第5話 勝機あり!
「遅い!遅い!反応が遅い!」
今、僕はさやかから戦い方の指導を受けている。
「相手の動きが始まる前に予測しておかないと間に合わないわよ」
さやかの拳が僕の腹に入る。
「ぐぁ!」
「はい、立って!もう一回!」
さやかの一撃で見事僕は倒れ込んでしまった。
女子のパンチ力とは到底思えないぐらい強かった。
「これでも手加減してるのよ!早く立ちなさいよ!」
「ちょっ……ちょっと待って……休憩させて……」
さやかはため息をつきながら僕に手を差し伸べた。
「ほら、掴まりなさい」
「ありがとう……」
僕は差し出された手を握り起き上がる。
すると、急にさやかの顔が赤くなった。
「えっと……どうした?」
「なっなんでもないわよ!」
さやかは自分の顔を手で覆った。
耳まで真っ赤になっている。
「あんたさっき私の胸見てたでしょ?この変態!」
「見てねぇーし!」
僕は反論したが、実はさやかの言う通り、恥ずかしながら少し見てしまっていた。
さやかとは幼稚園の時からの幼馴染だが、小学校に三年生の時にさやかは引越しをして隣町の小学校に転校したのだ。
でも、高校でたまたま同じ学校になったので再会を果たしたのだ。
僕は久々に会ったさやかの成長ぶりに驚いた。
だって、完全に女になっていたのだ。
しかも、さやかは控えめに言ってもスタイルが良く、顔もけっこう可愛い。
そんなもんの胸がチラリしたら思春期の男は見るに決まってる。
「いや、見てたな!そんな雑念だらけだと勝てるものも勝てなくなるぞ」
「さやかみたいに色気のない奴の胸なんか見るかよ!」
僕はムキになって大嘘をついた。
「はあ?隆弘……マジで許さん……本気でボコボコにする!」
「ちょっと待って!」
こうしてさやかからの熱心な指導がはじまった。
*
「じゃあ、次の問題だ」
僕はさやかとの朝練を無事に終え、今は数学の授業を受けている。
それにしてもさやかのやつ……
本当に僕のことをボコボコにしやがった…
ただ、さやかとの実戦はかなり学ぶところが多かった。
有難い限りだ。
まあ、ある意味、ケンカも数学の問題のパターン暗記に近いかも知れない。
例えば、相手が右ストレートで殴りかかってきたとき、右側の頭部の守りは薄くなる。
これは人間の身体の構造上、やむおえないことだ。
つまり、パターンは発生する。
この組手のパターンをしっかり覚え、反応出来るようになれば強くなれるわけだ。
僕はさやかとの朝練の復習を授業中、脳内で行った。
確か、さやかも言ってたな。
「こうきたらこう!」と身振り手振りでさやかは戦い方を僕に教えてくれた。
さやかの教え方は少々感覚的過ぎるので、改めてゆっくり振り返るとわかることも多いのだが、やっている最中はわかりにくいのが難点だ。
「こうきたらこう!を覚えたら反応速度は上がるわよ」とさやかは言っていたが、パターンを覚えれば、相手の攻撃から生まれる隙を瞬時に突くことが出来るわけだ。
なるほどな……
僕は一人で首肯した。
「えらく納得してるようだな。じゃあ、井上!この問題解いてみろ」
「あ、はい」
さやかとの話を思い出して納得していたが、数学の先生が自分の授業に僕が納得していると思い込み当ててきた。
しかし、僕はこの授業を受けるのは四回目なので楽勝で問題を解くことが出来る。
「井上、やるな」
数学の先生は僕のパーフェクトな回答を見ると深く首肯した。
そう、奴らとの戦いもこの数学の問題のようにワンパターンで楽勝なら良いのだが……
僕はそんなことを考えながら席に戻った。
*
学校が終わると、僕は毎度のことであるがヤンキー達と戦いに向かう。
「やめてください」
四回目の彼女の助けを求める声を僕は耳にした。
「お前ら、彼女のことを離してやれ!」
僕はヤンキー達に強く言った。
「お前、誰だよ?」
ヤンキーAが僕を睨みながら近寄ってくる。
「僕が誰かどうかよりも、その子が嫌がってるだろ?そっちの方が問題だ」
「あー意味わかんねー」
ヤンキーAが本当に馬鹿なのかわからないが、僕の主張がわからないようだった。
「まあ、馬鹿にはわからないか。なら、つべこべ言わず、その子に絡むのはやめろ!」
「なんだと!テメー!」
ヤンキーAが思いっきり殴りかかってくる。
それをなんなく避ける僕。
そう、僕はこの程度の攻撃なら簡単に避けれるレベルまでには成長してたのだ。
「くそっ!」
来るぞ、ナイフ。
ヤンキーAは毎度の通りナイフを出し、僕に向かってきた。
「沸点低いな」と僕は呟きながら、ヤンキーAからナイフを奪い、道の脇にやった。
次は、全員で攻撃だな…
「おい、お前らも手を貸せ!」
ヤンキーAは、ヤンキーBとCに指示を出した。
三人で僕の方へ向かってくる。
ここからが本番か……
僕はさやかとの朝練を思い出した。
「複数と戦う場合?今の隆弘じゃ無理よ!」
「うん、無理は承知の上で聞いてる」
「普通は空手の試合でも一対一だから私も良いアドバイスが出来るかわからないけど、場所などを移動して一対一の状態に近づける方が良いと思うわね。その方が一対一での戦闘経験が役に立つと思うから」
さやかは難しそうな顔で腕を組みながら言った。
「例えば、どうすればいいと思う?」
「あえて、狭い路地などに逃げて敵を迎え討つスタイルとかかな?」
「なるほど、それは使えるな!」
「何が『それは使えるな!』よ!絶対、今の隆弘じゃ勝てないわよ!危ないことはやめなさい!」
さやか、ごめん。
そして、ありがとう。
僕は心の中で感謝を述べた。
「お前らは本当に馬鹿だな!!」
僕はあえてヤンキー達を挑発し、狭い路地の方に逃げた。
「ぶっ殺す!!」
ヤンキーAが叫び、それに続く形で皆が僕を追っかける。
「はぁ、はぁ……」
僕は狭い路地に入った。
しかも、行く先は行き止まりなので完全に背水の陣ってやつだ。
この道の狭さなら最大二対一で戦える。
「この野郎!!!」
ヤンキーAが殴りかかってくる。
しかし、僕はさやかから学んだ実戦を活かし、パンチをかわし、隙を狙い蹴りを入れた。
「くっそ!!!」
ヤンキーAに見事に僕の回し蹴りが入る。
次にヤンキーBが殴りかかってくる。
これも僕は避け、逆にヤンキーBの腹にパンチを決めた。
この状態なら順番に次々と攻撃が来るが、対応出来ないわけではない。
いける!
僕は心の中でガッツリポーズを決めた。
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