第30話 捜索開始

僕とさやかは健太の家の近くの公園で、健太と由美さんと待ち合わせをしていた。


そこで、健太と由美さんは僕らに着替えを渡してくれた。


あまりにもポロポロの状態なので、このまま家に帰ると親に心配をかけてしまう。


由美さんが、そんなことを作戦の前々日に気付きちゃんと用意してくれていたのだ。


「お疲れ様。二人とも」


由美さんが涙を浮かべながら言った。


「ありがとう。由美さん」


僕は由美さんから着替えを受け取った。


僕とさやかは公園のトイレで着替えた。


健太が「はい」と僕らにキンキンに冷えたコーラを渡した。


「ありがとう」


「健太、気がきくじゃん」


さやかは真っ先にプシュッとボトルを開けて飲もうとした。


「さやか!まてまて!乾杯するぞ」


さやかは飲もうとした慌てて手を止めた。


「危なっ!」


僕らは笑い合った。


「じゃあ、本当にみんなお疲れ様!乾杯!」


健太の掛け声で皆でコーラを交わした。


これで良かったんだよな。


僕はそんなことを思いながら、コーラを飲んだ。


シュワっとした炭酸が少しではあるが僕の心にあるモヤモヤを紛らわしてくれている気がした。


「それにしても、なんで神木は消えてしまったんだ?」


健太がみんなが当然思っているであろう本題を早速話し出した。


健太はご飯の時でもすぐにメイン料理から食べ終えてしまうタイプだ。


少し雑談を挟むとかそう言った気の利き方はしない。


あんなに頭の切れる奴なのに何故だろうと僕は改めて疑問に思った。


「うーん」


僕が頭を悩ませていると「まあ、あんな不思議現象わからないよな」と言い、健太はコーラを口にした。


「いや、実は神木を倒した後、僕は『死に戻り』をしようとして実際に自分の首を切った記憶があるんだ。でも、何故かあの時は『死に戻り』出来なかった」


僕は、皆にあの時あったことをおおよそ話した。



「なるほど、だから私に聞いたのね」


さやかは深く首肯した。


「そうなんだ」


「でも、その話だとタカの親父さんが能力の発動をコントロールした気がするな」


「うん、僕もそう思う」


「井上君のお父さんは今どこで何をしているの?」


由美さんが僕の目を真っ直ぐ見て聞いた。


僕は少し目を逸らし、「実は一年ぐらい前から行方不明なんだ」と応えた。


「そうなんだ。ごめん」


由美さんは謝った。


「別に謝ることじゃないよ。元々父さんとはあんまり絡みなかったし」


「そうなんだ」


由美さんは俯いた。


「でも、こうなるとその行方不明のタカの親父さんを見つけないといけないな」


健太は何か考えがあるのか、頭の中で色々と思考を巡らしている様子だった。


「もう、父さんは良いんじゃ無いか?能力も神木という悪い奴から奪い返したわけだし、僕もこの能力を使って何かしようと企んでいるわけでもないし。ただ、悪い奴にこの力があるのが良くないと思ってやったことだからな」


僕は、コーラを飲み干した。


「タカ、本当にいいのか?」


健太は僕の心を見透かしたように言った。


「いいはずないでしょ!」


さやかが僕のことを睨んだ。


「えっ?」


「見つけるわよ!お父さんのこと!」


さやかは真剣な眼差しで言った。


「えっ!」


「何驚いているのよ!行方不明でしかも不思議な形だけど隆弘への接触があったんでしょ!じゃあ、お父さんのことを見つけるべきよ」


さやかは胸を張った。


「うん、私もそう思う」


由美さんも静かに首肯した。


「確かに、そうだな。タカの親父さんを探そう」


健太も腕を組みながら深く頷いた。


「えっ、なんでそうなるんだよ!」


「タカ、色々と親父さんとあるのはわかる。でも、気になるだろ?」


確かに気にならないと言えば嘘になる…


「よし、来週からはタカの親父さんの捜索を始めよう」


健太が勝手に方針を決めた。


「ラジャー!」


僕以外の二人はノリノリの様子で応えた。


「親父さん見つけて、そのモヤモヤを晴らそうぜ!」


健太は僕の肩を強く叩いた。


こうして僕らは僕の父さんの探索活動を始めた。


神木のアジトを見つけて倒した経験から健太はこの手のリサーチ活動が楽しくなってきたみたいだ。


まずはこの町の周辺にいないかを確認する為に、ドローンでの偵察を始めた。


しかし、神木のように活動圏内が事前にわかっていたわけではないので、そもそもこの町にいない可能性の方が高いと考えられた。


「今回はかなり難しいな」


健太は画面を睨みながら新たな作戦を考えようとしていた。


「あまりにも手がかりがない」


健太は頭を掻いた。


確かに、健太の言う通り、今回は僕の頭の中で話しかけられたことしか手がかりがない。


さて、どうしたものか…


「タカ、その『死に戻り』ってどれだけ過去に戻れるんだ?」


健太は真剣な顔で言った。


「せいぜい二十四時間ぐらいまでの過去な気がするな。状況によるけど。なんで?」


「いや、このままだと時間だけが経過して見つけることが出来ない気がするんだ。だから、タカの力で過去に戻って同じ時間を何度もリサーチすれば見つかる可能性もあるのかもなぁと思って。今のやり方だと、親父さんがA地点にいても俺らがB地点を探していたら見つからない。でも、もう一度ループしてB地点以外の場所を探せば少しずつA地点を見つける確率は上がるはずなんだ」


健太は少し迷いがあるような表情ではあったが作戦を説明した。


「まあ、確かにな」


僕は首肯しながらも、どれだけの時間を繰り返さないといけないのかと考えたが、想像もつかなくて困惑した。


「でも、やっぱりダメだな。タカに負担がかかり過ぎる。仮に生き返れるとしても何度も死ぬのは良くない。タカ、すまなかった。忘れてくれ」


健太はまた新たな作戦を考えようとしていた。


「健太、僕戻るよ。これは直感レベルの話なんだけど、また死に戻りの途中であの白い部屋に飛ばされるかもしれない。そこでもし父さんに出会えたら手掛かりが見つかるかもしれない」


僕は健太の顔を真剣に見た。


「なるほど、確かになくはなさそうではあるな。実際にその白い部屋で会話は出来たわけだもんな」


健太は首肯した。


「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」


僕は三人に言い残し、スタスタと歩いて部屋を出て行った。


そして、僕は誰の目にもつかないところで自分の首を切った。

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