第24話 そして、決戦当日

「さやかちゃん、良かったのかな?」


由美さんは少し心配そうに言った。


「大丈夫だよ。あいつ空手部で一番強いし」


「そうだね。さやかちゃん、本当に強いよね。井上君のあのスピードについて行くもんね」


「うん、さやかは僕みたいな特殊能力を持ってないから正直凄いと思うよ」


僕と由美さんはさやかの話や健太の話で盛り上がった。


「でも、もうすぐ決戦の日だね」


由美さんが少し悲しげに言った。


「うん、あと24時間後には戦っているかも」


僕はスマホの画面で時間を確認した。


今、ちょうど九時だ。


奴らが集まり出すのが八時頃なので集会が盛り上がっている九時に攻め込むことにしている。


「井上君、絶対無理しないでね」


「うん」


僕は守れない約束をしてしまった。


神木が死に戻りの能力を持っている以上、チャンスは一回しかないと思うべきだ。


無理せず引いてしまうと、奴が死に戻りをして余計に不利になる。


「あの……」


由美さんが不安げな表情から恥ずかしそうな表情に変わった。


「あの……私にとって井上君は凄く大切な人だから……絶対、無事戻ってきて欲しいの」


「えっ」


僕は由美さんの発言に心が大きく乱された。


「これだけは伝えたくて」


由美さんはそう言うと、ゆっくり歩き始めた。


これってもしかして告白ってやつか?


非モテの僕には縁のないこと過ぎて、心がざわめいた。


でも、彼女の気持ちにちゃんと応えなければ、万が一明日死ぬことになったらきっとすごく後悔するだろう。


今の僕には死に戻りの力はないのだから、二度目はないんだ。


「あの、由美さん!」


由美さんが僕の方へ顔を向けた。


笑顔なのにすごく悲しげな表情だった。


「僕は絶対神木に勝つよ!ありがとう。僕にとっても由美さんはとても大切な人だよ」


僕は渾身の勇気で由美さんの気持ちに応えた。


「うん、ありがとう」


由美さんの大きな瞳はいつもにも増して輝いていた。


僕と由美さんは歩き始めた。


道中、僕と由美さんの手と手が何度か当たった。


もしかしたらこんな風に過ごせるのも最後かも知れないと思うと、彼女と手を繋いで歩きたくなった。


すると、由美さんの方から僕の手を握った。


僕は少しだけ強く握り返した。


「由美さん、この戦いが終わったらまたケーキ屋さんに行こう」


僕は前を向き、遠くを見据えながら言った。


「うん、絶対だよ!」


「うん、絶対約束する。由美さんが沢山のケーキを美味しそうに食べるところ見たいからね」


僕は微笑みながら由美さんの顔を覗き込んだ。


「もしかして井上君、ちょっと馬鹿にしてない?」


少しムッとした由美さんが余計に可愛く見えた。


「してない、してない」


僕は笑いながら手を顔をの前で振った。


僕と由美さんは笑い合いながら歩いた。


あっという間に由美さんの家の前に到着した。


楽しい時間ほど早く過ぎ去る。


かの有名なアンシュタインも相対性理論を説明する例で良く言っていたようだが、本当にそうだと思った。


「じゃあ、また明日」


僕は由美さんに手を振った。


「うん、ありがとう。また明日ね」


由美さんも手を振り返した。



「遂に来たな」


健太は真っ直ぐ僕のことを見た。


「うん、遂に戦いだ」


僕も覚悟決めた。


「よし、予定通り神木たちはアジトに集まっている。襲撃の時刻の九時までに全ての準備を終えようと思っている」


健太はホワイトボートの前で、まるで軍隊の作戦を説明する指揮官のように話し出した。


「了解!」


残りの皆は同じタイミングでまるで兵隊かのように応えた。


一通り、健太からの説明が終わった。


そろそろ、僕とさやかは移動を始めないといけない。


「よし、いい時間だな。今、我々の想定通り、入り口には二名監視役がいる。まず、俺と由美さんでドローンで上空から偵察を行い最終確認後にタカとさやかには突撃してもらう」


「了解」


「じゃあ、タカ、さやか頼んだぞ」


健太は僕らの肩を叩いた。


僕とさやかは親指を立て「ラジャー」と言った。


「二人とも気をつけてね」


由美さんが少し心配そうに僕らのことを見る。


「うん、ありがとう」


僕とさやかは出発した。


僕とさやかが歩き始めてから10分もしないうちに健太から連絡が来た。


「あっ、健太からだ」


僕はスマホを取り出し、メッセージを確認した。


「なんて?」


さやかが少し僕のスマホを覗き込んだ。


「不審な動きはないらしいよ」


「そっか……」


さやかは少し残念そうな顔をした。


「さやか……もしかして今日の戦い怖い?」


僕はさやかの様子の変化から、さやかに限ってないとは思っていたが、もしかしたら今日の戦いが怖いのかもしれない。


「怖いはずないじゃん」


さやかは語気を強めた。


「えっ、でも、なんかちょっと様子が変な気がして」


「あんた、本当に変に勘がいいし、優しいし、最悪ね」


「えっ?意味がわからないんだけど」


なんで最悪だと言われないといけないのかわからなくて僕の頭は混乱した。


「はぁ、本当に勘がいいのか悪いのかわからないわね。絶対あってはならないことだけど、私たちは戦いで負けたら下手したら死ぬんだよ。銃を持ってるようなやつなんだよ」


「うん、そうだね。でも、僕はさやかだけでも守るよ」


「バカ!二人で一緒に助からないと意味ないでしょ!」


「うん、それはそうだけどどちらかを選ぶ必要があるのなら僕はさやかを守りたい」


僕はさやかの話の論点が見えなくて混乱し始めていた。


「あーあんたと話しているとイライラするわ。あたしの言いたかったことはこうやって二人きりで話出来るのも最後かもしれないんってこと!」


さやかの頬が少し赤くなった気がした。


「えっ?」


「何が『えっ?』よ!もっと何かないの?」


さやかが歩みを止め、僕に近づいた。


こんなドアップで見てもさやかは可愛い。


いや、むしろドアップの方が可愛い。


「うーん」


僕が困っていると、さやかがプイッと横を向き、「もういい!あんたはあたしの気持ちなんてわかってないんだから」と言い、歩き出した。


「待ってよ!さやか!」


僕はさやかの腕を掴んだ。


「ちょっと、痛いじゃない」


「あっ、ごめん」


「あたし、隆弘のことが好きなんだよ」


さやかは伏し目がちに言った。


「えっ……」


まさか二日連続で女の子から告られるとか一体僕の人生に何が起こったんだ。


「あっ、うん」


僕は返事にならない返事をした。


「もう何も言わないで。伝えたかっただけだから」


さやかはスタスタと歩き出した。

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