第10話 そして、僕は覚醒した
「くそっ!」
僕の攻撃がなかなか鬼塚にヒットしない。
やっぱり、こいつはレベルが違う。
きっと僕の何倍もケンカという実戦を通してここまで強くなったのだろう。
「いいなぁ!いいなぁ!久しぶりだ」
鬼塚は喜びを口にした。
「ぐはっ!!」
僕の蹴りが鬼塚の顔面にヒットした。
僕はサッと間合いを取り、少し離れたところで呼吸を整えた。
「お前、すごいよ。神木さんを思い出すなぁ」
「誰だよ。それ」
神木という人物の名前は今回のループで新たに現れた情報だ。
「神木さんはお前みたいに死んだ目をしていた。でも、お前よりも圧倒的に強いがな!今のお前じゃ俺にすら勝てない」
鬼塚はバッドを振り上げ、一気に接近してきた。
「ちっ!」
僕は鬼塚の会心の一撃をギリギリかわした。
さやかが来る前に倒さないと……
もう、あまり時間がないはずだ。
くそ、ここまでか……
「頑張って!!」
遠くから由美さんの声が聞こえた。
「あなたなら勝てる!」
由美さんが大きな声で言った。
僕のことをこんなにも応援している。
てか、こんなパターンはじめてだ。
前のループまでは恐怖で動けず、ほとんど声も出せずにいたのに。
「くらぇ!!!」
僕は由美さんからの応援のおかげか、鬼塚の腹に一撃決めることができた。
「ぐはっ!!」
鬼塚は少しよろめき、僕から離れた。
その時、僕の頭に頭痛が走った。
なんだこれ?今までこんなことなかったのに……
その瞬間、鬼塚の動きがまるで亀みたいに遅くなっているように見えた。
鬼塚はゆっくりバッドを振り上げ、僕を狙う。
しかし、こんな遅いスピードでは僕に当たるはずもなく、僕は鬼塚の懐に入り、思いっきり強い拳を腹に入れた。
「ぐはっ!!」
ゆっくりと倒れ込む鬼塚の頭を思いっきり蹴った。
おいおい、なんで鬼塚はこんなに遅くなったんだ。
いや、鬼塚が遅くなったんじゃない。
時間の流れが遅くなっている。
僕に頭を蹴られた鬼塚はスローモーションのようにゆっくり倒れていく。
僕はさらに倒れようとしている鬼塚の腹にひざ蹴りを入れた。
「ぐはっ!!!」
急に時間の流れが通常に戻り、鬼塚が倒れ込んだ。
僕は頭痛も治まり、倒れ込む鬼塚を見下ろした。
一体、何が起こったんだ……
これ、もしかして少年漫画とかでよくある能力の覚醒みたいなやつじゃないか?
「なんだよ。その動き、チートじゃないか…ますます神木さん思い出すな…」
鬼塚がゆっくり立ちあがろうとする。
「隆弘!大丈夫!?」
さやかがダッシュで駆けつけてきた。
「うん、大丈夫」
今の僕ならこの鬼塚レベルなら倒せるはずだ。
「さやか、少し下がって、僕ひとりで十分だから」
「えっ?」
僕は、一瞬で鬼塚の近くまで移動し、腹を殴った。
「ぐはっ!!!」
また頭痛が始まった。
すると、時間の流れが一気にゆっくりになり、鬼塚が体勢を整えようとするのが手に取るようにわかった。
そこで、僕はもう一度、腹を殴る。
何度も殴る。
きっと、さやかや由美さんから見れば、僕が高速でパンチを同じ箇所に何度も打ち込んでいるように見えるだろう。
バタン……
鬼塚は地べたに倒れ込んだ。
「えっ、スゴい。さっき隆弘、何発腹にパンチ決めたの?見えなかった」
「十七発」
僕は冷たい目で意識を失った鬼塚を見ながら言った。
そう、僕はループの回数分だけ腹に打ち込んでやった。
「鬼塚さんがやられた!」
ヤンキーたちがビビって逃げ出す。
「スゴいよ!隆弘、めちゃくちゃ強くなってるじゃん!」
さやかが目が飛び出るんじゃないかというぐらい目を見開き言った。
「カッコいい……」
由美さんがそう小さく呟いたように聞こえた。
由美さんが小走りで駆け寄ってきた。
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、それほどでも」
僕はやっぱり女の子には免疫がないので気の利いたことは言えなかった。
「この子が助けたかった娘ね」
さやかは納得したように深々と首肯した。
「あ、えっ、その……」
僕は恥ずかしくなって言葉に詰まった。
「助けたかった?」
由美さんが不思議そうに首を傾げる。
「さやか、余計なことは言わないでよ」
「はは、隆弘照れてる」
「やめろよ!さやか!」
そして、僕は鬼塚に勝ち、このループから抜け出したのだ。
その後、由美さんから連絡先を聞かれ、お礼がしたいからスイーツをご馳走したいという内容のLINEが来た。
十七回目の人生は最高にリア充になったようだ。
*
「お待たせしました!」
由美さんが駆け足で僕の方へやってくる。
「いえいえ、全然待ってないですよ。さっき来たところです」
僕らはこれら一緒にスイーツを食べに行く。
こんな可愛い子とデート出来るなんて人生を何度もやり直して苦労した甲斐があった。
僕はそんなことを考えながら歩き出した。
隣で歩く由美さんはすごく綺麗で周りの人からの視線が僕に注がれるのが体感できた。
「ここです」
由美さんはオススメのケーキ屋さんを指差した。
「可愛らしい店だね」
絶対、男ひとりでは入れなさそうな風貌のお店だった(僕のこれまでの人生なら縁のない店だ)。
僕らは店に入ると、窓側の隅っこの席に案内された。
「ここのショートケーキが最高に美味しんです」
由美さんはニコニコしながら言った。
「へぇーそれは気になるね。なんかケーキバイキングっていうのもあるんだね?」
「はい、これは女子を困らせるやつです」
由美さんは少し顔をしかめ、バイキングメニューを凝視していた。
「せっかくだし頼んでみようよ」と僕が提案すると由美さんは首を横に振り、もう一度バイキングメニューを凝視した。
これは絶対頼みたいやつだな。
僕は由美さんの様子からそう推測した。
こういう場合は、僕がバイキングを頼むのを良い感じで誘導出来ればいいのだが、はじめての女子とのデートなのでどうして良いかわからない。
「キャー!!」
突然、女の子の店員が叫ぶ声が聞こえた。
怪しげな覆面をつけた男が店員にナイフを突き付けているようだった。
「誰も動くんじゃねーぞ!」
覆面の男は大声で叫んだ。
「なんでこんなメルヘンな店で強盗しようとしてるんだよ……」
僕は思わず、呟いてしまった。
「おい!そこのオタク!私語も厳禁だぞ!」
僕は覆面の男に睨まれた気がした(覆面のせいで本当に睨まれたかわからない)。
でも、今の僕は鬼塚に勝てるぐらいに強くなっているため、あまり恐怖を感じなかった。
さぁ、どうしたものか。
鬼塚のときみたいに時間の経過がスローになる能力が発動したら、あんな奴一瞬で倒せるだろう。
あの頭痛が起きればスローになるはずだが、肝心の発動条件がわからない。
そんなことを考えていると、目の前の由美さんが何かお祈りでもしているように拝んでいた。
「痛っ!」
僕は急に頭が痛み出したのを感じた。
まさか!?由美さんの祈りが発動条件?
確かに、鬼塚の時も由美さんに応援された時に頭痛が僕を襲い時間がスローになった。
覆面の男がゆっくりとナイフを振り回そうとしている。
これは一気に決められる展開に違いない。
そう確信した僕は一気に戦闘モードに入った。
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