第31話 新たな世界

「やっぱり、ここに着いたか」


僕は真っ白な部屋を見渡した。


(隆弘か…)


お父さんからの声が頭に響いた。


「そうだよ。父さん、少し聞きたいとこがあるんだ」


(なんだ?)


「今、父さんはどこにいる?」


(今は俺はいわゆる異世界というパラレルワールドにいる。だから、こういう形でしか隆弘と話すことも出来ない)


なるほど、なんとなくそんな気はしていたが、僕らの住む世界には父さんはいないんだ。


通りでいくら探しても見つからないわけだ。


「父さんはこっちの世界には戻って来れないのか?」


(今のところは無理だな。しかし、正直なところ戻る為に力を貸して欲しいと思って、隆弘に接触した)


合理的な父さんが何も理由なく僕に接触してくることはないとは思っていたが、まさか異世界から帰れないというのが理由だとは想像も出来なかった。


「事情はわかった。でも、僕は神木を殺す気はなかった。あのやり方は正直言って気に食わなかった」


(お前がチンタラしてるからだろ?俺が力を貸さなければ隆弘の方がやられていたぞ。せっかく力を取り戻したというのに…)


「父さんは何もわかってない!」


僕は幼い頃から父さんに手出しされるのが嫌だった。


しかも、父さんはいつも自分が正しいと思っている。


僕はそんな父さんのことが嫌で仕方なかった。


(隆弘、すまなかったな)


「えっ?」


意外な返答に僕は少しフリーズした。


父さんから謝られたことなんかなかったからだ。


(俺のこういうところがきっとダメだったんだろうな)


「もう、いいよ。今更。で、父さんはどうやったら僕らの世界に戻って来れる?」


(隆弘、協力してくれるのか?)


「別に僕が父さんのことを助けたいわけけじゃないからね。僕の友達がうるさいんだよ」


(そうか、その友達には感謝しないとな)


「ああ、そうしてくれ。戻ったらみんなを超高級なバイキングに連れて行ってくれ。きっと喜ぶはずだ」


(よし、約束しよう。隆弘、今からお前のことを異世界に転送する。準備はいいか?)


「準備?何をすればいいんだ?」


(心の準備だ。問題なければ進める)


「了解。大丈夫だよ」


(よし、行くぞ!)


その瞬間、周りが真っ白な光に包まれ、僕は意識を失った。



「はっ!」


僕は目を開けた。


まるで何年かぶりに目覚めたように身体が重い。


「隆弘、目を覚ましたか」


父さんの姿は、髭も伸びて少しワイルドな見た目になっていた。


「ここが異世界だ。どうだ?身体を起こせるか?」


僕はゆっくり身体を起こした。


「洞窟か?」


僕はあたりを見回した。


「ああ、そうだ。ここが異世界での我が家だな。基本的ここで飯を食べたり、寝たりしている」


父さんはそういうと、小さな壺に入った水を陶器のコップに注ぎ、手渡した。


僕は水を受け取り、口にした。


「うまい」


僕は久しぶりに水分を体内に入れたみたいだ。


身体が喜んでいる感じがする。


「無事にこちらに来れたようで良かった」


「うん、ところで父さん、何故父さんがこの異世界に来れたのに帰れなくなったか教えてくれないか?」


僕は水を全て飲み干した。


「実はな。俺はふとしたきっかけで瞬間移動の能力を得た。その力は実は時空を超えることが出来たらしく、偶然にも異世界に飛んだんだ」


「父さんも能力者だったんだ」


「ああ、そうだ。しかし、この異世界でゼノスと呼ばれる男に俺の瞬間移動能力を奪われたんだ。ゼノスの能力は能力者の能力を奪う剥奪の力だ。奴はこの世界にいる能力者の能力を奪い、この世界を支配しようとしていた」


「なんだよ。能力を奪う能力って。チートだろ?」


僕は自分の「死に戻り」も大概チートだと思っていたがそれ以上に奴がいることに驚いた。


「ああ、確かにチートだ。実際、奪った能力を使って更に強くなり、ゼノスは勢力を伸ばしてきた」


「なるほど、この異世界での魔王みたいなもんか」


僕は首肯した。


「そうだな。魔王よりも厄介かもしれんな。簡単にこの異世界について説明しておこう」


父さんは洞窟の壁を黒板のように使い、この異世界についての講義を始めた。


父さんは元々、大学の物理学の研究者なので、場所は洞窟であれどそれらしい講義が始まった。


父さんによると、この異世界は人類が誕生したとされている20万年前ごろから分岐したと見られるパラレルワールドのようだ。


この世界には、まだマンモスやサーベルタイガーのような生き物がいるらしい。


あと、前の世界の僕らも知らない生き物が沢山いて、まるでモンスターのように強い奴もいるようだ。


さらに、人類は僕らのようなホモ・サピエンスに加え、ホビットと呼ばれる小人や巨人もいるみたいだ。


文明は縄文時代から弥生時代ぐらいで止まっているようで、その理由も「死に戻り」のような異能の力が人類に授けられている為、テクノロジーをそこまで発展させる必要がなかったと、父さんは考察しているようだった。


例えば、ある能力者は作物の成長を促す力を持っていたらしく、その力で沢山の食べ物を生産していたようだ。


ただ、その力もゼノスに奪われたせいで今となってはその能力者のいた町は飢えに苦しんでいるとのことだった。


「なるほど、やっぱりゼノスという奴は悪い奴なんだな」


僕は腕を組んだ。


「ああ、ゼノスはこの世界を完全に支配しようとしている。奴に能力が集中しているが故に勝ち筋が全く見えないのが現状だ」


「でも、僕の『死に戻り』で何度も繰り返して勝つまでやるってことだよね?」


「そうだ。ゼノス帝国に対抗し、俺はこの異世界でこのエリアを中心とするニホン共和国を作り上げた。数万人規模の小さな国ではあるが、この異世界ではゼノス共和国に対抗する唯一の大組織だ」


「すごいな。父さん。ちなみにゼノス帝国は何人規模なんだ?」


「恐らく、こちらの十倍以上の規模はあると考えられる」


「それは圧倒的に不利だな。勝算はあるのか?」


「ああ、もちろん隆弘の力も当てにしているが、この異世界で俺はテクノロジーを発達させた。火薬や鉄の開発は出来たから次は銃の開発に着手している」


こういうところは流石だな。


このあまりテクノロジーの発展してないこの世界においては銃を持っていると圧倒的に有利に戦える。


「おーい、イノウエいるのかい?」


その時、洞窟の入り口から声が聞こえた。


「やぁ、ピット!もしかして良いものが出来たのかい?」


人間にしては小柄な三十代ぐらいの男性が現れた。


「こんにちは。彼が例の息子さん?」


ピットは父さんの顔を覗き込んだ。


「そうだ」


「へぇーイノウエに似ているね」


「そうか?ピット、遂に出来たのか?」


「ああ、凄くいいやつが出来たよ。イノウエ、見てくれよ」


ピットは背負ってた布袋から、ライフルのような物を取り出した。

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