第14話 繰り返される戦い

「嘘だろ?」


神木の表情が凍りついた。


流石の僕でもこの新たな能力が神木にとって都合の悪いものだと察した。


神木は「これは誤算だ」と言った後、すぐに僕から奪ったナイフを取り出し、接近してきた。


こいつ!一気に決める気か!


やはり、神木のスピードは早い。


ナイフが頬を切り裂いた。


「くそっ」


僕は咄嗟に間合いをとり、一旦体勢を整えた。


「何故だ?」


神木が動揺しているようだった。


「確実に切ったはずだ。何故、血が出ない!」


僕は神木に切られたはずの頬を触っても何も変化のないことを確認した。


確実に切られた。


それは自分自身でもよくわかった。


でも、傷はついていない。


「まさか、一瞬で傷が再生したのか?」


神木は化け物でも見るかのような目をした。


もしや、超回復の能力を僕は手にしたのか?


それにしても身体が随分と熱い。


この能力を発動している時は体温が急激に上がるようだ。


どういう原理でこの能力が発動しているのかはわからないけど、「死に戻り」の能力に付随する能力なら、神木と僕が使える時の経過を遅める「スローダウン」の能力と同様に時間を操作するものなのか?


「まさか、身体の細胞分裂の速度を上げて一瞬で傷を再生させたのか?」


流石、神木だ。


僕と同じ能力を持つだけあって、能力の正体について考えていたようだ。


あとは能力の持続時間がどれだけ残っているかだな。


「ちょっと余裕はなさそうだね」


神木が高速で接近し、僕の腹にナイフを刺そうとした。


僕はなんとかその攻撃を避け、また距離をとった。


神木は何度も僕に攻撃を仕掛けるが、僕は多少の攻撃を受けても一瞬で回復するため、怯むことはなかった。


しかも、この能力は身体の傷だけでなく、身体的な疲れに対しても有効で即回復させることがわかった。


道理でこんなに動き回っているのに疲れないわけだ。


攻めてくる神木の方が疲れている様子で、少し隙が見えてきた。


「今だ!」


僕は神木のナイフを持つ右手を蹴り、ナイフを手放せることに成功した。


僕は手早くナイフを回収した。


次の瞬間、身体に一気に疲労感が襲ってきた。


まずい…


能力の時間切れか…


神木は僕の様子の変化に気づいたようで、僕に急いで近づこうとしていた。


一度、戻ろう。


僕は右手に持ったナイフで急いで自分の首を切った。



「はっ!」


僕は目を覚ますと、思わず周りを見渡した。


僕は今自分の部屋にいるようだ。


スマホの画面を見ると、由美さんとケーキ屋さんに行く日の朝であることを確認した。


「なんとか戻れた」


本当に危なかった。


完全に前半戦は完全に神木に僕の作戦が読まれてたせいで健太が犠牲になってしまった。


「くそっ!」


言葉では表現出来ないぐらい辛い感情が僕の胸に湧き上がってきた。


「くそっ!」


こんなにもありきたりな言葉を口にしている自分にも苛立ちを感じていた。


全てに対して腹が立つ。


僕の心は制御不能な怒りに取り憑かれたようだった。


「絶対、神木を倒す」


僕は改めて誓った。


僕は洗面所に向かい、思いっきり顔を洗った。


僕は水の冷たさのお陰で少しはクールダウンできたので落ち着いて前回の戦いを思い出した。


前回の神木との戦いを振り返ると、僕を切っても即回復し、流血しなかったのを異様に焦っていたように感じた。


まさか、「死に戻り」の能力の移動には「血」が必要なのか?


もし、そうなら僕が新たに得た超回復の能力は神木にとって都合の悪い能力だ。


あの能力も活用して血を流さないように気をつけるべきた。


そもそも、せっかく戻ったのだから、より戦いを有利に進める為に、今回会うのがはじめてだと神木に思わせないといけない。


ピロン!


スマホの画面に由美さんからのメッセージが表示された。


「由美さん、健太……絶対守ってやるからな」


僕はもう一度強く誓った。



「タカ、僕らはこれで何度目かな?」


神木は前回同様にカマをかけてきた。


「はじめてだよ」


僕はぶっきらぼうに答えた。


「それにしてはかなり僕の動きを読むのが上手い上に、憎しみを感じるよ」


確かに神木の言うと通り、今のところ神木との戦いで遅れをとってはいない。


しかし、神木が本気を出した場合、一気に戦局は変わるはずだ。


「ちょっとだけ本気を出そうかな」


一気に神木のスピードが上がる。


「ぐはっ!」


神木の蹴りが僕の腹にクリーンヒットした。


僕は数メートル吹き飛ばされた。


「はぁ、はぁ、くそっ」


やっぱり、神木は強い。


何度戦っても強い。


でも、健太が現れる前に神木を倒さないと、前回みたいに悲惨なことになってしまう。


「タカはかなり僕と戦ってきたようだね。少しやり合えばわかるよ」


流石だ。はじめて会ったかのように思わせるのはどうやら難しそうだ。


繰り返せば繰り返すほどすぐにバレる。


きっと僕の態度がそう感じさせるのだろう。


神木に対する怒りの感情が伝える気がなくても伝わってしまうのだ。


親友を、健太をあんなにも酷い目に合わせた奴に対して怒りの感情を出すなという方が無理な相談だ。


「おい!タカ!何してんだ!」


「健太…」


くそ、間に合わなかったか。


健太は漫画を片手に僕達の方に駆け寄ってきた。


その瞬間、神木がニヤリと笑うのが視界の隅で見えた。


こいつ、またしても企んでやがる。


僕は神木が健太のいる方に向かおうとしているのを確認した。


僕は神木に注意が健太に向かっている隙をついて、ポケットからナイフを取り出して自分の喉を掻き切った。



「はっ!」


僕は目を覚ますと、思わず周りを見渡した。


僕は今自分の部屋にいるようだ。


スマホの画面を見ると、由美さんとケーキ屋さんに行く日の朝であることを確認した。


死ぬ瞬間に見えた神木の驚いた顔、いや焦った表情が脳裏にまだ残っていた。


これで20回目か。


健太が神木にやられてしまう前に死に戻ることが出来てよかった。


あいつの嫌らしい性格が逆に隙となり、僕に死に戻りするチャンスを与えてしまったのだ。


どんな人間にも思考の偏りは存在する。


好みが存在する。


その傾向を掴んで手を打っていけば必ずいつかは勝てるはずだ。


僕は死に戻りという力によって無限に試行回数を稼ぐことが出来る。


このやり方がダメなら今度は違うやり方で試せばいい。


これはひたすら繰り返す。


仮に神木に勝てる確率が十パーセントしかなかったとしても、十回繰り返せば勝てるはずだ。


実際問題、繰り返す事に改善していくので十回も必要ないのかもしれない。


ピロン!


由美さんからの連絡が来た。


「待ってろよ。神木」


僕はスマホを強く握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る