第12話 強敵現る
えっ、なんで?
そう思った時には神木は僕の攻撃をかわして、僕の顔面に高速パンチを決めた。
「ぐはっ!」
僕は慌てて距離を取る。
もしかして能力が解除されたのか?
いや、僕はまだ頭痛を感じている。
つまり、時間の経過はスローになっているはずだ。
周りを見渡しても全ての物がゆっくり動いている。
「驚いているようだね。タカ」
神木が話しかけてきた。
「この力を使えるのは、君だけじゃないんだよ。強盗との戦闘を見て、すぐにわかったよ。君が時間の流れを遅くする能力を持っていることを」
神木はやけに嬉しそうだった。
同じ能力を持つ強敵の登場というところか……
神木の拳が僕の顔面を狙う。
それをなんとか避ける僕。
やっぱり、やや神木の方が早く動いているように感じる。
こりゃ、まずいな。
「その死に戻りの力を僕に返してよ」
「えっ?」
次の瞬間、神木の回し蹴りが僕の頭部にヒットした。
やばい、目が回る。
軽く脳しんとう起こしてないか?これ?
時間の流れが元に戻った。
倒れ込む僕の近くに神木がゆっくり近寄ってくる。
「僕はタカが『死に戻り』の力を持っていることを知っている。それを返して欲しいんだよ。タカはこれまで何回戻った?」
「十七回…」
僕は神木の圧に負けて、素直に答えてしまった。
「そうか、けっこうやり直してきたんだね。その結果、時間の流れを操る力も得たわけか……」
「ただ、まだ力を100パーセント発揮はしてなさそうだね。それが唯一の救いだね」
一体、この神木という男はこの『死に戻り』の力のことをどこまで知っているんだ。
大体、この能力って人を渡って行くのか?
なんで僕はこの能力を得たんだ?
しかも、いつ誰からもらったんだ?
「君は一体、誰からこの力を奪ったのかな?」
神木は首を傾げた。
「えっ?」
神木が僕と同じ疑問を口にしたので僕はフリーズしてしまった。
「どうやらタカは十七回死に戻りしたようだけど、僕とこの会話をするのは一回目じゃないかな?タカの反応を見ているとそう思うよ」
僕は一体、誰からこの力をもらったんだ?
「まあ、話したくないのならいいや。僕はその力を返してもらうよ」
神木が攻撃の体勢に入った。
僕は頭痛を感じると同時に時間の流れが遅くなったのを自覚したが、神木も同様に能力を発動させたせいでアドバンテージは相殺されていた。
「ぐはっ!」
神木のパンチが僕の腹に入る。
「タカ、もっと早く動かないと一瞬でやられちゃうよ」
超高速パンチがマシンガンのように僕を襲う。
「遅い!遅い!遅い!」
やばい、強すぎる。
僕が大勢を整える前に神木の攻撃が襲ってくる。
鬼塚とはまるでレベルが違う。
次から次へと攻撃を繰り出してくるが、動きに全く無駄がない。
こんなの勝てるはずない……
「おい、おい、おい、ちょっとは楽しませろよ!」
神木はまるでサイコパスのような笑みを浮かべながら攻撃を続ける。
くそっ、このままだとやられる……
「ぐはっ!」
鉛よりも重い拳が僕の腹を突き上げた。
次の瞬間、僕は意識を失った。
*
僕は目を覚ますと、自分が河川敷の橋の下で倒れ込んでいたことに気がついた。
「くそっ…」
僕は全身の痛みを感じると同時に悔しさが滲み出てきた。
「由美さんはどこだ?」
僕は周りを見渡した。
「まさか、神木に連れて行かれたのか?」
僕はポケットからスマホを取り出し、慌てて由美さんに電話をした。
コールが長く感じる。
早く出て欲しい…
「もしもし」
その声の主は、さっき僕をボコボコにした神木だった。
「もしもし」
「あ、タカだね。おはよう。目が覚めたかい?」
「由美さんはどこだ?」
内なる炎が僕の心の中で燃え上がり、全身が熱くなってくるのを感じた。
「今、ここにいるよ」
「無事なのか?」
「ああ、動けなくはしているけど、何も危害は加えてないよ」
神木はまるで感情のないロボットのように答えた。
その神木の様子に僕の怒りのボルテージはマックスに達した。
「絶対、許さない…」
「で、どうするの?僕らがどこにいるかもわからないのに?」
「神木、お前ならわかるだろう?戻ってやるよ。お前に勝つまで何度でもやってやる」
僕はポケットから小型のナイフを取り出し、自分の喉をさも当然のように掻き切った。
*
「はっ!」
僕は目を覚ますと、思わず周りを見渡した。
僕は今自分の部屋にいるようだ。
スマホの画面を見ると、由美さんとケーキ屋さんに行く日の朝であることを確認した。
「良かった。ちゃんと戻ることが出来た」
これで十八回目の死に戻りだ。
神木の奴め、僕から能力を奪う為に由美さんを誘拐しやがった。
一体、能力を奪うにはどんな条件が必要なんだ?
でも、由美さんを誘拐したことから、あの場で僕を殺そうと何をしようとも能力を奪えなかったというとこまではわかる。
仮に殺してしまったら、ただ死に戻るだけだし、能力を奪うことは出来ない。
神木は僕の能力をわかっているからこそ、そんなことはしない。
神木は僕の能力特性を知った上で由美さんを拐った。
待てよ。
神木は僕が怒りに任せて死に戻ることを読んでいたのか?
もし、仮にそうなら今の僕はあいつの思惑通りに戻ったことになる。
能力を奪うのに一回死に戻らせる必要があるのか?
確か前回では、神木は「僕と会うのは一回目みたいだね」的なこと言っていたな。
神木は僕が何回死に戻ったかを気にしている可能性がある。
あえて由美さんを誘拐して、僕に死に戻りさせたのなら、今回の死に戻りは神木にとって必要なイベントなわけだ。
つまり、僕がまるで神木と会うのがはじめてかのように感じさせることが出来れば、神木は前回同様に由美さんを誘拐し、僕を死に戻らせるはず。
神木に悟られるぬように何度も繰り返して神木よりも強くなる。
そうすれば、僕の能力を奪われることもないだろうし、由美さんも誘拐されることもない。
神木にはじめて会ったと錯覚させ、強くなった僕が一瞬で仕留める。
ピロン!
スマホの画面に由美さんからのメッセージが表示された。
由美さんからの連絡に嬉しさを感じつつもこれからの未来に対して怒りが込み上げてきた。
「待ってろよ、神木」
僕はスマホを握りしめて、部屋を飛び出した。
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