第11話 ケーキ屋での戦い

「ぐはっ!」


覆面の男が僕の一撃で倒れ込んだ。


時間の流れが元に戻ったはずだが、店員は完全にフリーズしていた。


「大丈夫ですか?」 


僕が店員に尋ねると、店員はコクッと首を縦に振っただけで何も言えない様子だった。


あまりにも一瞬の出来事で驚きを隠せないようだ。


「危ない!!」


由美さんが僕に向かって言った。


倒れこんだ覆面の男がナイフで僕を狙おうとしていたからだ。


「遅えよ」と僕が呟くと、またしても頭痛が始まり時間の流れがスローになった。


僕は難なく、覆面の男からナイフを取り上げ、顔面にパンチをお見舞いした。


「ぐはっ!!」


またしても覆面の男は倒れ込み、顔を押さえた。


正直言って今の僕はこの程度の奴なら余裕で倒せる。


十七回もループした僕はもはや別人クラスに強くなっていたようだ。


「この野郎!」と覆面の男は叫び、ケーキ屋さんから出ようとした。


しかし、これを見過ごすわけにはいかない。


「ちょっと待てよ」


僕は覆面の男の腕を強く掴んだ。


覆面の男は「離せ!」と言い、手を振り解こうと必死だったが、僕は早くこの男の動きを止めたいと思い、容赦なくみぞおちにパンチを決めた。


「ぐはっ!」


覆面の男は気を失い、倒れ込んでしまった。


その後は、ケーキ屋さんの店員が警察を呼んでくれていたお陰で、比較的早く警官が来てくれて覆面の男を連れて行った。



「本当に強いんですね」


由美さんが僕のことを真っ直ぐ見て言った。


彼女の瞳は大きくて輝いているせいか吸い込まれそうになる。


ケーキ屋さんは何事もなかったかのように通常営業に戻っていた。


そして、由美さんご希望のケーキバイキングを楽しむことが出来ている。


「いや、大したことないよ。とりあえず、大事に至らなくて良かった」


あんまり女子に褒められたりするのはむず痒いので紅茶を一口飲んでみた。


「だって、強盗を一瞬で倒しちゃ立たんですよ。普通に強いですよ!」


由美さんは瞳をキラキラさせて言った。


「いやいや」


やっぱり、褒められるのは落ち着かない。


僕は次に甘味でこの違和感をどうにかしようと思い、ショートケーキを口にした。


「うっ!これは美味しい!」


僕はショートケーキの美味しさにビックリした。


美味しいものは自意識過剰な僕の心のもやを吹き飛ばしてくれる。


「ですよね!ここのショートケーキは本当に美味しいんです!」


由美さんが嬉しそうにこのケーキ屋さんのショートケーキの良さを語りだした。


「まず、このいちご!ショートケーキと言えばいちごですよね。これがここの濃厚な生クリームと相性が抜群なんです!あと、このスポンジの食感!硬すぎず、柔らか過ぎず、ケーキ全体の土台となると同時に味のバランスも整えてくれます。本当に全てが調和してて最高なんです!」


由美さんはケーキのプレゼンを終えると、まるで感謝するかのようにショートケーキを口にした。


「ああ、美味しい…」


由美さんが美味しそうに食べる様子を見て僕は幸せな気持ちになれた。


こんな神イベントが今までの人生でなかっただけに、僕はこの時間の有り難さを感じた。


なんだかんだで僕らはケーキバイキングを存分に楽しんだ。


由美さんは恥ずかしがりながらも四つもケーキを食べた。


もちろん、僕は由美さんが自分自身の食欲に恥ずかしさを感じていることを察したため、頑張って五つ食べた。


「そろそろ出ようか」


「そうですね。かなり食べちゃったのでその辺を少し散歩しませんか?」


由美さんからすごく嬉しいカロリー消費の提案をもらった。


「いいね。今日はちょっと歩いておかないとダメだね」


お会計は、由美さんがお礼だからということで払ってくれた。


僕は一度は断ったが、由美さんがなかなか引き下がらないので甘んじて奢られることを受け入れた。


僕らはケーキ屋さんから近くにある川辺を散歩することにした。


すると、


「君、もしかしてさっきケーキ屋さんで強盗を倒してくれた人?」


後ろから声が聞こえた。


「ああ、やっぱり、さっき僕らを救ってくれたヒーローじゃないか」


僕に声をかけた自分は銀髪のイケメンだった。


やや大きめの白いシャツに黒のジーパンというシンプルな服装が余計に彼のイケメンを際立たせた。


「あ、はい」


「さっきはありがとう。君が強盗を退治してくれたおかげでスイーツを楽しむことが出来たよ」


急に話しかけられて僕と由美さんが驚いていると、銀髪のイケメンは話し出した。


「あ、デート中にごめんね。でも、お礼が言いたくなってね」


「えっ、デート?」


僕はデートという言葉に過剰反応してしまった。


「男女が一緒にケーキ屋に行って、その後散歩でもしてたらそれはデートみたいなもんでしょ?」


銀髪はニコニコとしていた。


「そうかな?」


僕は苦笑いで答えた。


赤の他人に急に話しかけられてスムーズにコミュニケーションを取れるほどは僕は人生を繰り返してない。


「僕は、神木っていうんだ。よろしくね。君みたいに強い人はなかなかいないから気になって声をかけてしまったんだよ」


「強いなんて。そんなことないよ」


「いや、君はかなり強いよ。なんであんなに早く動けるの?まるで君だけ時の流れが違うみたいだった」


「えっ、いや、早くないよ」


僕は秘密がバレたような気がして動揺を隠せずにいた。


いや、いつか鬼塚が言っていた「神木」という名前に動揺したのかも知れない。


僕はゆっくり後ろに下がった。


少しでも、神木と距離を取った方がよいと本能的に感じたからだ。


「君、名前はなんていうの?」


神木はせっかく広げた距離を縮めてきた。


「井上…」


「下の名前は?」


「隆弘だけど、なんで?」


「じゃあ、タカでいいね」


「えっ?」


「戦う相手にニックネームをつけるのが僕の趣味なんだ」


神木の目には小さな炎が宿り、興奮を抑え切れない様子だった。


「タカ、やろうよ」


神木がそう言った瞬間、神木の拳が僕の目の前に現れた。


僕の頬に拳がかすった。


「早いね。思った通り」


神木は自分の攻撃をかわされたにも関わらず、嬉しそうだった。


「由美さん、離れて!」


僕は咄嗟に叫んだ。


「タカ、良い判断だね」


神木がまたしても殴りかかってくる。


「お願い!勝って!」


由美さんの願いが届き、神木のスピードがスローになった。


きたきたいつもの頭痛!


これならいける!


僕は神木の攻撃を避け、スローに動く神木の腹に一発お見舞いしようと構えた。


「食らえ!」


僕は勝利を確信した。

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