第32話 文明の力

バン!


銃声が森の中で響き渡った。


「これは素晴らしい。完璧じゃないか」


父さんは弾を装填し、もう一度構えた。


「いくぞ!」


バン!


「いいぞ。全く問題ない」


「だろ?」


ピットは得意げに笑った。


僕は何故か健太のことを思い出した。


「ピット、この銃を百丁作るのにどれぐらいかかる?」


父さんが銃を下ろし、ピットに手渡した。


「今、これを含めて三丁しかないからな。鉄や火薬の原料に関しては、既に充分用意出来ているから、後は作れる人間を増やさないといけないな。一人で一丁作るのに少なくも二週間はかかるだろう」


「なるほど、では、鉄を加工する者や火薬を調合する者、パーツを組み上げる者と分業したらどうだ?もっと早く出来ないか?」


「確かに、それならもっと早く出来そうだな。流石イノウエだ。具体的な時間は想像もつかないが、分業化した方が効率はいいな」


ピットは深く首肯した。


「じゃあ、ピット、この銃を百丁作ろう。分業化から指導まで君に任せるよ」


父さんはピットの肩を叩いた。


「了解、じゃあ、町の奴らに伝えてくるよ。イノウエの考えだと百丁あればゼノスの野郎も倒せるのかい?」


「そうだな。百パーセントとは言わないがかなり戦力は上がり、有利に戦えるはずだ。奴の兵隊は木と石で出来た槍ぐらいしか武器は持ってないからな。こちらは剣と銃があれば人数差が十倍でも勝てるはずだ」


「だか、問題は奴の能力だな」


ピットは少し顔をしかめた。


「ああ、そうだ。ゼノスがさらに多くの能力を手に入れているとなると話は変わってくる。能力一つで戦局が変わるからな」


「でも、例の息子さんの力があればなんとかなるんだろ?」


ピットは僕の方を見た。


僕はびっくりして父さんの顔を見た。


「そうだな。かなり勝算は上がるはずだ。俺の息子の隆弘は、過去に戻る力である『死に戻り』の能力者だ」


父さんは僕の肩を叩いた。


僕はコクっと頷いただけで特に声を発することはなかった。


我ながらコミュ障が異世界でも炸裂してしまったなぁと思った。


「そりゃ凄いや。あの伝説の力か」


ピットは深く首肯した。


「そうだ。かつて君達の神話で出てくる戦場の女神が持っていたとされるあの力だよ」


「女神ベロナの力ならゼノスを倒すことが出来るかもしれない。いや、ベロナなら倒すまで何度も戻るはず」


ピットは僕を見ながら、僕の後ろに戦場の女神ベロナを見ているように感じた。


そう、ピットの言う通り、僕は何度も何度も過去に戻り、戦ってきた。


ここでも同じことをして、この異世界での仲間たちと一緒にゼノスを倒すんだ。


頭の中に健太、さやか、そして由美さんの顔が浮かんだ。


また、みんなに会う為にも僕は勝たないといけない。


「そうだな。きっと我々ならゼノスに勝てるはずだ」


父さんは遠い目をして大きな山の方を見ていた。


「じゃあ、俺はそろそろ行くわ。銃を大量に作らないといけないからな」


ピットが得意げに笑いながら手を振った。


「ああ、じゃあ、よろしく」


僕と父さんは、ピットのことを見送った。


ピットが去ると、父さんは僕を小川に誘った。


「ここの近くの小川付近に美味いりんごのようなものがあるんだ。少し食べに行こう」


「うん」


僕らは特に話すこともせず、小川に辿りついた。


「ほら」


父さんは木からりんごのような実を取って僕に渡した。


「ありがとう」


「食べてみろ」


父さんはそう言って、実を齧った。


僕も同じように齧ってみた。


「うぁ、美味い!」


思わず、僕は声が出てしまった。


味はりんごと桃を足したような味で香りも華やかだった。


「だろ?」と父さんは言うと、川辺の石の上に腰を下ろした。


僕も隣の石の上に座った。


「隆弘、父さんの勝手に付き合わせてしまってすまなかったな」


「えっ?」


僕は父さんの謝罪を人生で始めて聞いた気がした。


「父さんは偶然にも空間移動の能力を得てこの世界に来たが隆弘は俺によって連れて来られたわけだからな」


「うん、もういいよ。ここの人達困ってそうだし、力は貸すよ」


「ありがとう」


父さんは僕に頭を下げた。


「父さん、気になったんだけど、父さんは空間移動の能力を失ったのに、なぜあの白い部屋から僕をこの異世界に連れてくることが出来たの?」


僕はこの世界に到着した時から何となく疑問に思っていたことを口にした。


「それについては、能力を得た能力者に生じる変化について説明しないといけないな」


「うん、簡単でいいから教えてよ」


父さんは説明を始めた。


「例えば、隆弘の場合、『死に戻り』の力を得たよな。その時、『死に戻り』の能力を何度か発動していると、新たな能力に目覚めなかったか?」


「うん、高速移動能力や超回復能力を得たよ」


「そうだな。ここで言う『死に戻り』の力は一次能力と言って能力者なら誰しも使える力だ。そして、高速移動や超回復というのは二次能力と言って、理由や原理はわからないが一次能力の使用により副次的に身につく能力のようだ」


僕は黙って首肯した。


「そして、この二次能力は仮に一次能力が他の誰かに渡ったとしても残り続けるんだ」


だから、僕は神木に「死に戻り」の力を奪われても高速移動や超回復は使えたのかと思い、頷いた。


「父さんの場合は、この二次能力が自分以外のものの空間移動とテレパシーだ。だから、異世界から隆弘に干渉することが出来た。ただ、異世界と元の世界では時空が違い過ぎる為、隆弘が『死に戻り』の力によって魂の時空の移動のタイミングでしか干渉は出来なかったんだ」


「そういうことだったんだ」


僕は父さんの話を聞いて、何となくは気づいていた能力の理解が深まったと思った。


「じゃあ、ゼノスとの戦いでも元能力者の二次能力も大きな戦力になりそうだね」


「流石だな隆弘。その通りだ。俺を始めとする元能力者は二次能力を駆使してゼノスと戦う」


父さんはやや平べったい石に右手で触れてた。


すると、石は一瞬で消え去った。


「えっ!どこ?」


すると、父さんは左手から石を取り出した。


「これが二次能力のテレポートだ」


父さんはその手に持った石を思いっきり投げた。


しかし、投げた瞬間、僕の目には石が消えたように見えた。


コン!


後ろの方で音が鳴った。


僕がサッと振り向くと父さんは「物体を投げるタイミングでテレポートを使うとその移動エネルギーを保持したまま瞬間移動させることも出来る」と言った。


「すごいね。例えば、さっきの銃の弾を敵の目の前までテレポートさせると一瞬で倒せるんじゃないか?」


僕は父さんに訊ねた。


「並の相手ならそれで十分だな。相手が能力者ならその能力次第だからな」


父さんは少し難しそうな顔をした。


やっぱり、他者の能力を奪うゼノスの持つ能力の前では、テレポートという超チート技も有効かどうかは不明なわけか。


「よし、今日のメインディッシュを探すか」


父さんはそう言って立ち上がった。

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