第28話 絶望、そして死

「パーティクル・アクセラレーター」


殴りかかろうとした僕に神木の一撃必殺技が襲いかかった。


嘘だろ。


奴の放った光は僕の脇腹を擦り、多量の出血をもたらした。


やばい。直撃こそ免れたもののこれじゃ回復が追いつかない。


僕の超回復の能力を持ってしても神木の「パーティクル・アクセラレーター」はかなりの致命傷になる。


僕は咄嗟に神木から距離を取り、大勢を立て直すことにした。


「タカー!!!」


健太の大声が耳に響く。


閃光弾の光が周りを覆っている間の短時間にあの技を繰り出す為にエネルギーを貯めていたのか。


やはり神木、僕よりも一枚上手だったか。


やばい、血が出過ぎだ。


意識が朦朧としてきた。


その時、さやかが神木に接近し、攻め込んだ。


さやかの瞳には涙が溢れているように見えた。


「くそったれ!」


さやかは思いっきり殴りかかった。


「やめろ!さやか!」


僕が叫んだ瞬間、神木のパンチがさやかにヒットした。


さやかは数メートルほど吹き飛ばされて、床に倒れこんだ。


そして、神木はゆっくりと部屋の奥にあった机に向かった。


引き出しから拳銃を取り出し、銃口を僕の方に向けた。


まさか、神木は一回目か!


僕ら四人の中で同じ確信を得た瞬間だった。


神木は少し自慢げに笑いながら、驚く僕の顔を見ているようだった。


「奴は自分の勝利を確信しているぞ」


健太がイヤホン越しに僕に耳打ちをした。


そう、奴はこの銃を見せつけて僕らを絶望させてから殺そうとしている。


しかし、あれは健太の作ったレプリカだ。


「タカ、奴はレプリカの銃を向けている。どうやら思ってた通り、一回目みたいだ。これならまだ勝算がある」


そう、あのレプリカの銃で僕らを殺そうとするばずだ。


しかし、どうすれば勝てる?


「どうだい?絶望しちゃうよね?」


神木がおしゃべりを始めた。


「ああ、流石にこれはキツいな」


僕は神木の望む答えを言うことにした。


神木が嬉しそうにニタニタと笑う。


「いいね。その感じ」


神木は銃口を僕に向け直した。


「タカ、落ち着いて聞いてくれ。今から由美さんに神木を挑発してもらう。タカたちを殺さないようにお願いしてもらう。すると、神木のことだからその拳銃でタカを撃つはずだ。そこでタカは死んだふりをして奴が油断した隙を突く」


僕は僅かに首肯した。


「神木君!やめて!」


由美さんの声がドローンから響く。


「ほう、お前もいたのか?」


神木は由美さんのことをしっかり覚えていたようだった。


由美さんは過去の戦いで神木が母親を失ったことを聞き出し、戦いを有利に進める為に力を貸してくれた。


きっと、今回も神木の心を揺さぶってくれるに違いない。


「で、なんだ?」


神木は僕に銃口を向けたまま、由美さんに問いただした。


「神木くん、お願い。井上君をもうこれ以上傷つけないで」


「何故、そんなことお前に言われなきゃならない?」


「貴方も大切な人を失う苦しみは知っているよね?。井上くんは私にとって凄く大切な人なの」


「そんなの僕には関係ないだろ。僕だって理不尽にも母親を奪われたんだ。お前だって一緒だ!奪ってやる!」


神木が興奮し、目が赤くなるのがわかった。


「お願い!やめて!自分もやられたから他人にもやっていいってことにはならないよ!お母さんのことは本当に残念で酷いことだと思う。でも、もういないのは仕方ないじゃない!」


由美さんは語気を強めた。


「お前に何がわかる?いい加減にしろよ」


神木は怒りに支配されているようだった。


「やめて!」


神木が僕に銃口を向け直すと、由美さんが叫んだ。


バン!


神木に撃たれた瞬間、用意していた血糊を入れた袋が爆発し、飛び散った。


まるで本当の銃で撃たれたような感覚になった。


「キャー!」


由美さんの声が響いた。


僕は倒れ込み、一切動かないように心がけた。


その時、さやかが「隆弘!」と叫びながら駆け寄ってきた。


流石、さやかだ。完全に女優だな。


その様子を見た神木は嬉しそうに、さやかに銃口を向け、僕の側にさやかが着いた瞬間、引金を引いた。


バン!


さやかからも血糊が吹き出し、僕の横に倒れた。


神木が僕らに一歩ずつ近づく。


「まずいぞ、タカ。奴があの大技のタメに入った。右手が光っている」


くそ、神木の奴め。


きっとパーティクル・アクセラレーターを放とうとしているんだ。


この至近距離であれを喰らうと、間違いなく死ぬ。


「もういつでも撃つことが出来そうだ……」


暗く沈んだ健太の声が耳に響いた。


「諦めちゃダメよ!二人ともちゃんと目を閉じておいてね」


由美さんが僕らに言った。


「閃光弾!」


由美さんのドローンから真眩い光が放たれた。


「今よ!井上君!」


僕は、目潰しされた神木に一気に近づき、首筋に噛みついた。


「くそ!!」


神木は僕を払いのけると「何故、動ける!?」と動揺した様子で言った。


僕の口の中には鉄の味がしっかりこびりついていた。


「ちっ!」


神木はサッと拳銃を自分のこめかみに当て、引金を引いた。


バン!


「くそっ!偽物か!」


神木がレプリカの銃に騙されて動揺している隙に、僕はナイフで自分の首を掻き切った。



「あれ?ここはどこだ?」


僕は気がつくと、真っ白な部屋の真ん中に立っていた。


「また取り戻すとは大したやつだ」


どこかから聞き覚えのある声が頭の中に響いた。


しかし、あたりを見回しても人の気配はなく、この部屋には僕一人だけのようだった。


もしかして、この声の主は父さんじゃないか?


僕の直感がそう告げた。


「久しぶりだな。隆弘」


やっぱり、父さんだ。


「父さん、ここはどこなの?一体、父さんはどこにいるんだよ?」



ハッと目を覚ますと、神木が僕の方に向かってくるのが見えた。


「タカ!危ない!」


健太の叫び声が僕の身体を自然と動かした。


僕は神木の攻撃を避けると、体勢を整えた。


どうやら、能力は取り返したみたいだ。


それにしてもこちらに戻ってくる前に見た夢のような世界はなんだったんだ?


何故、何年も前にいなくなった父さんが現れたのか?


あれは本当に夢だったのだろうか?


そんなことをゆっくり考える余裕は当然なく、神木の手が光り輝くのがわかった。


「パーティクル・ソード!」


神木がそう言うと、彼の手刀から斬撃が飛び、さやかの方へ向かった。


「まずい!」


僕は慌ててさやかの方へ向かったが、間に合わなかった。


グチャ!


神木の放った斬撃は、さやかの身体を引き裂いた。


僕はさやかを抱き抱えた。


「おい!さやか!」


くそ、僕が油断したせいでこんなことに…


この戦いに向かう前のさやかとな会話を思い出した。


さやかから伝えられた好意。


僕はろくにまともな返事をしなかった。


くそっ、こんなのは嫌だ。


神木が迫ってくる。


僕は怒りに身を委ね、自分の喉をナイフで掻き切った。

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