第15話 それでも戦う理由

「タカ、僕らは会うのは何回目かな?」


神木は右ストレートを僕に避けられた後、少し間合いをとった。


「どうでもいいだろ」


僕は神木を睨みながら言った。


このやりとりも何度も繰り返すとさらに苛立つ。


僕はあえて感情を隠すことなく答えた。


「その反応、かなり僕達はやり合ってきたみたいだね。これは注意しないといけないね」


神木は僕が何度も死に戻りをしているのを察したのかやや警戒しているようだった。


神木もこの死に戻りの力を持っていたのなら、わかっているはずだ。


繰り返せば繰り返すほど強くなっていくことを……


僕は神木に一発決めようと、一気に接近した。


「積極的だね」


神木は僕の拳をかわした。


僕は外しても、冷静に攻撃を続けた。


神木はヒットするかしないか微妙なラインで僕の攻撃を避け続ける。


その瞬間、神木の動きが一瞬鈍くなった気がした。


「くらえ!」


僕は思いっきり右腕を振りかぶって殴ろうとした。


その時、神木が微笑した。


「残念」


神木は僕が振りかぶった時に生まれた隙を突き、腹に拳をねじ込んだ。


「ぐはっ!!」


くそ、あの能力はまだ発動しないのか?


超回復の力さえあればこの程度の攻撃で体勢を崩すことなんかなかったのに。


発動条件は何だ?


僕は神木の攻撃が迫ってくる前に一気に間合いをとった。


「はぁ、はぁ」


体力もじわじわと減っていくのを感じた。


早く能力を発動させたいが……


やはり、怒りの感情が必要なのか?


健太が神木にやられた時に、突如発現した能力だったのでそう考えるのが妥当ではある。


神木が一気に距離を縮めてくる。


神木の高速で飛んでくる拳をギリギリのところでかわす。


「くそっ」


避けるので精一杯で攻撃に転じることが出来ない。


明らかに自分の体力が減り、動きが鈍くなっているのを感じる。


このままでは負ける。


まだ、体力の残っているうちに死に戻るべきか?


「タカ、この状況で考え事かい?余裕だね?」


神木は微笑しながら、殴りかかってきた。


危ないところだった。


コンマ数秒でも反応が遅れていたら、クリティカルヒットを喰らうところだった。


その瞬間、神木が一気に僕から離れ、由美さんの方へ走っていった。


「待て!」


まずいぞ。この展開…


神木は由美さんの首をを手刀で打ち気絶させた。


「この子に危害をこれ以上与えて欲しくなければ、タカ、血を出してもらえないかな?」


神木はニヤリと笑った。


やはり、神木の狙いは僕の「血」だ。


僕から能力を奪うのに血が必要らしい。


「さっさとしないと、この子殺したちゃうよ」


神木が由美さんの首を絞めようとしたその瞬間、僕の怒りは頂点に達した。


その怒りは僕の身体を駆け巡り、僕の身体は熱くなった。


「お前、許さないぞ」


僕はそう言い放った瞬間、神木の側にまで一瞬で移動した。


「ぐはっ!」


僕は神木の首を鷲掴みし、地面に身体叩きつけた。


一方、由美さんは意識を失ったままその場に倒れ込んだ。


僕は神木に馬乗りになり、顔面を何度も殴った。


どれだけ高速で殴っても全く疲れなかった。


呼吸すら上がらない。


超回復の能力の発動により、身体的疲労が瞬時に回復しているようだ。


「やめて、それ以上やったら死んでしまう」


目覚めた由美さんが僕の背中に言った。


僕は一瞬、振り上げた拳を止めたが、思いっきり振り落とした。


その拳は地面に突き刺さり、僕の拳は傷ついたが一瞬で再生したのを感じた。


僕はゆっくり神木から離れようとした。


その瞬間、神木が目を開け、僕の腹に蹴りを思いっきり決めた。


「ぐはっ!!」


僕は数メートル飛ばされてた。


くそっ、回復しないぞ。


怒りのボルテージが下がったせいで、能力の発動が終わったんだ。


これはまずい展開だ。


神木がこちらに接近しようとしている。


「絶対、返してもらうからな。その力」


神木は血走った目で僕を睨みながら言い放った。


「もう、二人ともやめて!」


由美さんが叫んだ。


神木と僕は由美さんからの意外な言葉に固まった。


ただ怯えて見てただけじゃなかったんだ。


僕は由美さんの強い眼差しを見た。


「やめれるか!僕はこいつから能力を返してもらう必要があるんだよ」


神木は血走った目で由美さんを睨んだ。


「能力って何?私にはわからない!争ってまで必要なものなの?」


由美さんは全く神木に怯まずに聞いた。


「ああ、必要だからこうやって戦ってるんだろう」


神木の表情が険しく曇っていった。


「でも、争うのは良くない!」


由美さんは、あの神木に怯える様子もなく言った。


「僕にはあの能力、過去に戻る力が必要な理由があるんだよ!お前に邪魔される筋合いはない!」


神木は語気を強めた。


「何故、過去にあなたは戻らないといけないの?もしかして、大切な人を失ったの?」


「うるさい!お前に関係ないだろ!」


神木はかなり精神的に揺さぶられているように見えた。


「きっと、悲しいことがあったのね。大切な人がいなくなったのかしら?」


「だから、お前に関係ないと言ってるだろ!」


僕は取り乱す神木の様子を見て、由美さんの読みがあたっていると感じた。


「その大切な人は、今のあなたの様子を見て喜ぶかしら?」


さらに、由美さんは神木を精神的に揺さぶる。


すごい、すごいよ。由美さん……


神木に腕力以外の力で勝とうとしている。


僕は由美さんの強さを感じた。


「うるさい!うるさい!」


神木は由美さんを睨んだ。


「もしかしてあなたは幼い時にお母さんを失ったの?」


その瞬間、神木の表情がハッと変わった。


まさにビンゴ。由美さんの読みが当たったようだ。


「黙れ!わかったような口をきくな!」


「そうだったのね。それは凄く辛いことだわ。私も小さい頃にお父さんが病気で亡くなったの」


神木の瞳が少し潤んだように見えた。


「もしかして、あなたが言う井上君の持つ能力があればお母さんを救いに行けるの?」


「ああ、確実にそうとは言えないが可能性はある。お前の言う通り、母さんを助けるには過去に戻る力が必要なんだ」


神木は観念したのか、由美さんと落ち着いて話始めた。


「そういうことだったのね……」


由美さんは伏せ目気味で少し考え込んでいるようだった。


「僕の母さんは事故で死んだんだ。トラックに轢かれて死んだ」


「うん」


「しかも、そのトラックの運転手は酒気帯び運転をしていたんだ」


「それは酷い話ね」


「ああ、酷すぎるよ。あまりにも理不尽なことだと子供心ながら思ったよ」


「そうね。それは理不尽だわ」


「僕は母さんが理不尽な目に遭わなくて済むように過去を変えたい。だから、タカの力が必要なんだ」


神木が僕の方へ鋭い視線を送った。


「でも、この過去に戻る力で特定の時間に戻れたことはないよ。死んでから10時間以内の時間にしか戻れたことはない。この力で君のお母さんを救えるとは思えないんだけど」


「そうだよ。タカ。君の言う通り、今の君の能力では戻れる時間は限られている。しかし、僕も未経験ではあるんだけど、この『死に戻り』の力が大覚醒を起こすと、好きな時間に移動出来るようになるみたいなんだ」


「そんなことが出来るの?」


由美さんが目を見開いた。


「ああ、しかし、その大覚醒を起こすには何度も『死に戻り』を繰り返さないといけない。タカも経験あるだろ?『死に戻り』自体だけでなく他の能力が覚醒したこと」


「うん、確かに…」


「僕と君が使っている時の流れを遅くする『スローダウン』の力も覚醒によってもたらされているだよ」


そういうことだったのか。


死に戻りを繰り返すと覚醒が起こり、新たな能力が覚醒する。


そして、その最も最強の力が任意の時間に自由自在に飛ぶ能力というわけか。


「だからね。僕はタカから能力を奪わないと大切なものが守れないんだよ」


神木はそう言って、ファイティンポーズをとった。

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