて僕に渡した。


「そこにナイフとフォークがあるだろ?取ってくれ」


僕は近くにあった箱からナイフとフォークを取り出した。


「食べてみろ」


「うん」


僕はイノドンの肉を口に運んだ。


「美味しい」


僕は自然と言葉が出た。


「そうだろ?イノドンの肉は我々の世界の牛肉を超えている」


父さんは、イノドンの肉を口いっぱいに放り込んだ。


「うん、美味い」


「うん、美味しいね」


「さぁ、まだまだあるからどんどん食え」


父さんは食べながら次の肉を焼き出した。


肉から溢れ出る旨味のエキスが口の中で溢れ、身体を喜ばせる。


「そうだ。これを忘れていた」


父さんは洞窟の奥から瓶のようなものを2本持ってきた。


「これを飲んでみろ」


「えっ?何これ?」


「酒だ。でも、そんなにアルコールは強くない」


見た目は薄くしたワインのような色だが、匂いはワインほど重くなく、軽い感じだった。


「でも、僕まだ高校生だよ」


僕は瓶を受け取るとった。


「また、もう大丈夫さ。父さんの息子なら飲めるはずだ。美味いから飲んでみろ」


僕は一口飲んでみた。


「あっ、美味しい」


甘さもしっかりある中、少し苦味もあり、味の深みを感じる。


しかも、少し感じる苦味が嫌な苦味ではなく美味しく感じるのだ。


そして、身体が少し熱くなるのを感じた。


「それが酒だ。まさか異世界でアルコールデビューとはな」


父さんは嬉しそうに言った。


父親が息子とやってみたいことランキングで上位に入りそうな酒を呑み交わすというのを実践出来て、僕は少し親孝行しているのかも知れない。


僕は自分で思っている以上に酒を飲んだらしく、気がついたら眠ってしまった。


「朝か…」


僕が目を覚ますと、父さんは洞窟の外で薪割りをしていた。


「おお、起きたか」


「うん、おはよう」


「おはよう。その辺の小川で顔でも洗ってこい」


父さんは薪割りを続けた。


僕が小川から戻ってくると誰か人影が走ってくるのが見えた。


「あっ」


「イノウエ!」


ピットが慌ててやってきた。


「どうした?やけに慌ててるじゃないか」


父さんは薪割りの手を止めて、ピットに訊いた。


「村が、村が襲われた。ゼノスの軍団に襲われた」


ピットの肩が上下する。


「なんだって!皆は逃げたのか?」


父さんの顔が一気に真剣になった。


「いや、女と子どもは優先的に逃したが、男たちは戦っている」


「銃は?」


「一丁はおいらが今持っている。もう一丁は村にある。タックに託していて、いざと言う時は使うように言っている」


「なるほど」


父さんは少し考えをまとめているのか無言になった。


「イノウエ、どうすればいい?」


「大丈夫だ。隆弘、今からピットと一緒にテレポートで村に行ってこい。俺は後から追いかける。テレパシーを繋ぐから状況を教えてくれ」


「了解。そこで戦えばいいんだね?」


「いや、まずは状況把握だ。最悪の時は『死に戻り』を使え」


父さんはナイフぐらいの短刀を渡した。


「了解。まずは状況を父さんに伝えるよ」


僕は頷いた。


「じゃあ、行くぞ」


父さんが僕とピットの頭の上に手を置いた。


「行ってこい!」



「村が燃えている」


ピットが目を丸くして言った。


「そっ、そんな…」


ピットは肩を落とした。


(隆弘、聞こえるか?)


父さんからのテレパシーが繋がった。


(うん、聞こえるよ)


(どうだ?村は?)


僕はあたりを見渡した。


(まず、村の家とかはかなり燃えている。そして、ゼノスの軍団と思われる人たちと村の人たちが戦っているよ。しかも、手から炎を出す能力者がいて、そいつが村を焼いているみたいだ)


(状況は悪いな。隆弘、まずは炎の能力者を倒しにかかれ、お前の能力ならやれるはずた。そして、今からしばらくしたら水を村の上空に転送する。それで少しは火はマシになるだろう)


(了解、じゃあ、水が届いたら炎の能力者に近づき、不意打ちを狙うね)


(ああ、そうしてくれ)


「タカヒロ、イノウエはなんと言っている?」


ピットが訊いた。


「今から村の上空に水を転送するって言っていた。水が届いたら僕があの炎の能力者に攻撃を仕掛けるよ」


「流石、イノウエ。良い作戦だ」


「来た!」


ピットと僕が空を見上げると水が豪雨のように村に降り注いだ。


「よし、行くぞ」


僕は加速の能力を発動し、一気に炎の能力者の近くまで近づいた。

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