13

 強制退去を受け、和也同様弾き出されると「アイツ、そうやって話すのな」と後ろから画面を見つめる姿にサッと隠す。


「痕跡消そうとしたがアイツ自身が消してくれたらしい。親切なのか、不親切なのかは知らないが……弾かれたのはビビった」


 スマホを弄り、やることがなくなったのか和也は純夜を見ると「動画見てみろ。オレには見えないようにされてたから」と自らティーをカップに注ぐ。先程はたくさん砂糖を入れたがミルクのみ。


「グロ、ゴア平気ならの話だが……」


 純夜は恐る恐るコピペしていたアドレスを検索にかけると『晒し人を自殺に追い詰めてみた』『クズを殺してみた』『ストーカーにストーカーして殺害してみた』と表の動画サイトではない裏の動画サイトへのリンクだった。

 しかも、モザイク無しの生々しい動画もあれば殺害を生配信したモノまで”異次元“すぎる場に口が開く。


「待って……これって……」


「あぁ、殺しだな。しかも【クズばかり狙った】殺し。アイツはそうでも俺の場合は……晒しと社会的な死が多い。そいつよりは可愛いもんだろ」


 ふぅ……と途中で辞めていた電子煙草を改め咥え煙を吐くやニヤリと一言。


「ようこそ、裏業界へ。俺は君を歓迎するよ。カフェで契約してくれたよな? 消えてほしいってなら大歓迎だ。今更『無しだ』なんてのは聞かない。実行させてもらう」


 悪魔のような笑みで純夜を見る。いつもと違うスマホの震えに和也は「どうやらお前の親を捕まえたらしい。そろそろ家に帰って配信準備でもするか」と煙草をしまい、ティーを飲み干し代金をデスクの上に置く。


「帰るぞ、高校生。



          *



 純夜を連れやってきたのは和也の自宅。鍵を開け、堂々と入る彼とは違い純夜はオドオドしながら

「失礼します」と踏み入る。


「リビングに荷物置いて手洗いうがい、適当に見て回って終わったら話しかけてくれ」


 和也に言われるがまま小走りでリビングに行き、必要最低限しかないスッキリした空間に目を丸める。どうやら何か想像と違ったらしい。


「綺麗……」


「何が」


「家」


「はぁ?」


「汚いと思ってた」


「基本、残業やら署で資料管理やらあまり家には居ないんだ。だからだろ」


 和也のやや不機嫌な声に逃げるように室内を回っては洗面所を見つけ手洗いうがい。その隣に浴室。階段の横にトイレ。ニ階に上がると右手壁側にクローゼット。左手にトイレ。廊下を歩くと小部屋が三つ。手前は書斎か。資料だらけで次の部屋は寝室。一番奥は鍵が掛けられ開かない。

 気になりドアノブを掴もうとすると「そこは配信部屋と裏業界関連の部屋。お前が入るとややこしくなるから入るな」と和也後をついてきたのか背後からの声に純夜は背筋を伸ばす。


「い、いつから居たんですか!!」


「ウロウロしてる時からだ。お前の部屋はリビングの隣の和室な。敷布団とかテーブルとかあるから勝手に使え。あと、夜の二十一時台にお前の荷物が全て届く。管理は自分でできるな?」


「え?」


「こっちの気配でお前は俺の子。ったく……少しは感謝しろ。孤児院とかそっちがいいのなら流すが」


「こ、此処でいいです!! 何でもするので……自炊は下手だけど……が、頑張ります」


 新高校生にしてはハッキリした答えに「、か。通信制でリモート可能な高校にしてやるから俺の裏仕事も手伝え」と鍵を取り出しドアを開ける。

 部屋の中の左右には本棚がギッシリと敷き詰められ管理されたファイル。窓はカーテンが閉められ薄暗く、ドア横の中央壁には机とパソコンが数台と関連機材とゲーミングチェア。


「此処でアバター使って配信してる。外でやるときはアプリだが……。俺のパソコンは訳ありだらけでお前には任せられない。だから、お前用に後でパソコン買ってやる。必要なデータと設定を施して。学業用のはiPadでいいよな?」


「い、いいの!? すごくお金かかるのに……」


「あぁ、使い道ないからな。その代わりたっぷり働いてもらうからな」


 優しそうな表情だが口から発する言葉はなんとも邪悪。和也の良い人そうで悪そうな曖昧な気配に純夜は呑まれる用に頷くや和也はスマホを見ながらファイルを抜き取り、純夜に見せる。


 それは【純夜の親の記録】。


 和也が暇なときに仕事をしているふりしてこっそり調べ、純夜のスマホのデータからメールを作成しウイルスを添付して親へ送信。親のメールでのやり取りアプリでのやり取り、電話の通話記録と全てハッキングし解析した結果がそこに書かれていた。


 “養子数人死亡。保険求めで殺害”


 強調するように書かれた文字に純夜は言葉を失い、静かにファイルを閉じる。ギュッと力強く握る姿は怒りが満ちていた。


「僕、殺されるために……金のために存在してるの?」


 震えながらも苛立ちある声に和也は「あぁ、お前はアイツらからしたら“モノ”なんだよ」と挑発するとファイルを投げ捨て和也の胸に飛びつく。Yシャツを力いっぱい握られ、さり気なく感じる冷たい感覚にソッと和也は純夜の頭に手を置く。


「時刻は未定だが深夜帯に配信予定。晒し相手はお前の親。【社会的な死を与えて絶望に落とす】。でも、いつもと少し方向性が違う。“晒しだけではなく罰を与え、同害報復ではないが似たようなこと”をする予定だ。お前、配信やってみるか?」


 和也の言葉に純夜は――泣きながら頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る