第23話 Xデーは明日

「隆弘、ちょっとは手加減しなさいよ」


僕とさやかは今、実戦を想定した組手をしている。


肩で息をするさやかは悔しそうな表情をしていた。


「でも、まだ能力を発動はさせてないよ」


「知ってるわよ!」


そう、僕は幾度に渡る戦闘経験のおかげで能力を発動させずともさやか以上の実力を身につけていた。


さやかが僕らと一緒に戦うと宣言してから一週間、毎晩部活後に組手をしているのだ。


「じゃあ、能力発動させなさいよ」


「えっ?手加減しろって言ってなかった?」


「いちいちうるさいわね。さっさとしてよ。こっちだって本気出すからね」


僕は怒られる意味がわからないが高速移動の能力を発動させた。


「はやっ!」


さやかが僕の右ストレートをギリギリのところでかわした。


さやかが瞬時に間合いをとったが、僕は一瞬で側まで接近した。


僕はもう一度、さやかに一発決めようと殴りかかった。


またしてもさやかはギリギリのところで僕の攻撃を避け、また間合いをとった。


すごいぞ。さやか。


まるでどこに僕のパンチが来るのか事前に予想出来ているかのように感じる。


圧倒的にスピードの差はあるはずだが、さやかは日に日に回避スキルがアップしていたようだ。


さやかはこうして数分程、僕の攻撃をかわし続けた。


「一本!」


僕はさやかの目の前で拳を止めた。


「くそっ!やられた!」


さやかは悔しそうに僕のことを見た。


あのまま殴っていたら、クリティカルヒットし、さやかは倒れていただろう。


「でも、すごいよ。さやか!かなり正確に僕の動きを読んでいたよね?」


「まあね。あんたの動きを感じることが出来るようになってきたのかも」


さやかは悔しさはあるものの少し得意げな表情を浮かべた。


「まあ、動きが読めても体力がなくなってくると流石に避けきれなくなるわね」


これなら一時的に神木がさやかと戦うことになっても、一瞬でさやかがやられることはない。


基本的に神木は僕が戦うが、さやかが神木と戦うケースだってあり得るので少し僕は少し不安だったのだ。


しかし、これだけさやかの回避力が上がってくれるときっと大丈夫なはずだ。


「じゃあ、もう一回!」


さやかと僕は実戦練習を続けた。



「ついに明日だな」


健太が胸を張りながら、作戦の概要をパソコンの画面に映した。


僕らはいつも神木達が集会を行っている金曜日の夜に襲撃を行うとことにした。


奴らは毎週金曜日の夜に皆でアジトの中央にある武器が隠された部屋に神木を含めた大半のメンバーが集まる。


扉の近くには一人、二人警備している奴がいるが事前調査の結果、他に部外者の侵入を阻止するような対策はとってないことかわかった。


「まず、俺と由美さんがドローンでアジト近くまで行く、そして周りの様子を確認する。その後、問題なければタカとさやかで入り口から一気に攻め込む」


「了解」


僕とさやかは同時に首肯した。


「今まで監視して来た結果、入り口には最大二名しかいないから、タカとさやかなら一瞬で倒すことが出来ると思う。二人が突破したら、俺らがドローンで後ろから潜入するよ」


健太は由美さんに視線を送った。


「了解」


由美さんも健太からの視線に応えた。


今回の作戦では、僕とさやかがアジトに入った後、ドローンで後方から援護してもらう形で戦おうと考えている。


健太が事前にドローンを改造しており、閃光弾が搭載されている。


これで敵の目を潰すことも出来るのだ。


「閃光弾を使うタイミングは事前にイヤホンから二人に伝えるからちゃんと目を隠すようにしてくれ」


健太はドローンを指差した。


「そして、奴らが持つ最も危ない武器は拳銃だ。拳銃は三丁あったが昨日のうちに俺とタカでレプリカにすり替えて置いた。監視カメラを見ると俺らがすり替えて以降誰もアジトには来てなさそうなのであの銃は全てレプリカだのはずだ」


「でも、他にも本物を手持ちで持ってるかもしれないわよ」


さやかが腕組みをして言った。


「ああ、そうだな。それについても一応対策はしてある。レプリカには発信器を取り付けておいたから常に一定の電波を発するようになっている。その電波をドローンが受信して目の前の拳銃がこちらが作ったレプリカかどうかは判断がつくようにしてある」


「なるほど、もし向けられた拳銃がレプリカなら健太達が私たちに教えてくれるわけね」


「そうだ」


「健太、あんたスゴイじゃん!」


健太はさやかからの尊敬の眼差しを受け、ご満悦のようだった。


「まぁな」


健太は得意げに笑った。


Xデーの前日、僕から作戦の最終確認を健太の家で行い、その後各々の家に戻った。


僕と由美さんとさやかは一緒に帰った。


「ついに明日だね」


由美さんが少し複雑そうな表情で僕に言った。


僕はその由美さんの複雑な気持ちにあえて気づかないふりをした。


「うん、あれだけみんなで準備したんだ。きっと大丈夫だよ。由美さん、援護頼むね」


僕はドローンを操縦する仕草をしながらニコリと笑った。


「うん、ごめんね。私は一番この中で力になれてないと思う」


由美さんは少し俯きがちに言った。


「そんなことないよ!」と僕が否定する前に、さやかが言葉を発した。


「何言ってんのよ!あんたがいるからこの馬鹿ども変にやる気にみなぎっているんだよ!」


「えっ!?」


思いもよらないさやかの発言にビックリしたが確かにさやかの言う通りだ。


さやかは、僕と健太が由美さんにいいカッコをみせようとしているのに気がついている。


「大体、この年代の男子なんてそんなもんよ。結局のところ女の子によく見られたいんだよ」


さやかは普段の部活でも似たような経験があったのかさも当然のように言った。


「それって役に立ってるの?」


由美さんは素直に疑問を口にした。


「それはめっちゃくちゃ立ってるわよ。男子のそういうモチベーションにはスゴイ力があるんだから!ねぇ、隆弘?」


さやかは僕の気持ちを見通したように訊ねた。


「あっ、うん、そうだね……」


僕は苦笑いを浮かべ、恥ずかしさのあまりまともな返事が出来なかった。


まあ、テレビで昔、ミュージシャンがモテたいという理由だけでここまで頑張ってきたとか言ってたので、さやかの言うことはあながち間違ってはないと思った。


そんなことを話していると、「あっ、スーパー寄らないといけないんだった!」とさやかが今思い出したかのように言った。


「じゃあ、さっさと買ってこいよ。由美さんとここで待ってるから」


「バカ何言ってんの?早く女の子を家に返してあげないとダメでしょ!」


「お前も女だろ。もう暗いんだから危ないだろ」


僕は少し語気を強めた。


「大丈夫よ!あたしはいいから早く送ってあげて」とさやかは言うと、手を振ってスーパーの中に入って行った。

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