第16話 高速戦闘

「もうやめて!」


由美さんが神木と僕に言った。


僕と神木は超高速で戦闘を繰り広げている。


神木が僕の能力を欲しがる理由が仮に母親を救うためだとしても、その為なら人を殺すことの出来る人間に力を渡すわけにはいかない。


自分だって理不尽にも大切な人の命が奪われたにも関わらず、他人の大切な人の命を奪うことをよしとしているのは、やっぱりおかしい。


僕は神木に負けるわけにはいかない。


僕の一撃が空振りに終わった時、神木は一気に間合いをとった。


「僕は母親を救うためにタカの力を欲しいと言ってるんだよ。何故、ダメなんだ?」


「お前は前の世界で僕の友人を殺した。母親を救うためでも他人を殺してまですることか?」


「へぇー前の世界ではタカの友達を僕は殺したのか。確かに僕は自分の目的のためなら手段は選ばないだろうからやるかもね」


「えっ、そんな……」


由美さんが驚いたように言った。


「由美さん、こいつはそういうやつなんだ。自分のためなら他人はどうなってもいいんだ」


「だって、あなたも理不尽にもお母さんの命を奪われたんでしょ?何故、他人に同じことができるの?」


「お前ら馬鹿か?世の中理不尽なんだよ。だか、理不尽に対して理不尽をやり返して何が悪いんだよ!」


「ああ、神木、お前の言う通り、世の中は理不尽だ。でもな。その理不尽に対して理不尽で返していたらもっと世の中は理不尽だらけになるんだよ。子供の時のお前みたいに悲しむ人がまた生まれるんだよ!」


僕は神木の目をしっかり見ながら言った。


「うるさい!黙れ!」


神木は一気に僕に近づき、腹に重い一撃を決めた。


「効くかよ」


僕は神木の腕を掴み投げ飛ばした。


「ぐはっ!」


僕は神木の理不尽に理不尽を返すといいう主張に怒りを感じ、超回復の能力が発動したのだった。なので、本来なら致命傷になりかねない攻撃だったがノーダメージだ。


神木はゆっくり立ち上がった。


「絶対、お前から奪ってやる」


神木はまた僕に近づき、攻撃を仕掛ける。


今の僕は多少の攻撃の直撃は怖くない。


しかし、神木の攻撃速度はさらに増して速くなっている。


その時、神木は僕から大きく距離を取った。


「喰らえ、パーティクル・アクセラレーター!」


神木の掌から光が放たれ、僕の腹を貫いた。


「ぐはっ!!」


「キャー!!」


嘘だろ?腹に穴が空いている。


再生が追いつかない。


口から大量の血を吐き出した。


ゆっくり近づく神木の姿がおぼろげながら見える。


神木の狙いは僕の「血」だ。


早く死に戻りをしないと奴に「血」を奪われる。


僕は持てる最後の力を振り絞って、自分の首を切った。



「はっ!」


僕は目を覚ますと、思わず周りを見渡した。


僕は今自分の部屋にいるようだ。


スマホの画面を見ると、由美さんとケーキ屋さんに行く日の朝であることを確認した。


あれは一体なんだったんだ。


超回復の力を持ってしても、あそこまでの大ダメージを喰らうと再生が出来なくなるようだ。


神木はまだあんな能力を隠し持っていたのか……


パーティクル・アクセラレーターとか言っていたな。


僕はスマホで調べてみた。


素粒子加速器?


まさか、粒子の時間経過をコントロールして加速させたのか?


「あんなチート技ありかよ」


僕は自分の持つチートを棚に上げて呟いた。


しかし、かなり神木は感情的になっていたんだろうな。


あの技を使って僕を殺してしまったら即死に戻りするリスクもあったはずだ。


僕から「血」を奪わないと能力を奪うことが出来ないようなので、先に殺してしまったら元も子もない。


僕はまた戦いに向かった。



「やぁ、タカ、僕らは会うのは何回目かな?」


神木が上機嫌に聞いた。


「いちいち数えてないよ」


「へー会ったことを隠さないんだね。すごい自信だ」


僕は隠してもやりあえばバレることがわかっているので隠すことをやめた。


「どのみちやりあえばわかるだろ?」


僕は心に怒りの炎を灯し出した。


僕は怒りを自ら引き出すことで超回復の力を発動させた。


「いいね!その感じ!」


神木はワクワクしたような表情で言った。


僕と神木はお互いにスローダウンの能力を発動させながら高速で殴り合い、蹴り合いを行った。


今のところほぼ互角だが、超回復の力によって疲れない上にダメージもほぼない僕の方が優勢だった。


きっと、このペースでやりあえば神木も埒があかないと感じ、あの大技「パーティクル・アクセラレーター」が来るはずだ。


「タカ、本当に驚いたよ。なかなか強いんだね」


神木は僕から距離をとり、呼吸を整えているようであった。


「疲れたか?」


僕は全く呼吸が乱れることはなかった。


「ああ、少しね。何か能力が覚醒しているから君は疲れ知らずなんだね。しかも、僕の打撃が当たってもすぐに回復しているよね?細胞の再生速度が大きく加速しているだろうね」


「そんなところだろうな」


「あっさり認めるんだね」


「さっさと続きを始めよう。少しは休憩できただろう」


神木がイラッとした表情を浮かべ、「お前、調子に乗るなよ」と言い放ったその時、神木の右手の掌が光った。


来るぞ。あの大技が。


「喰らえ!パーティクル・アクセラレーター!」


神木の掌から閃光が発された。


僕は咄嗟に避けることに成功した。


閃光の先にあった草むらは焼け焦げた。


「これを避けるか。まさか前の世界でこの技は把握していたか?」


「ああ、そんなところだ」


「じゃあ、こいつの威力も知ってるね?きっと君の超回復の能力もこいつの前では無意味だよ」


神木は勝ち誇ったような顔で言った。


僕はパーティクル・アクセラレーターに警戒しながら、神木に接近した。


僕には飛び道具はないので接近戦で一気に決めるしかない。


高速の攻撃を繰り返して、技を発動させる隙を与えければ有利に戦えるはずだ。


僕からの攻撃をなんとか神木はかわしながら、僕から距離を取ろうとするが、疲れ知らずな僕はどんどん距離を詰めていく。


「そんなんじゃ、お母さん救えないな」


僕は神木の耳元で呟いた。


「お前!なんだと!」


神木の目が血走った。


「お前が僕の能力を奪おうとしている理由も知ってるよ」


「一体、どうやって……僕がお前にそんな話をするとは思えない……」


神木は明らかに動揺している様子を見せた。


「お前は別に最強じゃないんだよ。状況によってはそんな話を自分からすることもあるさ」


僕は神木を精神的に揺さぶることにした。


そう、奴に冷静な判断をさせないというのも僕が勝つ確率を上げるために必要なことだ。


「そんなバカな。考えられない……」


神木は僕に少し恐怖を感じているようだった。

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