14

【心霊スポットとして有名所Yで自殺か。心霊配信者が男女の死体を発見!!】


 数日後、大きく新聞に取り上げられた見出し。それを和也はコーヒーを飲みながら目を通す。その隣で純夜はカリカリに焼いたトーストを頬張り、リスの様に頬を膨らませていた。


「今日から仕事復帰なの?」


「あぁ、精神的に回復したからな。とりあえず部下の見舞いに行かないといけないし、お前は勉強したかったら勉強しろ。もし、嫌だったらお使いを頼みたい」


 その後、正式に和也は純夜を子として迎い入れ、負担が無いよう気を配りながら学業と向き合わせる。勉強嫌いかと思いきや何かと励む性格らしく、和也が書斎でリモートワークしているとその後ろでコツコツ勉強。ミニテストはほぼ百点、抜き打ちテストも高得点――違う意味で期待が湧く。


「午前中、勉強するから午後にお使いする」


 食べ終わったのか一人で片付け始め、さっさと教科書を開く姿に和也は笑う。


「俺はそこまで厳しくない。少しは気楽にしてろ」


「やだー。お兄さんに褒めてもらうの好きだから」


 エヘヘッと笑う純夜に「笑顔が増えたな、お前」と頭を撫でる。それに嬉しそうにスリスリとじゃれてくる純夜に「おいおい、勉強するんだろ」と手を離す。

 和也は支度をしながらメモ帳を取り出し『例の品』と短い文字。それを冷凍庫にある血液が入った袋を取り出し貼り付け、保冷バッグに突っ込む。


「純夜、俺とお前専用にダークウェブ作っておいた。もし、お使いをするなら住所と宛名を書いておくから確認しながら動いてくれ。中身は子供には刺激が強いものが入ってる。見たら首切りだからな。それと、取引相手がクセありだと思うが俺のことを話せば黙るだろう。怖くなったら電話してくれ。お使いの品は玄関に置いておく」


 勉強に励む純夜を邪魔しないようソッと玄関に置くと「それ……早く届けた方がいい?」と気になったのかついてくる。


「いや、別にいいんだが相手が夜に商売してる事が多いからな。今行っても寝てるだろうから……微妙だが昼前なら大丈夫だとは思う」


「うーん。その相手の人ってお仕事何してるの?」


 純粋な疑問に和也は子供らしいと思いつつ優しく返す。

「男兄弟二人組のディーラーとバーテンダー。あと、軽くだが大道芸人もしてる。ギャンブル好きで金稼ぎがいいと振りまくバカだが悪いやつではない。まぁ、裏カジノやってる時点で逮捕案件なんだがな」と平気な顔して話す和也に対し想像を超えていたのか純夜の顔が真っ青になる。


「こ、殺し屋? あの、好事屋さんみたいな……」


「いや、アイツラは別。属してない……ん? 属してるか。そんなに来ないんだよな。いつもスパコメで金バンバン飛ばすから」の和也の言葉に「あぁ!!」と純夜が声を出す。


「あの時……【血でカクテル】って言った人?」


「あぁ、よく分かったな。あれは多分、兄の方だろう。弟は兄の指示にしか従わない犬みたいなやつだからな。隣でワンワンしてんだろうな」


「わ、ワンワン……大人だよね、その人」


「二十後半の三十近く。一応最低限の常識はある奴だから平気だ。弟はバカだが兄は優秀」


 純夜の不満そうな顔に和也はSNSを開くや「この二人だ」とプロフィールを見せる。それは大道芸人を発信させる専用と二人で一つ仲良く使っているアカウント。

【大道芸人の新星 赤羽根あかばね兄弟】

 双子コーデなのか写っている男性はショートヘアで同じ髪型。色は違うがワイシャツ、ベスト、スラックス、ネクタイ、ビジネスシューズとモデルのようなスラッとした体型。見るからに爽やかイケメンな雰囲気。


「本当にこの人?」


「あぁ、騙すのが慣れてるからそう見えるだけで“素はクズ”だからすぐ分かる。スクショ送ろうか?」


「うん。お兄さんの知り合いさんの顔覚えないと怒られそうだから欲しい」


 酷い躾。いや、暴力の経験からか純夜は無意識に和也の周囲を把握しようと情報を欲しがる。その癖は配信が終わったときに「常連さんって」と言う言葉で察した和也はホイホイと情報はやらず“お使い”で少しずつ関係を教えようと考えた。


「知らなくていいこともある。変に聞くな。もう。お前は自由なんだぞ」


 メールでスクリーンショットを送り、受け取ったのかスマホを見つめる純夜の悲しそうな顔に“友達が欲しいのか”と勘が働く和也。

 腕を組み、うーん、と悩むように知り合いの年齢と純夜の年齢が近い人を探す。思い当たる節はあるが相手が頻繁に姿を見せてくれる人ではなく、この件は一旦保留へ。


「お兄さん、すごい眉間にシワ寄ってる」


「んぁ?」


「あっごめんなさい……」


 ぺこっと謝り、リビングに戻る純夜に聞こえぬよう「トモダチ、か。そうだよな。そういう年頃だよな」と和也は苦笑いした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る