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 コンコンコンッと両開きのドアをノック。数秒して艷やかな黒いロングヘアーの女性物の燕尾服に身を包んだ。いや、女性と言ったらいいのか。さては【女装男子】か。上品なお辞儀をし出迎えると「お待ちしておりましたって……キャッ血!? どうしたの? 横の子は誰?」とびしょ濡れの和也と純夜を見て瞬き。


「俺は事件に巻き込まれて部下の血に触れた。隣の学生は訳ありだ。悪いが人格がネジ曲がりそうなんでボロくそ言われたくなかったらガキを先に部屋に案内してくれ」


 和也は一歩踏み出すや壁に手を付き、荒い呼吸を整えようと深呼吸。純夜は和也の様子のおかしさに引き気味に店内に入るや「お兄さん……大丈夫?」と声かけられる。


「離れろ、殺したくなる」


 殺意ある言葉に純夜はビクッと体を震わせると「子供を怖がらせちゃ駄目よ。警察でしょ、しっかりしなさい」と男装女子が純夜の手を引く。


「私は磯ケいそがや 叶愛かなめ。此処で働いてる女装好きな男子。男だと名前は奏人かなとなんだけど気に入らなくて。かなめちゃんって呼んでね!!」


 優しく可愛さに惚れなさいと言わんばかりのウィンクを叶愛がすると「気をつけろよ、ガキ。ソイツ中身糞だから」の和也の言葉に「クソはテメェだろ!!」と女らしい可愛げがある声が一変、男らしくなる。


「えぇ!? な、なんか……個性的な人ですね……」


 場に馴染めず困惑している純夜に気づいたのか「あらやだ、ごめんなさいね。このクズが酷いこと言うからー。ささっお部屋案内するわね」と純夜の手を優しく引っ張る。


「そいつの代金チャージは俺が持つ」


 横を通りすぎると和也が咳き込みながら苦しげな声で言う。


「なによ、カッコつけ? ダサくなーい?」


「この糞。そいつに変に手出ししたら殺す」


 今にも倒れそうな和也に叶愛は「満身創痍の人には言われたくない。そこで待ってなさい、ガラクタ」と仲が悪いのか飛び交うの暴言。

 和也はシックなモノクロトーンの壁に凭れ、ズルズルと力なく座り込むや「例のターゲットがうまく捕まらない。もう少し時間をくれ」と今度は低く大人びた声。


「時間なんてどうでもいい……楽にさせてくれ」


「ハッ暴言吐きまくって疲れたのかよ。おい、大丈夫か?」


 ヒョイッと顔を覗き込むは和也よりも少し年上で細身ながらもガタイのいい男。電話を掛けた際に不在だと言われた恭一だった。


「ん? ……何かあったか。精神的に参ってるのが見て分かる。ハーブティーブレンドしてやるから動けるか」


 動こうにも力入らぬ体に「肩貸してくれ」と弱気な声。和也の情けない声に「死んたのか」と鋭い矢が胸に刺さる。


「お前、死神に取り憑かれてんじゃねーの? ほら、前だって俺らの組に来たときもよ。“ナーカーマ”殺されたよな。それも惨たらしく、お前の目の前でズタズタになって血でベチョベチョで……」


 思い出さぬよう薬で抑えていた記憶を呼び覚まされそうになり、恐ろしい形相で和也は乱暴の恭一の腕を掴んては向かいの壁に押し付けた。護身用で所持していたハンドガンをショルダーホルスターから引き抜き、銃口を胸に突きつける。今にも殺しそうな勢いで引き金に指を添えるも安全装置で引かれることはない。


「おいおい、怒んな。っか、それで殺そうとしたクズ警官が悪い。お前を利用して相棒を殺したんだ。まさかまだ自分を責めてるのか? 止してくれよ。何年前の話だ」


 恭一は呆れ顔をしつつ顔色一つ変えず銃身を右手で掴む。「玩具しまえ。ガラじゃないだろ」と言うや左手で和也の手首を掴んでは離せと捻る。それに咄嗟に反応した和也は右手で恭一の手を掴み、振りほどこうと抵抗。


「なんでお前が来ると遊ぶ羽目になるのかねぇ!! 裏の人間舐めてんのか!! クソサツが!!」


 頭を冷やせ、と目に見えぬ速さで恭一に足をかけられ、バランスを崩すも和也はグッと堪える。それでも強引に腕を引かれ、耐えられず投げ飛ばされるも和也は恭一の肩に手を乗せ、体を捻り無理やり着地。


「おぉ……やるねぇ。さすが現役。でも――」


 恭一の手には体を捻った際に隙を見て奪われた銃。安全装置を外しニヤッと邪悪な笑みを浮かべ構えるも”それ“を【鉄の棒】が弾き飛ばす。


「あー悪い。聞こえなかった。何か言ったか?」


 和也はお返しと言わんばかりに見下す表情。彼の手にはスチール製の警棒。ガタンッと壁に当たり、落ちる音に両者顔を合わせては恭一が「手を掠った」と静かに言う。手を擦り、少し赤くなった親指の付け根辺りに手を添える。


「あ? 当ててはないだろ。お前が銃を向けたのが悪い」


「そのまんま返す。元はと言えば悪いのは引き抜いたお前だろ」


 小さな言い合いに「ごもっとも」と和也が折れ、警棒をレッグポーチにしまい銃を拾う。

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