第7話 絶望、そして死に戻り
「これはヤバいやつだな」
鬼塚とかいう大男がニタっと笑いながら言った。
「さぁ、行くぞ」
鬼塚に連れられ、ヤンキー達は「やべぇ」とか言いながら僕らの前から逃げ出した。
鬼塚はバイクにまたがり、すぐに立ち去った。
ヤンキー達は走って逃げようとしていた。
僕は倒れたさやかを両手で抱えながら、泣くしかなかった。
「私、救急車呼びます」
ヤンキーに絡まれていた女の子がスマホを取り出し、慌てて電話をかけ出した。
ああ、なんてことになってしまったんだ。
全部僕のせいだ。
僕はさやかの脈を確認した。
「嘘だろ……脈がない……」
僕は絶望感に包まれ、どうして良いかわからなくなった。
「そ、そんな……」
ヤンキーに絡まれてた彼女も膝から崩れ落ちるように座り込んだ。
*
僕とさやかは元々家が近くて物心つく前から一緒に公園で遊んでいた。
親同士も仲が良く、たまたま幼稚園まで一緒になったから更に子供同士、親同士も自然と仲良くなっていった。
さやかは今でこそ化け物のように強いが、元々は人形遊びとかが好きな大人しい普通の女の子だった。
でも、あることがきっかけでさやかは強くなろうと決心し、実際に強くなった。
小学校2年ぐらいの春にさやかが公園でボール遊びをしていたところ、男の子達がそのボールを取ろうとしてさやかを突き飛ばしたのだ。
突き飛ばされたさやかはその勢いのまま転んでしまい、膝を擦りむいてしまったのだ。
それを見た僕はすぐに駆け寄ってさやかを助け起こし、その男の子達に「さやかのボールを返せ!」と言った。
「嫌だね!」
男の子たちは笑いながら言った。
「返せって言ってるだろ!」
僕は語気を強め、男の子たちに近寄った。
「なんだよ!」
「さやかのボールを返せ!」
僕はその男の子たちとケンカをした。
僕は至る所に擦り傷を作ったが、ボールを取り返すまで諦めなかった。
「隆弘、ありがとう……」
さやかは泣きながら言った。
何度も「ごめん」と言い、自分のせいで僕がこんなにボロボロになったと思っているようだった。
それから一か月もしないうちにさやかは「隆弘みたいに強くなる」と言い、空手の教室に入ったのだった。
あぁ、さやか……
強くならないといけなかったのは僕の方だよ。
僕の方こそ強くなることを望むべきだったんだ。
ごめんよ、さやか……
僕は涙を拭くと、近くにさっきのヤンキーが落としていったナイフを見つけた。
待てよ……
僕が死ねばもう一度やり直せるんじゃないか?
いや、自殺でも死に戻りって適応されるのか?
もし、適応されなかったら?
ただ死んで終わりか?
どうする?試してみるか……
「くそ、なにビビってるだよ……」
僕は少し笑みを浮かべ、ナイフを手に取った。
「えっ……」
彼女が気付いた時には既に遅かった。
僕は自分の喉をナイフで引き裂いていた。
*
ジリジリ〜!
目覚まし時計が僕の枕元で鳴っているようだ。
僕は眠い目を擦りながら、目覚まし時計を止めた。
「戻れた……」
僕は目から涙が止まらなくなってしまったが、なんとか僕は五回目の人生を始めることが出来た。
「さやか、本当にごめんよ」
僕はベッドの上で一人で大雨のように呟いた。
まさか、あんな未来に変わってしまうなんて思いもしなかった。
僕の勝手な行動のせいでさやかを巻き込んでしまった。
でも、戻れて本当に良かった。
さやかは生きているんだ。
僕はスマホの画面を見て時間が戻っていることを確認した。
「良かった……」
また涙が溢れてきた。
今日はもう学校に行くのもやめよう。
ヤンキーと戦うのもやめよう。
仮にあの子を助けなくても誰かが助けてくれるはずだ。
脳裏に彼女の顔がちらついたが、それよりもさやかの死の方がショックが大きく、僕は何もしないことにした。
学校に行かない一日はやけに長くなるものだろうと思ったが、案外そうでもなかった。
僕はお母さんに体調が良くないから学校を休むことをメールした後、二度寝をした。
目が覚めたら11時頃でちゃんと時間は経過していた。
僕は死に戻りと思っているが、意識がなくなったり、寝たりするだけでも時間が巻き戻る可能は残されていたからだ。
しかし、しっかり時間が経っていたので、やはりこのタイムリープは死なないと発動しないらしい。
自殺でも戻れるなら、このダラダラした一日を自殺すれば永遠に過ごせるわけか……
僕はすごくしょーもないことを考え出していた。
まあ、一回やってみてわかったが自殺は良い気はしない(普通に殺されても同じだが)。
そんなこんなで、今日の僕は、いや五回目の僕はダラダラと一日を過ごした。
夕方が近づくと僕はヤンキーに絡まれていた女の子のことが気になってきた。
僕はきっと大丈夫なばずだと自分に言い聞かせて続けた。
しかし、なかなか彼女のことが頭から離れなかったので、気分を紛らわせようとテレビをつけることにした。
すると、テレビではニュース番組が流れており、三人の男子高校生に絡まれた女の子が事故死したとの報道だった。
僕は凄く嫌な予感がした。
テレビに近づき、ニュースの詳細を聞いていると……
「あの子だ……」
彼女の写真がテレビ画面に映ったのだ。彼女の名前は、田中由美というらしい。
こんなにもタイムリープしてやっと彼女の名前を知れた。
ただ、知り方がこんな形になってしまったのが悲し過ぎた。
僕はまたしても人を死なせてしまった。
田中由美さんを死なせてしまった。
僕のせいだ。
僕がヤンキーと戦わなかったせいで彼女が僕の代わりに階段から落ちて死んだんだ。
「なんでなんだよ!!」
僕は地面を強く叩いた。
「なんでなんだよ!!」
何度も強く叩いた。
拳から血が流れるほど叩いた。
僕は立ち上がり、心に誓った。
「変えてやる……絶対こんな結末変えてやる」
僕は台所に向かい包丁を手にした。
僕はゴクリと唾を飲み込み、包丁をみた。
何度も何度もあのヤンキーどもは僕や僕の周りの人間を殺した。許せるはずがない。
脳裏に由美さんとさやかの顔が浮かんだ。
グサっ!!
僕は彼女たちのことを思いながら、自分の首を切り裂いた。
*
ジリジリ〜!
目覚まし時計が僕の枕元で鳴っているようだ。
僕は眠い目を擦りながら、目覚まし時計を止めた。
「戻ったか……」
僕は窓を開けると朝日をたっぷり浴びることにした。
少しでもこの暗い気持ちをマシにしたかったからだ。
「これで六回目か」
僕は前回と前々回のループで死んだ二人のことを想った。
でも、これらの経験で自殺でも死に戻りが発動することが確認できた。
そう、何度だって死んでやり直せばいいんだ。
極端な話、奴らとの戦いの中で誰かが死ぬ前に僕が死ねば、他の誰かが死ぬのを見ることもなくやり直すことが出来る。
もう二度とあの二人を死なせてはならない。
僕は拳をギュッと握った。
僕は四回目と同様にさやかに稽古をつけてもらうことにした。
僕は元気なさやかの姿を見ると、馬鹿みたいに涙が溢れてきた。
もちろん、そんな僕の姿を見て、さやかはかなり気持ち悪がったが……
でも、僕は素直に嬉しかった。
「隆弘、なんでそんなに早く動けるの?」
さやかが驚いた様子で聞いた。
僕はさやかとの組手で素人とは思えない動きで攻撃をかわし続けていたのだ。
「ろくにケンカもしたことのない隆弘が戦闘慣れしてるように思うんだけど……」
さやかは一度、僕から距離をとった。
僕は少し笑いながら「昔、すごく強い人に稽古をつけてもらったんだよ」と応えた。
「誰よ?それ?」
「さぁ?少なくともさやかぐらいは強いよ」
「おちょくらないでよ!余裕ぶっこいてたらヤられるよ!」
さやかが僕に殴りかかってきた。
僕はその拳を流し上手くかわした。
「隆弘の癖に!」
さやかが悔しそうに僕を睨む。
僕は嬉しくて思わず、笑顔になってしまった。
だって、さやかが今生きてて、こうやって組手が出来ているんだからこんなに嬉しいことはない。
「よし、スキあり!!」
「ぐあ!!」
さやかが油断した僕に思いっきり、回し蹴りを決めた。
僕はさやかとの朝練を終えると、いつも通り、イメトレをしながら授業を受ける。
六回も同じ授業を受けると流石にほほ覚えてしまうので、不意に先生に当てられても簡単に答えてしまう。
あまりにも授業が同じせいか、それとも死に戻りし過ぎたせいか僕の時間感覚はおかしくなり、気がつくと放課後だった。
僕は迷いなくヤンキーたちのいる、彼女が待っているあの場所に向かった。
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