第9話 何度も繰り返し強くなる

「この野郎!」


ヤンキーAとBが立ち上がり、Cと一緒に僕らの方に突撃してくる。


「遅いわね」


さやかがヤンキーCの回し蹴りをしゃがんで避け、体勢の崩れたところを思いっきり殴った。


「ぐはっ!!!」


倒れ込むヤンキーC。


次にヤンキーBが僕に殴りかかる。


「だから、遅いんだよ!!」


僕は拳をかわし、思いっきり顔面にカウンターパンチを決めた。


「ぐあああ!」


ヤンキーBが鼻血を出して倒れた。


「くそっ!!!!」


ヤンキーAが雄叫びを上げながら僕を殴ろうとする。


しかし、遅い、遅すぎる。


今の僕にはヤンキー達の動きが止まって見える。


「だから、遅すぎるって言ってんだろが!!」


僕はヤンキーの拳をさっとかわし、思いっきり腹を殴った。


「ぐはっ!」


「やるじゃん、隆弘!」


倒れ込むヤンキーAを眺めながらさやかは笑った。


「てか、今朝から思ってたけど隆弘、別人みたいに強いんだけど」


「いや、そんなことないよ」


「いやいや、そんなことあるでしょ。隆弘がヤンキーを三人も倒すなんてありえないじゃん」


確かに、一回目の人生ではあり得ないことが今起こっている。


まあ、ここまで来るのに五回も死んでいるので伊達にあの世は見てねぇぜって感じだが……


「あっ、ありがとうございます!」


由美さんが僕のことをまっすぐ見て言った。


「あの、あの、私なんてお礼を言えばわからないぐらい感謝してます。ありがとうございます」


由美さんが何故か頬を赤らめながら言った。


「いえいえ、そんな大したことは……」


僕はこんな美人に感謝されることのない人生だったので気の利いたことも言えなかった(女の子に免疫がないのは死に戻っても一緒か……)。


カッキーン!!!


その時、僕と由美さんの目の前を凄い勢いの小石のような物が通った。


金属バッドを持った大男が僕らから十メートルほど離れた位置に立っていた。


鬼塚だ……


金属バッドで小石を打ち、僕らを狙ったみたいだ。


くそっ、さっさとこの場を離れれば良かった。


「危ない!!」とさやかが叫ぶと、小石がすごい勢いで僕らの方に飛んできた。


まずい……


このままだと由美さんに当たる。


「ぐはっ!!」


小石は僕の背中に直撃した。


僕は由美さんに小石が直撃しないように自分の身体を盾にしたのだ。


「キャー!!」


由美さんが叫んだ。


またしても鬼塚が小石を拾い、僕達を狙おうとしていた。


「そうはさせるか!!!」


さやかが高速で鬼塚の目の前にまで近づいた。


「痛っ!!」


鬼塚のバッドがさやかの右腕に当たる。


さやかはサッと大勢を整え、鬼塚から距離をとった。


「この木偶の棒……案外速いじゃん……」


さやかは右手を押さえた。


まずいぞ。この展開……


僕は背中に響く痛みを堪えながら、さやか達の方へ向かった。


「隆弘、私は右腕いっちゃってるから、右サイドのサポート頼むわよ」


くそ、やっぱり折れてしまっているのか…


ごめん、さやか……


二度もこんな目に合わせてしまって……


「了解」


僕は内心と裏腹に淡白な返事しか出来なかった。


鬼塚がバットを構え、僕を殴ろうとする。


やばい、速い。


鬼塚からの一撃をなんとかかわすことが出来たが、背中の痛みもあり、長くは戦えそうもない。


くそっ、ここまでか……


鬼塚は何度もバッドを振り、僕を狙ってくる。


僕はなんとか避ける。


「こっちよ!!」


さやかが鬼塚の隙を突き、顔面に飛び回し蹴りを決めた。


「よし!」


僕が心の中でガッツリポーズを決めたのも束の間、鬼塚はまるでノーダメージと言わん様子で笑顔を見せた。


「殺す!」


鬼塚はそう言うと、先程の何倍ものスピードでバッドを振った。


コンマ1秒の差でさやかはその攻撃を避けることに成功した。


「危なっ!」


さやかと僕は鬼塚から一気に距離を取った。


「殺す、殺す、殺す」


鬼塚は呟きながらこちらに近づく。


「隆弘、あの子を連れて逃げなさい」


「何言ってんだよ!さやか!そんなこと出来るはずないだろ!」


「さっきの動き見たでしょ?このままじゃ、勝算はないわ」


「僕とさやかなら二人でなんとか倒せるって!」


「本当に隆弘は何もわかってないわね。私が時間稼ぐから二人で逃げなさいよ。私は後から追っかけるから」


「それじゃ、さやかがやられるよ」


「馬鹿!私の方が強いんだから大丈夫に決まってるでしょ!」


ごめん、さやか……


僕は絶対逃げないって決めてるんだよ。


何度も死に戻りして、もう誰かが死ぬのは見たくないだよ。


「さやか、ごめん」


僕はダッシュで鬼塚の方に向かった。


「ちょっと!!」


僕は最悪、死に戻ればいい。


だから、僕が身体を張って戦うべきなんだ。


「この野郎!!!」


僕は鬼塚に一撃を入れようと、間合いに入ったとき、バッドが僕を襲った。


あれ、今一瞬星が見えた気がする。


僕は倒れこんでしまった。


身体が動かない。


くそ、完全にやられた。


「隆弘!!!」


さやかが僕を呼ぶ声が聞こえる。


「お前も死ね!」


「キャー!!」


さやかの叫び声と人が倒れた音がした。


まさか、さやかやられたのか。


くそ、なんでなんだよ。


なんでなんだよ。


動けよ、身体。


これじゃ死に戻りも出来ないじゃないか。


動け、動け、動け!


僕は何度も心の中で叫んだ。


すると、かろうじて右腕が動いた。


僕はゆっくりポケットに入れたヤンキーAから奪ったナイフを手にし、自分の喉を切り裂いた。



ジリジリ〜!


目覚まし時計が僕の枕元で鳴っているようだ。


僕は眠い目を擦りながら、目覚まし時計を止めた。


「しくじったか……」


僕は七回目の人生をスタートさせることになった。


あの鬼塚って男め。


何度も僕たちを苦しめやがって。


次は、あのヤンキーどもは秒速で殺る。


さやかが来る前に、鬼塚も倒す。


僕はそう誓ってもう一度一日を始めた。



「こいつ、ヤバいって」


僕にノックアウトされたヤンキーAを残し、ヤンキーBとCが逃げようとする。


「おい、どこに逃げる気だ」


僕は一瞬で二人に追いつき、ヤンキーBの腹を殴り、ヤンキーCの頭を蹴り飛ばした。


あれから僕はかれこれ十回も死に戻りをした。


七回目も案の定、鬼塚には勝てず、僕はさやかが来て早々に自分の喉を引き裂き、死に戻った。


こうすれば誰が傷つくこともなく、僕は実戦を積み強くなれる。


何度も何度も死に戻りをして経験値を積んでからヤンキー達と戦うとここまで雑魚なのかと驚く。


十七回目の今の僕は一撃でヤンキー三人を倒すことが出来る。


しかし、不思議なことにヤンキーたちを早く倒せば倒すほど鬼塚は早く現れる。


僕は鬼塚と戦うことを運命つけられているのかと疑ってしまう。


「やっぱり、来たか、鬼塚……」


十六回目よりも早い鬼塚の登場に僕は驚きもしなかった。


鬼塚は金属バッドで小石を打ち、僕を狙う。


しかし、今の僕は高速で飛んでくる小石を避けながら、一瞬で鬼塚の懐まで近づいた。


「そんな球当たるかよ」


僕は鬼塚の腹に一撃入れた。


「ぐはっ!」


鬼塚は僕から距離をとり、体勢を整えた。


「お前、めちゃくちゃ良い目してるな。まるで死人の目だ」


鬼塚はニタニタと笑いながら言った。


「何度も死んだような人間の目だ。俺を見てもビビってない」


「ああ、そうだな。怖くはないな」


鬼塚は本能的に僕の死に戻りよる強さを察知したみたいだった。


「さあ、さっさと始めよう」


僕が構えると「喜んで」と鬼塚は静かに呟き、バッドを振り上げた。

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