16

「ん? 誰、そいつ」


 室内に見とれているとスラックス一枚で上半身裸の弟と見られる人が寝癖を弄り、ビール片手に歩いてくる。豪快に瓶ごと飲んでは手の甲で拭う。


「オマエ、朝からビールかよ」


「兄貴、違う違う。これ、ノンアル」


「だからなんだ。少しは体に気を使え、バーカ」


 圭祐は軽く陽佑を叱るやカウンターキッチンに向かい「ジュースでいいか?」と純夜の背を優しく手で押しながら大きな冷蔵庫の前へ。

 野菜室に何故か敷き詰められた炭酸飲料やジュース、ビール。それと野菜……一応自炊はするらしい。使いかけと腐ったのが見えた。


「陽佑、コップ取ってくれ」


「あいよ」


 圭祐は栓抜きを手に取り、ポンッとオレンジジュースの栓を抜くとコップに注ぎ入れる。「ほらよ」と目の前に置かれ、純夜は恐る恐る飲むといつも飲むオレンジとは違い、甘味と酸味のバランスが程よくさっぱりしていた。


「お、美味しい」


「高いやつだからな。この瓶、全部飲んでいいぞ。菓子も出してやる。ダイニングテーブルに腰掛けてくれ」


 圭祐が指さしたダイニングテーブルも床とは色は違う大理石。椅子も普通の家具にしては高級そうな質で思わず座ったが立ってしまう。


「大丈夫だ。汚しても怒りやしねーよ。結構使ってるし」


 トンッとコップと共に置かれたのは可愛いパステルカラーのマカロン。ピンク、緑、紫、青と一色のものから貝殻の形をしたカラフルなモノまで男にしては珍しく感じた。


「それ、大道芸してならファンから貰ったやつ。俺も陽佑も甘いのが嫌いでな。こうやって来た奴に食わせることが多い。ファンには申し訳ないけどな。菓子よりも“コレ”だから」


 ――と圭祐は“金だ”とジェスチャー。


 純夜はそれを見て「お二人は大道芸で生活を?」と疑問に思ったことを問いかけると「いいや、少しは話聞いてるだろ? アイツから」と邪悪な笑み。


「金の為ならなんだってする、


 純夜の中にあった“見た目いい人そう”な印象がこの一言で一気に砕かれる。“やっぱり悪い人かも”と思うも口には出さず、チビチビ飲み物を飲み、マカロンを小さな口でポリポリ食す。

 想像以上にマカロンは甘く一度手を止めるも“子供は甘い物好き”と思われてる気がし我慢して食べた。


「そういや、兄貴」


「あ?」


「今日、午後から大道芸の公演あるじゃん。でも、今七時だしもう少し寝ていい?」


 大きな欠伸をする陽佑だが「起きてろ。このガキを家まで護衛する」と言葉に「はぁ!?」と目が覚めたか変な声。


「えっ……あ、大丈夫ですよ。ボク一人で帰れますし……」


「いや、ガキが来る前に誰かさんとは言わないが『代金持たせるなら護衛しろ』ってダークウェブで言われてよ。面倒だがこっちも訳ありでそっちも訳あり。てなわけで、ここはお互い支えようぜってなったんだよ。流石にガキに数百万持たせて歩かせるとクソサツよりも冷や汗が出る。ここ周辺は治安が良くて悪かったりするからな。だから、さっさと着替えて支度しろ」


 圭祐はスマホを弄りながらソファーに投げ飛ばされていたワイシャツを陽佑投げ渡す。流石の兄の言葉に嫌嫌ながら納得したのか「マジかよ……護衛って。つかさ、誘拐して、誘惑して、金稼いで、つぎ込んで……兄貴、イライラしねーの?」とビール瓶を置き、愚痴吐きながら服を着る。

 陽佑の言葉に「仕方ないだろ。クズな記者やらメディアやらウザい奴らがいるんだ。消えてくれなきゃ……こっちがやられる」と二人だけの会話に純夜は静かにマカロンを噛り口を動かす。


「そういや、あのクソな自警団にガキのお守り頼んでも良さそうだな。俺達よりも年下で二十歳だっけか? もう少ししたか……やべぇー奴居るんだよな」


 淡々と二人の会話が続き、純夜は『居づらいな』と思っていると【自警団】の言葉に顔を向ける。するとわざと引っ掛けたのか「こっち向いたな」と圭祐がニコっと笑う。


「そいつ、隣の県のネットカフェに行くいるから会ってみるといい。SNSで自警団してるからネットで話すよりは実際の方が印象はいいだろう。裏はクソだが表は良いやつだからな。あと、ニートだからソイツ。気をつけな。多分、金請求させられる。それが嫌なら菓子の一つや二つ買っていけ。

 話が長くなったが……店が始まる頃に服とか買いに行くからな。昼は奢る。その後に自警団にアポ取って見るから少し待ってろ、分かったな」

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