10

 和也は席を立ち純夜を座らせ、軽くデスクに腰掛ける。


「ルールはキングを奪ったら勝だ。さっき言い忘れたが一つ決まりがあってキングをマスに置くときは白いキングは白マス。黒いキングは黒いマスに置く。将棋とは少し違うから駒の動きはやりながら教えてやる」


 そういうや和也はクイーン前のボーンを2マス前へ。


「【ポーン】は初手だけ2マス進める。それ以降は1マス。向かい合った場合は正面の敵は取れない。取れるのは斜め前の相手。たまに暗殺みたいに通りながら取られることがある。それを〘アンパッサン〙という。あと、相手一番奥にたどり着いたときのみ〘プロモーション〙キング以外の駒になれる。弱い駒だが意外と重要なんだ」


 純夜は和也の話を聞きながら真似するように駒を動かす。それを見た和也は違うポーンをまた一つ前へ。


「【ナイト】は縦に2マスその両隣、横に2マスその両隣に移動できる。相手の駒は取れ、自分の駒を飛び越すことが出来る。自分の駒の場所には置けないがな。

【ルーク】は縦横自由に好きな分だけ動かせる。通り道に相手の駒があったら取れる。だが、自分の駒を飛び越したり、駒の場所にはおけない。

【ビショップ】は斜め前に自由に動ける。相手が通り道にいたら取って留まる。あとは、ルークと同じだ」


 覚えることの多さにやや純夜の表情が曇る。将棋より簡単という人もいるが複雑なのはチェス。頭が痛くなるのは承知の上。


「【クイーン】は駒の中で一番強い」


「え? お兄さん、さっき【キング】って……」


「それは【立場】はって話だ。動きとなると【クイーン】が強い。動きはルークとビショップを併せたもの。通り道の駒を奪えるが自分の駒を飛び越えたり、駒ある場所には置けない」


「じゃあ、【キング】の動きは?」


「人によって見え方は変わるが【キング】は戦うよりは逃げる側。うまく【キング】以外の駒を使い守ってもらう。動けても攻撃される場所に置くのは無し。何を犠牲にしても守らなければいけないものだ。動きは前後ろ左右に1マスずつ」


「よ、弱い……」


「だから、頭を使うんだ。ルークでキングの場所を入れ替える【キャスリング】という技があるんだが条件がいくつかあるからな。お前が使えそうになったことに話してやる」


 ザックリとした説明に純夜は戸惑いながらも駒を動かす。それを邪魔するように【ポーン】で無言で奪うやムッとされ紅茶を飲むふりして笑う。


「お兄さん強い」


「遠慮してやれと言われても“”だろ。俺だって馬鹿じゃないんだ。切り捨てるものは切り捨てる」


「え?」


「今は分からなくても後で分かるさ。本当はマス目の呼び方とかも教えてやりたいが、それよりも覚えてほしいものがあるから辞めとく」


 黙々と駒を進め、和也は純夜のポーンを何個も奪いルークやビショップで攻める。気軽にやるつもりが力が入り「チェックメイト」と静かに口ずさむ。


「あれ……いつの間に」


 純夜の【キング】の前には何もないが離れて見ると【クイーン】と【ルーク】、プロモーションクイーンの役職となった【ポーン】があった。


「まぁ、最初はそんなもんだろ」


 和也は角砂糖を口の中へ放り込み、シャリシャリと噛み砕く。「うぅ……もう一回!!」と拗ね諦めの悪い純夜。しかし、「駄目だ」ともう一つ角砂糖を口の中へ飴のように転がしながら和也は返す。

「なんでよ」と頬を膨らませる彼に「これよりも覚えてほしいのがあるって言ったろ」と軽く怒り気味の声で返しては「恭一、紙とペン貸してくれ」と深呼吸しつつティーを飲む。

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