第4話 訓練しよう
「お前ら、さっさとその汚い手を離せ!」
僕はヤンキーに速攻ケンカを売っていた。
3回目にもなると慣れたものでビビることなくケンカを売ることが出来るようになった(人間って二回も死ぬと変われるもんだな)。
「なんだよ、お前」
ヤンキーAが僕を睨んだ。
ヤンキーBとCも続いて「あん」だの「うん」だの言って威嚇してきた。
「その子、嫌がってるだろ!」
「お前に関係ないだろ!」
ヤンキーAがさらに吠え、僕のことを殴ろうと向かってきた。
はい、この展開知ってますーー
僕は心の中で呟きながら、ヤンキーAのパンチをかわした。
ヤンキーAは何度も僕を殴ろうと向かってきた。
しかし、ちゃんと護身術の本で学んだ通り出来たのか、自分でも想像以上にヤンキーのパンチを上手く避けることができた。
「はぁ……はぁ……ちょこまかしやがって……」
呼吸の乱れたヤンキーAが一度、僕から距離をとり、何かを考えているようだった。
これ、ナイフ来るやつじゃないか……
「マジで怒らせやがったな!」
ヤンキーAが僕の予想通り、ナイフを取り出した。
ヤンキーAはまるで猪の如く僕の方に向かってきた。
よし、これも予習済みのやつ!
僕は護身術で学んだ通り、ナイフを避け、ヤンキーAからナイフを奪った。
「マジかよ、あいつ」
ヤンキーBが目を見開いて言った。
「くそがーーー!!!」
ヤンキーAが相当悔しかったのか、大声で叫んだ。
「おい、お前らも手をかせ!」
ヤンキーAがヤンキーBとCに指示を出す。
これは今までにないやつだ……
ちょっとヤバいかもな……
ろくにケンカもしたことない僕が三人も相手に戦うことなんか出来るか?
そんなことを考えていると絡まれていた女の子の視線を感じた。
「頑張って……」
少し距離があってちゃんと聞こえなかったが、口の動きからそう聞こえた気がした。
こりゃ出来る出来ないじゃなくてやるしかないな。
こいつら三人と戦わないと未来はない。
僕は二回も死んでるだ。
普通の人間が無理なことが今の僕には出来るはずだ。
僕はそう思い、向かってくるヤンキー三人と戦った。
一対一なら避けることができた拳が僕の腹に入る。
何度も何度も腹に入り、蹴りも食らってしまう。
「余裕だな!余裕!」
ヤンキーAが僕のことをボコボコに殴りながら笑った。
くそっ、このままじゃやられてしまう……
「やっぱり弱いじゃん」
ヤンキーBの蹴りが顔面にヒットする。
脳みそが揺れて、目が回り倒れ込んだところに、ヤンキーCが僕の腹を蹴る。
「何、お前みたいなオタクがカッコつけて正義のヒーローぶってるんだよ!うぜーよ、そういうの!」
ヤンキーAが続いて腹を蹴った。
「ぐわぁ」と吐血する僕。
それでもヤンキー達の攻撃は止まなかった。
こんなボコボコにされて死ぬのは嫌だな。
しかし、段々と意識が遠のいていく感じがする。
*
ジリジリ〜!
目覚まし時計が僕の枕元で鳴っているようだ。
僕は眠い目を擦りながら、目覚まし時計を止めた。
「くそっ、あの野郎」
いつもと変わらない自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。
「また、死んでしまった」
僕はスマホの画面を確認した。
やっぱり、タイムリープしている。
四回も同じ朝を僕は迎えた事になる。
それしても三対一で戦うのはなかなかキツいな。
あのヤンキー達はなかなか容赦なく攻撃してくる(実際、人間が死ぬまでやるのだから相当ヤバい奴らなんだろう)。
でも、まあやることはシンプルだ。
奴らに勝つまで戦い続ける。
僕は今日の放課後出逢うはずの彼女の「頑張って」を胸に秘め、学校に向かうことにした。
三回目のループで痛感したことは、今の僕はまだまだ実戦不足であるということだ。
実際、護身術を学び、上手く活用は出来たが奴らヤンキーを負かすには至らなかった。
そこで、四回目では空手部の朝練にアポなしで突入することにした。
「すまん!さやか!朝練に参加させてくれ!」
僕は幼馴染みの三木さやかに空手部の朝練に飛び入りの参加をお願いした。
ちなみに、さやかは空手部の主将だ。
女なのに男よりも強い。
さやかに組手で勝てる男は少なくともこの学校にはいない。
ぱっと見、さやかは平均的な女子の体格なのでゴリラみたいな女ってわけではないが、めちゃくちゃ強い。
つまり、さやかは腕力で強いわけではないのだ。
僕も腕力はないし、その点はさやかと一緒なので、強くなる為にはさやかのように戦闘技術を伸ばすしかない。
そこで、さやかから格闘技術を学ぶことにしたのだ。
「はぁ?弱虫の隆弘が何寝ぼけたこと言ってるのよ!」
体育館の扉の前で、さやかが自分の黒帯を掴みながら言った。
「いや、寝ぼけてないんだ。僕は強くなりたい。だから、さやかから戦い方を学びたいんだ。頼む!」
僕はさやかの前で手を合わせ、頼みこんだ。
「そんなこと急に言われても困るでしょ。私だって自分の練習をしたいし、もう少し事情を話してよ」
「わかった。全てを話すとややこしいから、要点だけ言うと、僕はある女の子を助けたいと思っている。でも、その子は強い奴らに囚われている。なので、僕は強くなる必要があるんだ」
「全然わかんないわ。その話。安いアニメかなんかの見過ぎじゃないの?」
さやかは呆れている様子だった。
「いや、僕は本気なんだ!頼むよ!さやか!」
僕はさやかの腕を掴んだ。
「ちょっと痛いじゃない……」
「ごめん……」
僕は思わず強くさやかの腕を掴んでしまった。
「わかったわ。事情は意味不明だけど、少しだけなら付き合ってあげる。その代わりアイス奢ってよね」
「もちろん!」
「わかっていると思うけど、私甘くないからね。容赦なくいくよ」
さやかは少し悪ガキのような笑みを浮かべた。
「ああ、望むところだ。そうしてもらわないと困る」
「へぇー、隆弘、いつの間にか少し男らしくなったわね」
どうやら、僕の本気がさやかに伝わったみたいだった。
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